第5話 休まる蒸し茶
何も手伝わないのは申し訳ないと思い、魔法で魔物の血抜きを手伝うと、いつのまにか銀狼族の家族から讃えられるようになっていた。
しばらくは家にいて欲しいと言われたが、私は今日だけ泊まることにした。
魔王国の食事は思ったよりも、肉料理が多く歯応えがあった。
私より子どもたちの方が噛む力が強い気がしたが、銀狼族に合った食事なんだろう。
「こっちにきて何かやりたいことがあるのかしら?」
「実はお茶屋をやりたいと思ってまして」
表向きはお茶屋だが、裏では魔王国で罪滅ぼしをするつもりだ。
お店はどこでやるかは決めていないが、場所が魔王国の近くであれば問題はない。
それに良さそうな茶の木もたくさん生えているからね。
「お茶屋?」
パッとしていない様子に、私は鞄から摘んだばかりの葉を取り出す。
「これってそこに生えてる葉っぱだよ?」
「それを何に使うの?」
子どもたちにとったら、遊び場に生えているただの葉っぱなんだろう。
「少し鍋とお皿を借りてもいいですか?」
私は討伐隊の時に飲んでいたお茶を作ることにした。
鍋に水を少しだけ入れてその中にお皿をいれる。
水が入らないようにして、その中に摘んだばかりの葉が重ならないように置いて蓋をした。
「葉を蒸すのかしら?」
普段から家事をしているヴァルナだからこそ、何をやりたいのか気づいたのだろう。
「葉を蒸して一度冷ますことで風味と香りがしっかりするんです」
冷えた葉を手で軽く擦るように揉み、茶器に入れてお湯を注ぐ。
若々しくどこか草原を感じさせるような青々とした香りに鼻がくすぐられる。
少し時間を置いて、抽出が終わるとゆっくりカップに注いでいく。
「綺麗にできましたね」
カップには澄んだ緑色に輝く蒸し茶と爽やかな青葉の香りが広がる。
シルバやギンも鼻をスンスンとしていた。
あまりに嗅いだことのない匂いに、お互いに顔を見合わせている。
「リラックス効果もあるので、ぜひよかったら飲んでみてください」
お茶を飲む習慣がないのか、少し戸惑いながらも口をつける。
「口の中が爽やかになりますね」
「俺はなんか苦手だな」
「オラも転んで葉っぱを食べた時の感じがする」
「オイラは嫌いじゃないよ」
味覚は人それぞれなんだろう。
ガロウやシルバには青臭く、ヴァルナやギンにあっさり爽やかな感じがすると。
「お茶にもたくさん種類があるので、好きな味があるのかもしれないですね」
ただ、共通しているのは体が暖まったのか、どこか眠たそうにしていた。
一日の疲れがリラックスできたならよかった。
「今日はもう休みましょうか」
時刻も遅くなり今日は休むことにした。
私は部屋に戻るとまだ眠っている男の様子を確認する。
どこか苦しそうな表情をしており、額からは汗が流れ落ちていた。
布で優しく汗を拭うと、突然腕をギュッと握られた。
「俺が殺さないと……」
虚ろな目で必死に何かと戦っているのだろうか。
そのままベッドに引き込まれるが、大きな体に抱きしめられ身動きが取れない。
「離してください」
私は必死に押してみたり、体をモゾモゾとさせるが彼の腕から逃げられる気がしない。
結婚すらしていない男女が同じベッドの中で寝るなんて、私はこの先ずっと結婚することはできないだろう。
結婚した男と夜を共にした令嬢なんて……。
そんなことを考えていても、疲れきっていた体は自然と瞼が閉じていく。
程よい人の温かさが私を眠りに誘った。
「はぁ!?」
目を覚ますと私はまだ身動きが取れないでいた。
どうやら男はまだ寝ているようで、腕の中に私はいた。
「起きてください!」
「うっ……」
昨日は全く起きる素振りはなかったが、何度も叩いて起こすと次第に目が覚める。
赤い瞳が私をジーッと見つめる。
「誰だ?」
うん、それは私のセリフだ。
まずは離してもらわないと身動きすら取れないからな。
「あなたが倒れているところを治療して、近くにいた優しい方達が一晩泊めさせてくれたんです」
「あー、そうなのか。全く思い出せないな」
必死に思い出そうとしているが、全く出てこないようだ。
流石にあれだけうなされていたら仕方ない。
それよりもまずこの状況をどうにかしたいんだが……。
「セレーナさん、おはようござ――」
扉を開けて入ってきたヴァルナは目を大きく開けてこっちを見ている。
「あら、やっぱり邪魔しちゃったわね」
「ちょ、待っ……はぁー」
何か勘違いをしたまま、私は取り残されてしまった。
それだけは避けようと思っていたのに……。
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【あとがき】
「ねね、姉ちゃんのために協力してくれないかな?」
「☆があるとお茶屋ができるんだって! 代わりに頭を撫でさせてあげるからさ」
「あっ、シルバだけずるい!」
銀狼族のシルバとギンが頭を向けて待機している。
ぜひ、☆を入れて頭を撫でてあげよう。
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