第34話 宇宙人とパーティー・1
その依頼人は、俺達が請け負った中でもトップクラスに陽キャだった。重たい内容のメールをしているのに、そいつの返信は常にハイテンションだった。
ネイソン・ジーニアス。45歳・独身・末期ガン。家族の居ない天涯孤独の身で、恋人も友人もいない変わり者の奴だった。
ネイソンは売れないSF小説家だった。強引に1冊電子書籍が贈られてきたが、ビックリする程つまらない内容だった。
「セクシー・スターベイビーですよね。あれホントつまんない。多分ですけど、僕が読んだ小説の中で1番くだらなかったです」
「俺もだよ、時間の無駄でしかねえ。あの野郎、末期ガンなのになんでいつもあんなにハイテンションなんだ。ソーハッピーハッピー煩えんだよ」
俺は口ではそう言っていたが、実はネイソンは凄い奴なのではないかと少しだけ思っていた。ド貧乏の不細工病人のくせに、毎日がハッピーでたまらないらしいのだ。
ネイソンの1番の夢は、死んで宇宙人とパーティーをする事だという。実にくだらない夢だが、たまにはそんなルンルン気分で死ぬ奴がいても構わない。
「オーーーーッ、サトル&コウタロウ!!こんにちは、そしてさようなら!!私は一刻も早く死にたい、とても夜まで待っていられませーーーん!!!」
来日してやってきたネイソンは、汚い長い髪を振り乱しながらそう言った。俺と洸太郎は怪訝な表情を浮かべ、とりあえず風呂に入って着替えて欲しいと言った。
「ノーーーッ!!私はもうすぐ星になるんです、この体臭は私である立派な証!風呂、ノンノン!!そんなものは私には要りません!」
「この馬鹿野郎が、臭ぇからさっさとシャワー浴びてこい!じゃねえと処置してやらねえぞ!何カ月風呂入ってねえんだ、まじで臭い!!!!!」
そう言って俺はネイソンを風呂場に蹴っ飛ばし、服の上から熱湯をぶっかけていった。ギャーギャー喚くネイソンを横目に、洸太郎に「やっぱり本物のアホだった」と小声で呟いた。
「今から死ぬのに、なぜシャワーを浴びる必要があるのですかぁーーー??ニッポンジンはよくわからない、貴方達二人とも意味不明ですね!」
「バカ野郎、フリチンでうろちょろするんじゃねえ!!!バスローブ置いといただろうが、ちゃんと其れを着ろ!!ったくなんなんだ、此のアホは!!」
裸で廊下をうろちょろするネイソンのケツを蹴り飛ばし、俺は一刻も早くこいつを安楽死させたいと心の中で思った。ネイソンは渋々バスローブを着ながら、なんで夜まで待つ必要があるのかと尋ねた。
「スペースには昼も夜もありません。早くしないと、私を待っているスペースピープル達のパーティーに遅れてしまいます!!」
「知るかボケェェ!!此処では俺達の言う事に従うって契約書交わしただろうが!!あんまりゴチャゴチャ言うと、生きたままその窓から放り投げるぞ!!」
苛ついた俺がネイソンに怒鳴りつけると、洸太郎がまあまあと言いながらネイソンの方に近づいていった。こういうややこしい奴への対応は、俺よりも洸太郎の方が100倍上手いと相場が決まっていた。
Nowhere to go 処 tokison @tokison
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