第2話 彼女の特別

「どう? ハルくん」

1時間後、夏凜ちゃんは困惑気味の僕にそう聞いた。

「どうって、なんて言うか、場違いじゃない? 僕?」


夏凜ちゃんに連れてこられたのは、めっちゃオシャレな高級感が漂うレストランだった。

とてもじゃないけど、その辺の高校生が来るような場所には思えない。

変装用のかっこいいメガネを付けて、清涼感溢れる高そうなワンピースに着替えて来た彼女とは対象的に、制服のまま連れてこられた僕は明らかにこの空間で浮いている。


「口にあわなかった? お寿司屋さんとかの方が良かったかな?」

「いやいやいやいや、そんなことないよ絶対に!

うん、今まで食べたことがないくらい美味いものを食べてる気がする。

それに、いつも学校終わりに喫茶店に寄るか、家族とファミレス行くぐらいしか外食の経験ないから何もかも新鮮と言うか色々落ち着かない。彼女は最近ブレイクしてるし、こういう店もよく来るのかも知れない。



「なら良かった~! この前お父さんに連れて来て貰って美味しかったから気に入ってくれるんじゃないかなって思ったんだ」


「ここ、けっこう高いんじゃないの?」


「気にしないで、私が言いだしたことなんだし、それにお父さんに頼んで予約ねじ込んで貰ったから」


「へ、へぇ…お父さんと仲いいんだ…」


夏凜ちゃんのお父さんは予約をねじ込める程の大物らしい。


「うん、たまに銀座のお寿司屋さんとか、ミシュランガイドに載ってるとこに一緒に食べに行くよ、優しいし嫌いじゃないよ」



お父さんは相当、夏凜ちゃんを溺愛してるんだろうな、しかも相当金持ちそう。大企業のエリート社員とか、ベンチャー企業の社長とかかな?


「うん、あ、そうそう、あのビルあるでしょ!」


そう言って彼女は窓から見える超高層ビルを指さした。


「ああ、MIHAMAの本社だよね」


日本で指折りの自動車メーカーMIHAMA、その本社ビルが夕焼けに照らされている。

MIHAMAと言えば大企業の代名詞見たいな存在で、同族経営だから財閥扱いする人も多い。

ウチの車もMIHAMAのなんだよな、父さんが去年無理して買い換えたんだけど。



「私のお父さん、あそこの社長なんだよ!」


「ゴホッゴホッ」


思わず口に含んだスープを吐き出しそうになった。

はっ?ちょっと待ってどういうこと?


「え? 夏凜ちゃんのお父さんがMIHAMAの社長? ホントに?」


日本有数の大企業のトップがお父さん??


「ホントだよ~!私の出てる番組は全部録画して観てるんだって」


「いやでも苗字が違うんじゃ」


そうだよ、社長の苗字は美浜、夏凜ちゃんは本名で活動しているとインタビューで言っていた。


「ウチの両親離婚してるからね、私はお母さんに引き取られたから苗字が違うんだよ」


「あ…」


そっか、そのパターンがあった。何でそれを考えなかったのか。

夏凜ちゃんはインタビューとかでも親の話はほとんどしないからMIHAMAの社長の娘だと知っている人はほとんどいないだろう。


「そんな顔しないでよ~お父さんとは今でも仲良しだから」


「ご、ごめん、でも夏凜ちゃんって、凄い家の子だったんだね、なかなか実感できないな」


僕がそう言うと彼女は少し悲しそうな目線で外を眺めた。


「うん、小さい時はね、でも6歳の時に離婚したから私が美浜姓だったことを知ってる人は少ないんだ。アイドルになった時も最初、人気がほとんど出なかったでしょ、その時にお父さんがどうにかしてあげようか?って言ってくれたんだけど…親のコネとか陰口叩かれると思ったし、自分達の力で売れたかったから断ったの」


夏凜ちゃんは、明るめのテンションだけど淡々とした口調でそう語った。


「そっか、やっぱり言われちゃうんだね、あそこぐらい大きな会社だと」


そう、だからプライベートはあまり喋らないんだと夏凜ちゃんは言った。



「あの頃、ハルくんはイベントの度に来てくれて励ましてくれたよね、ファンレターを初めてくれたのもハルくんだった、お客さんが少なくて不安な時もいつも応援してくれた。    私は君が来てくれたからがんばれたの」


「え? 僕、握手会でかなり滑ったかな?とか、暴走しちゃったと思うことあったのに」


「そういう所も楽しかったんだよ、ファンレターもすっごく面白かったし」




そっか、最初のライブから欠かさずに通って、ファンレターの返事も貰ったりしたけど、それは僕が励まされたり元気を貰ってただけじゃなくて、夏凜ちゃんの力になれてたんだ。そう思うと何とも言えない達成感のようなモノを感じて胸が熱くなる。


「ありがとう、そんな風に言ってくれて、嬉しかった、僕もファン冥利に尽きるな~!今日は最高の誕生日になったよ」 



心の底から感動が湧き上がって来て胸が一杯になる。


「良かった…でも、普通のファンにはこんなことしないんだよ」


「え…」


彼女はニヤリと小悪魔の様に笑った。


「え、いやそれはまさか…もしかして」


「初めて握手会に来てくれた時から好きでした、私とお付き合いして下さい」


いくら恋愛経験のない僕でも恋愛小説とか漫画はたくさん読んでるからなんとなくわかった、これは今日そう言う流れになると。


「……はい、こちらこそ……よろしくお願いします」


好きなアイドルから告白されて断れるヤツはいるのだろうか? いまだに現実か信じられない中、憧れのアイドルと付き合うことになった。




























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アイドルと付き合える訳ないとも言い切れない 太田 守 @Mamoru-2024

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