第22話 殺人者の暗躍 ①

骨折の治っていない俺は、洸太郎の運転する車の助手席に座っていた。車は県境に有るビジネスホテルの駐輪場に入り、其処で俺はスマホを手に取った。

「部屋の番号聞いたから、洸太郎も一緒に来いってよ。今の俺は此のザマだ、いざという時はお前に任せるぜ」

洸太郎は無言で頷き、アタッシュケースを持って車から降りていった。俺達は指定された部屋へと向かい、ドンドンと扉を2回殴りつけた。

扉を開けて出てきたのは、黒い長髪を緩く後ろで結っている細身の男だった。俺が洸太郎の方に目をやると、知らないという意味で洸太郎は首を小さく横に振った。

この男の名は黒木諒。年齢は分からないが恐らく20代中盤だろう。6年間も東アジアの発展途上国に居て、先週帰国したばかりだという。

黒木はいきなり3日前に俺の元へ来て、自分は一成の友人だと言ったのだ。そしてスマホの写真を見せ、一成から俺の事を聞いてきたと言った。

スマホの画像は、一成が黒木と笑顔で座っているものだった。しかもその背景は、信じられない程ボロボロの家の中だった。

黒木によれば一成は、俺と離れてすぐに海外へと渡ったのだという。そしてバックパッカーをしていた黒木と知り合い、意気投合して友人になったらしい。

俺は正直言って、黒木の話はにわかには信じられなかった。あの用心深い一成が、海外で知らない奴と友達になるなんて。俺の知る限り、一成はそんなにフレンドリーな性格はしていなかった。




しかし俺の此の疑念は、黒木の見せてくれた写真1枚で解決した。この男と一成が知り合ったのは、なんと美容整形の病院内だったのだ。

一成は外見を変えに此処を訪れていたが、此の黒木はそうではなかった。こいつは元女で、性転換手術を受ける為に此の病院に来ていたのだ。

詳しくは語らなかったが、黒木は女を捨てなければ狂い死にする程悩んでいたそうだ。其処で有り金全部持って、クリニックを予約して飛行機に飛び乗った。

「一成さんはVIPルームで、腕のいい医師に施術して貰ったと言っていました。俺は金が無かったんで、もう男になれるなら何でもいいって感じで」

この件はあまりにセンシティブな内容の為、俺達は其処に付いてはそれ以上触れなかった。病院内の待合室で、日本人二人は会計待ちをしている間に知り合った。

「イッセイ・ナガミネって呼ばれたんで、同じ日本人だと思って。俺から声を掛けたんです。ぶっちゃけて言うと俺、病院で有り金全部使い果たしちゃって」

つまり黒木は、一成から金を借りる為に声を掛けたのだという。包帯塗れの黒木を見た一成は、微笑を浮かべながら「いいよ」と言った。

黒木は2万円でいいと言ったのに、一成は黒木に10万円も渡してやった。その代わり、暫く自分と一緒に居て欲しいと黒木に言った。

「失恋したばかりで寂しいから、そう一成さんは言っていました。一成さんはゲイなので、俺と一緒にゲイバーで飲み歩いたりしました。

酔っぱらった一成さんは俺にしがみつき、悟さんの名を呼びながら泣き出してしまったのです」




「住む国も顔も変えてしまえば、貴方の事を忘れられるんじゃないかと…………そう思ってやったと一成さんは言っていました。でもそんなに簡単なものじゃなくて。結局俺といた三カ月間、ずっと悟さんの話ばかりしていました」

そしてその時に、一成はこの国で流通するとある植物を探しに来たと言っていた。その名を聞いた瞬間、俺と洸太郎は顔を見合わせた。

「俺もその葉を一口噛んでみましたが、あっという間に強烈な眠気が襲い掛かってくるのです。一成さんはこういった珍しい植物を使って、作りたいものが有るのだと言っていました」

「………………黒木、そろそろ話してくれないか。お前は一体、何の為に俺達に接触してきたんだ。それ以前に一体どうやって、俺達の居場所を突き止めた」

「相沢智美、知ってますよね。今から三カ月ぐらい前に、貴方がたの元を訪れた女です。そいつから貴方がたの居場所を聞き出し、証拠隠滅の為に殺してきました」

黒木のその言葉を聞いた瞬間、洸太郎は隠し持っていた拳銃を奴の頭に突き付けていった。しかし黒木は微動だにせず、無表情のまま「銃刀法違反」と呟いた。

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