第3話 魔王国の子どもたち
屋敷を出た私は荷物を持って国を離れることにした。
あそこにいても私の居場所はどこにもない。
荷物と行っても旅に出ていたため、必要なものはほとんどないからよかった。
持ってきたものは宝物の本ぐらいだ。
「この本を見るのも久しぶりね」
幼い頃から読んでいた薬草やお茶に関する本ばかり。
私も勉強が好きだったわけではない。
毎日家庭教師には怒られたり、通っていた学園では陰口を言われていたぐらいだ。
そんな時はこの本を見ては心を落ち着かせていた。
もちろん魔王討伐隊の時にも、お気に入りの2冊だけ持っていたけど、旅に出て足りなかったことに気づいた。
薬草やお茶の図鑑だけあっても、作る機会はなかったからね。
だから、いつか自分で美味しいお茶を作りたいと思っていたけど、こんなにすぐに来るとは思わなかった。
「お嬢さん、乗せていけるのはここまでだ」
「ありがとうございます」
私は御者にお礼を伝えて馬車から降りる。
馬車はすぐに逃げるように、走ってきた道を戻って行く。
それだけここにいたくないのだろう。
「ここに戻ってくるとはね……」
つい最近までいた魔王国の目の前に来ていた。
公爵家という縛りがなくなった私は好きなように生きることにした。
それに私にはやり残していたことがあるからね。
魔王国は標高の高い土地にあり、昼夜の温度差が大きく変化する特徴がある。
自然に囲まれてカラッとしていたところに長いこと住んでいたため、かなり違う環境に始めは驚いた。
だが、今となっては私にとって天国に感じる。
「本当に茶の木が多いわね」
お茶に使われる茶の木は白い花をつけていることが多い。
その植物の葉や茎を使ってお茶を作るが、魔王討伐隊で来ていた時はまだ寒く、綺麗な白い花が咲き誇っていた。
その綺麗な姿に魔王国も素敵な国なんだと感じていた。
「本当に実在するのね」
少し暖かくなったこの時期に茶の木の新芽や若葉が見かける。
図鑑で見ていた茶の葉が本当に実在していたとわかるだけ、少し塞ぎ込んでいた気持ちが明るくなるような気がした。
やっぱりお茶は人の心を豊かにしてくれる存在だわ。
カバンに少しだけ葉を入れて、さらに魔王国の奥に進んでいく。
周囲からは子ども達の遊ぶ声が聞こえてきた。
「俺は魔王様だ! お前なんてコテンパンにしてやる!」
「グアアアアアアアアア!」
大きな耳をピクピクさせ、ふわふわな尻尾を振りながら子ども達が遊んでいた。
彼らは一部分が私たちと異なる見た目をしている。
そんな彼らを世間では獣人と呼ばれている。
他にも耳が長い
その種族を束ねてできたのが魔王国だ。
「痛いよおおおお!」
元気に遊んでいた子どもが転んでしまったのだろう。
脚から血を流して泣いていた。
私はそんな彼にすぐに近づき、大きな怪我をしていないか様子を見る。
「アクアヒール」
治癒の力を使い傷を癒す。
すぐに出血は治り傷口が塞がっていく。
「他に痛いところはない? 大丈夫?」
そんな私を見て彼らは止まっていた。
もしかして、突然人族が出てきてびっくりさせてしまったのだろうか。
すぐに立ち去ろうとしたら、子どもは私の服を掴んでいた。
「お姉ちゃんありがとう」
私は優しく微笑む。
まるで凍っていた心が溶けていくような気がした。
あれだけ自分の国にいた時は、他種族に対して差別的な感情を抱いていたが、実際は私たちと変わりなかった。
裏でこっそりと治療していたからこそ、そう思ったのかもしれない。
疑問に思わず指示に従っていたら、今頃彼らの心の優しさには気づけなかったからね。
だからこそ、私は魔王国の近くに移り住み、傷つけてしまった彼らを癒そうと思ったのだ。
こんなことで傷つけてしまった人を癒せるかはわからない。
だが、せめて私ができることで罪を償いたかったのだ。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「ふふふ、大丈夫よ」
心配しているのか私の顔を覗いていた。
大きな尻尾が顔にフサフサとあたり、つい笑みが溢れてしまう。
「そういえば、お姉ちゃんに頼みがあるんだ」
「何かあったのかな?」
子どもたちは私の手を取り、小さな倉庫みたいなところに引っ張っていく。
何かをするのかと思ったが、周囲から血の臭いがしていることに気づいた。
「あそこに倒れている人がいるの」
倉庫の扉をそーっと開けると、大きな体格をした黒髪の男が壁にもたれるように倒れていた。
子どもたちとそのまま倉庫の中に入り、彼の様子を伺う。
息は辛うじてしているが、出血量が多いのだろう。
あまり血を流しすぎると、血がなくなって死んでしまうと言われている。
「アクアリフレッシュ」
さっきよりも強い治癒力がある魔法を使うが、大きく開いた傷口は塞がる様子はない。
さらに魔力を込めて治癒力を高める。
「アクアセレニティ」
体の中からゴソッと魔力は奪われていくが、男の息はだいぶ整ってきた。
だが、それがいけなかったのだろう。
――ガタン!
魔力の使いすぎでふらっとしたのかと思ったが、私に覆い被さるように男は襲いかかってきた。
今にも人を殺めそうな赤い瞳に私は息を呑んだ。
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【あとがき】
「ねね、姉ちゃんのために協力してくれないかな?」
「☆があるとお茶屋ができるんだって! 代わりに頭を撫でさせてあげるからさ」
「あっ、シルバだけずるい!」
銀狼族のシルバとギンが頭を向けて待機している。
ぜひ、☆を入れて頭を撫でてあげよう。
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