第8話 頼れる人

 荷物を置きたかったのもあり、まずは宿屋を決めることにした。


「とりあえず宿屋はここでいいか?」

「なんであなたが決めているのよ」

「二人で泊まれるらしいからな」

「はぁん!?」


 お金を持っていないレイヴンに野宿をするように伝えたら、宿屋の店主に彼を殺す気かと怒られてしまった。

 魔王国は標高が高いため、日中と夜中では全く違う姿を見せる。

 その状況で野宿させるなら、死ねと言っているようなものらしい。

 それなら尚更、銀狼族の家に置いておけばよかったと後悔してきた。


 部屋毎の値段になっているため、何人泊まろうが構わないらしい。

 気づいた時には宿屋は決まっており、レイヴンと同じ部屋で寝泊まりすることになっていた。


「次はお店の場所だな」

「だからなんであなたが決めるのよ」


 さっきまで私の後をつけるように歩いていたのに、今はスタスタと数歩前を歩いていく。

 一体彼は何がしたいのだろう。


「ここで聞けば良さそうだな」

「商人ギルドかしら?」


 目の前に大きく商人ギルドと文字が書かれた看板があった。

 私の国では貴族かよほどお金がある家庭でしか教育されないため、文字が読めない。

 レイヴンは文字が読めるように教育された人のようだ。

 益々あまり関わらない方が良いような気がする。


「先に行くぞ」


 中に入ると値踏みをするような目で私たちを見ているのがわかる。

 魔王国の中で人族って珍しい存在だし、この町では散々なことをしているから仕方ない。


「どこかに商売ができるような建物はないか? できればそこに住める環境があれば良い――」

「はぁん? 人族がここに住むのか?」


 やはり人族に対しては印象が悪いようだ。

 商売や土地に関しては商人ギルドで契約する必要がある。

 だから、彼らを通さないとお店やここに住むことすらできないのが現状だ。


「ならここでどうだ?」


 商人ギルドの人は土地の場所と値段を示した紙を取り出した。


「お前舐めてるのか?」


 サラッと見ただけだが、あまりの高値でふっかけられたのだろう。


「それならここでの商売は――」

「これって布紙ですか?」


 そんな彼らとは違い、私は初めて見る布紙に興味津々だった。


「姉ちゃん、布紙を知っているのか?」


 基本的に紙と言ったら、動物の皮で作られるのが一般的だ。

 そんな世の中で植物を使った布紙は、安価で大量生産ができると紙業界では話題になっている。

 それを読んだのも本の中だったため、本当に布紙が存在しているとは思いもしなかった。


「布紙は魔王国が発祥だって知っているか?」

「そうなんですね!」

「表向きは別の国って言われて――」


 その後も布紙の話に盛り上がっていたら、レイヴンはしばらく静かにしていた。


「また明日来てくれたら準備をしておく」


 再度明日には良さそうな土地を探してくれることになった。

 やっぱり魔王国の人々は優しい人たちが多いのだろう。

 


「何事も話し合うところから始めるのは大事ね」


 さっきまで前に出ていたレイヴンは今じゃ静かに隣を歩いている。


「力になれずすまない」


 彼にとったら己の力で強引に解決するのが日常だったのだろう。

 前の横暴な姿はなく、どこかしょんぼりとしている姿は本当の彼らしさを感じた。

 それにずっと張り切っていたのも、私のためにやっていたのは理解している。


「女性一人では解決できないこともあるので、その時には手伝ってくださいね」

「ああ、それなら俺が守ってやるよ」


 唐突な言葉に私は足を止める。

 きっと彼は何も考えていないのだろう。

 何か危険なことがあったら、力で解決しようとしているだけなのかもしれない。

 だけど、今まで貴族として勉強し、誰かに守ってもらうことも、守ってやるとも言われたこともなかった。

 一人で解決するのが当たり前だったからね。


「別に私も戦えるんで大丈夫です!」


 そう言って私は再び歩き出した。


---------------------


【あとがき】


「ねね、姉ちゃんのために協力してくれないかな?」

「☆があるとお茶屋ができるんだって! 代わりに頭を撫でさせてあげるからさ」

「あっ、シルバだけずるい!」


 銀狼族のシルバとギンが頭を向けて待機している。

 ぜひ、☆を入れて頭を撫でてあげよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る