第23話 殺人者の暗躍 ②
黒木諒は殺人を生業とする男だった。こいつは東アジアでその技術を磨き、今はフリーで殺人請負人をやっているという。
「折角一時帰国したので、その杉山悟という男に会ってみたくなりました。貴方を見つけるのは簡単でしたよ。俺は超能力者なのでね」
「本当の事を言わないと、この銃で貴方の頭を吹っ飛ばしますよ。此れは脅しではありません」
「洸太郎さん、俺はプロの殺し屋ですよ。此れは本物の拳銃じゃない、拳銃に見せかけた玩具です。大方睡眠薬でも打ち込んで、俺を安楽死させようって腹なんでしょう」
黒木の言う通り、洸太郎が持っているのは偽物の銃だった。黒木はその銃を指でつつきながら、とある特殊な植物の名を口にしていった。
「此れは入手する為にいくつかのルールがある。まず通常の市場では手に入らない、ダークウェブ経由がまあ一般的でしょう。此れを偽名で大量に買い付けている人物がいた。其れが貴方だと俺は目星を付け、売人である相沢を拉致監禁したのです」
相沢を拷問して俺の居場所を吐かせた後、こいつは相沢を殺して遺体を綺麗さっぱり処分した。確かに先月から相沢と連絡が付かなくなり、妙だとは俺も気付いていた。
「一成さんが惚れていた男だ、貴方も絶対にまともな人間じゃない事はわかっていまいた。どうでしょう、俺と取引をしませんか?
貴方がたの元には、かなりの資産家も訪れていると推察します。貴方がたの稼業が成立しなかった場合、こちらに依頼人を回して頂くというのはどうでしょう」
論外だ、と俺は即座に言った。俺達は殺人をする為に安楽死請負人をしているんじゃない。俺達の行いは黒木とは正反対な筈だ。
「どうせ死にたがっているのだから、死なせてやるのが慈悲というものでしょう。心配しなくても、俺は対象者に無用な苦痛は与えません。瞬時に殺す、それが俺のモットーの様なものですから」
「俺達の理念に反する行為だ。一応聞くが黒木、お前は一体何の為にその稼業をしているんだ」
「悟さん…………貴方、由香里とかいう女に溺れて一成さんを裏切りましたよね。彼との友情よりも、獣の様なセックスの快楽の方を選びましたよね!?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は左手で黒木をぶちのめそうとしていた。しかし洸太郎がそれを止め、挑発に乗ってはいけないと言った。
「俺はね、女しか殺さない殺し屋なんです。俺は女が大嫌いでね、だから自分の事も大嫌いだった。殺してやったんですよ、あの病院でね。そして一成さんと出会って、俺は自分の生きる道を決めたんです。この世界にはびこるメスを一匹でも多く殺す。其れが俺のやるべき事なんです」
「勝手にしろ、俺達はお前とは無関係だ。今日の事は何も無かった事にする」
そう言って俺が席を立った瞬間、黒木がスマホの画像を見せて来た。其処に写っていたのは、由香里と母親が買い物をしている姿だった。
「言う事を聞かないと、この二人を殺しちゃおうかなぁぁ??可愛いメス豚2匹、どんな方法であの世へ送ろうかなぁぁぁ???」
「あれ………………こんな時間にお客さんですか?もうお店は閉店時間過ぎてるんですけど」
「んん~~~、早速メスの匂いがするじゃないかぁぁ。悟さん、此れ丸焼きにして小間切りにしてもいいのかな?」
店内にやってきた黒木は、游の膝の上で寝ているチャンピオンに近づいていった。その後ろから洸太郎が黒木の頭を叩き、猫を殺してもしょうがないと言った。
「はあ!!??何すか、その幽霊みたいな女!!気持ち悪、こんなに可愛いチャンピオンを殺すだなんて!!」
「游君、この人バカだからまともに相手しなくていいですよ。じゃあこちらへどうぞ。ゲストルームしか空いてませんから、家具とか大したものはありませんよ」
そう言って洸太郎は、2階の角にある狭い部屋へと黒木を案内していった。室内にはベッドと机しかなく、黒木は別の部屋がいいと言った。
「だから此処しか空き部屋は無いんですってば。そもそも貴方、一人が寂しいから俺達を訪ねてきたのでしょう。あんなやり方で悟さんを脅したりして!!」
「だってだって………悟さん、俺の事ゴミを見るような目で見てたでしょ。凄くカッコ良くて、もうなんていうか一目惚れ?やっぱ会いに来て良かった、今日から悟さんは俺の嫁!!」
指でハートマークと作る黒木を見て、洸太郎ははあと大きなため息をついていった。こいつはつまり俺の外見を見て興味が沸き、友達になりたいという一心で俺に近づいてきたのだという。
この日を境に、とんでもない奴が俺の傍をうろちょろする事になった。ちなみに女を捨てたというのも真っ赤な嘘で、こいつは正真正銘の女だった。
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