第20話 覗きとストーキングが生き甲斐の男 ②

緒方は俺達の言う通り、元恋人の覗きとストーキングを実行した。が、その寸前で俺たちが通報した為、無事お縄になってパトカーの中に消えていった。

それから三カ月後、俺のスマホに緒方から着信があった。俺が今何をしているのかと尋ねると、何と緒方はクライミングジムのスタッフに転職していた。

「あれから事情徴収は受けましたけど、未遂という事ですぐに釈放されたんです。ヤケクソになってクライミングしまくってたら、今のジムのオーナーにスカウトされまして。そんな訳で、其処の正社員として働いてます」

「おいマジかよ、てめえにしちゃあ上出来じゃねえか!こういうのを、芸は身を助けるっていうんだな。おいお前、もう自殺したいとか思ってねえんだろ?」

「はい、全く思っていません!!今は新しい生き甲斐の為に頑張っているところです!お二人には色々とお世話になりましたので、お礼とご報告で連絡させて頂きました!」

そう言う緒方の声は明るく、やっぱり洸太郎は人を見る目があると俺は感心した。あいつがいなかったら、緒方は今頃天国にオサラバしていただろう。

「いっぱしに社会人やってんじゃねえか。この調子でこれからも励めよ。あと一応聞いとくが、今は一体何に生き甲斐を感じてるんだ」

俺がそう尋ねると、緒方は待ってましたとばかりに熱く語り始めていった。あまりにも熱量が凄まじいので、俺はもういいと言って電話を切った。




「え………………???意味がわからないんですが、それってどういう事ですか?」

「俺にもわからねえ、緒方の感覚は独特過ぎる。兎に角だな、その職場の女供の更衣室を覗く事にハマってる様だ。と言っても見てるのは着替えじゃなくて………俺にも理解不能だが、帰る時のメス顔をチェックするのが楽しいらしい」

緒方曰く、勤務先は女のスタッフもかなりの数在籍しているという。其の女達は帰り際に必ず、メイクを直したり髪の毛をセットし直す様だった。

「緒方の上司、つまりあいつをスカウトしたオーナーだな。そいつが超イケメンの独身で、女供は仕事の後そいつの元に群がっているらしい。

その時のメスのハンティングフェイスとかいうものを、観察しまくるのが今の緒方の生き甲斐だとよ」

「……………相変わらず、あの人の思考回路は独特過ぎますね。とりあえず覗きが見つからない事だけを祈りましょう。緒方さんはもう、此処に来る事も無いでしょうから」

「どうかな、人間の本質はそんな簡単には変わらねえぜ。なんだかんだ言ったところで、あいつの根っこは覗きとストーキングだろ。またそっちの道で失敗して、警察の世話にならねえといいけどな」




更に其れから三カ月の時が過ぎた。俺が仕事を終えてリビングにいると、洸太郎が血相を変えて飛んできた。

「ニュース……………見ませんでしたか?緒方さん、今朝駅前のビルから飛び降りて亡くなったそうです」

洸太郎はそう言って、俺にスマホのニュース記事を見せていった。すると通勤ラッシュの真っ只中、緒方が通行人目掛けてビルからダイブしたと書いてあった。

幸いな事に怪我人は居なかったが、緒方が飛び降りる瞬間の動画がネットで拡散されまくっていた。俺がその動画を再生すると、緒方が通行人に向かって大声で叫んでいた。

「すました顔で歩いているお前ら!!お前らの本性は全員、クソでカスのド変態だよ!!!俺はお前らとは違う、天に選ばれし男だ!!今から其れを証明してやる、しょうもない目かっ開いてよく見とけ!!!!!」

緒方はそう叫んだ瞬間、物凄い勢いでビルの屋上から飛び降りたという。俺はすぐに勤務先のクライミングジムに電話し、緒方に一体何があったのかと尋ねた。

「あの人…………お客さんの女の子をね、ストーキングしてたんですよ。其れがSNSで拡散されて、ウチのアカウントが炎上しちゃって。もう本当に大迷惑ですよ。それでクビにした瞬間、今度は当てつけみたいにあんな事するし…………!!」

オーナーらしき男は苛ついた声でそう言い、一方的に電話を切っていった。洸太郎は俺の目を見て、すいませんと言いながら頭を下げていった。

「お前は何も悪くない、一瞬だが緒方は生き直そうとしたんだ。其処から先の事は、俺達には何の関係も無い」

俺は落ち込んでいる洸太郎の肩を叩き、何度も「気にするな」と声を掛けていった。勝手な俺の予想でしかないが、何となく俺は緒方は自分の人生を生き切った。そんな気がしてならなかった。

屑を絵に書いた様な人生だが、あいつは結局自分で幕を閉じる道を選んだ。動画で叫んでいた緒方は、どことなく楽しそうな表情を浮かべていたのだ。

やり切って死を選んだ。其れもあんなメチャクチャな方法で。屑もそこまで貫けば、十分立派な人生だと俺は心の底から思っている。

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