第6話 離れない銀狼族

「お姉ちゃん、これどうぞ!」

「オイラのもあげる!」


 子どもたちは私のお皿にお肉を置いていく。

 朝から山積みになったお肉に戸惑うが、それよりも困惑していることがあった。


「俺のも――」

「あっ、大丈夫です。それよりも近いです!」


 助けた男もなぜか私に対しての距離感が近かった。


 あれから男は再び眠りにつき、私が解放されたのは子どもたちが起こしにきてくれた時だった。

 ヴァルナに助けを求めたが無視され、結局子どもたちが引っ張って助けてくれた。


 そして、その男は子どもたちを退かして私の隣に座っている。


「それであなたはどこから来た人なのかしら?」

「わからない。知っているのは俺の名前が……レイ……ヴンだったかな」


 怪我の影響か男には記憶がなかった。

 知っているのは自分の名前がレイヴンと呼ばれていたことぐらいだ。

 私に対して、〝お前も俺を殺す気か?〟と無意識に聞いてきた理由は結局わかっていない。

 ただ、誰かから追われていた可能性があることはあの言葉から判断できる。

 追われているってことは、何かしらの理由があるのだろう。

 ここは関わらない方が良いのは確かのようだ。


 荷物の準備をして、住む場所とお店の店舗を探すために町に向かうことにした。


「泊めさせていただきありがとうございます」


 私は軽く頭を下げるが、脚は全く動かせない。


「いやだああああああ!」

「お姉ちゃん、帰ってきてええええ!」


 私はなぜこんなにシルバとギンに好かれているのだろうか。

 二人とも蔓のように脚に張り付いて動こうとしない。

 どちらかといえば、好かれるような人じゃなかったはず……。

 銀狼族は忠誠心が高いと聞いたが、それと関係しているのかな?

 私は二人の頭を優しく撫でると、尻尾を大きく振って泣き止んだ。


「また、お茶が必要になるから戻ってくるよ」

「本当?」

「帰ってくるの待ってるよ……」


 これからはここがお茶の仕入れ先になりそうだ。

 一緒にお茶摘みをする約束をして、私は町に向かって歩き出す。



「あの人何がしたいのかしら……」


 少し離れたところにレイヴンは付いてくるように歩いていた。

 私が足を止めたら同じタイミングで止まり、走ったらすぐに追いかけてくる。

 子どもたちとは離れたはずなのに、まるでまた子どもが付いてきているような気分だ。


「あのー、いつまで付いてくるんですか?」

「俺もこっちに向かっている」

「それなら近くに来たらどうですか」

「そうか」


 それだけ言って隣に並んでも、何か話すわけでもなく歩いていく。

 一体何がしたいのか私には謎だった。

 男性って基本こんな感じなのかしら?


 銀狼族の家族に言われた通りに向かうと、すぐ近くに町が存在していた。

 見たことある街並みと鼻を突き抜ける屋台の匂い。

 復興した街並みにグッと胸が締め付けられる。

 この町は一度勇者たちと訪れている。


 ここから勇者たちの行動に疑問を抱きはじめた。

 そして、私はこの町を境に裏切り者の悪役聖女と呼ばれるようになった。

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