第6話 カスタマイズ・ベイビー ②
この講演会のルールの一つとして、参加者は必ず1回は意見する義務が発生した。俺の順番が回って来た為、俺はノエに結婚率が下がっている事について尋ねていった。
「先進国に限った話だが、将来性への不安等で結婚をしない若い人間が増えている。カスタマイズ・ベイビーを議論する前に、この問題を解決するのが先だと思う」
「其れは貴方の国の話でしょう。先進国の中では、事実婚や別居婚を積極的に行う人達も数多くいる。結婚をしなくても彼らは子供を作り、協力して育児を行っている。子供を作る為には結婚は必要無い、両親と育てる環境が揃っていればそれでいいのです」
「成る程ね、其れは確かにその通りだ。だが今はどの国であっても、恋愛に対して積極的にならない人間が増えている。抑々時代の変化に伴って、パートナーを持つ事のメリットが薄れているからだ」
今や街を歩けばどこもかしこもスマホに熱中し、無用なコミュニケーションを避けている。俺の住む日本では特にその傾向が顕著だろう。答えは簡単、他人と関わるのが単にめんどくさいからだ。
「貴方が指摘する様な方達は、自身の遺伝子を残す事にも興味を持たないでしょう。その様な方達はどうする事も出来ない。ですから其処は切り離し、子を欲する人達に手厚い支援を向けるべきなのです」
俺は現在安楽死の代行人だが、抑々人間は必要以上に生まれない事が最も幸福だと思っている。狭い日本の人口など、今の半分以下でもまだ多いぐらいだろう。
カスタマイズ・ベイビーについては完全に同意するが、それでも産む人間の数は減らすべきだと考えていた。極度の不細工やバカが居なくなっても、どうせ人間は他人と自分との比較を止められないからだ。
全ての講演が終わった後、俺の元にノエが近付いてきた。そして俺に手を差し伸べ、俺の意見はとても興味深かったと言った。
「国民性の違い、其処にも此れからは目を向けなければなりません。貴方の住む日本は、先進国の中でも恋愛に対する関心が著しく低い。それは何故だと思いますか?」
「オタクが多いからじゃないですかね。ノエさんも御存じでしょう。日本はオタク文化が世界で最も進んでいる。アニメ・漫画・ゲーム・アイドル。いちいち傷付く恋愛なんてしなくても、それらに惚れてりゃ満足なんです」
「オー、ノー…………、つまり架空の人物やエンターテイメントの世界の人間に、恋をする事で自分を満たしていると?」
「そう。もっと言うと、ポルノ産業がめちゃくちゃ強いんです。ちょっと金を払っただけで、理想の恋人と疑似セックスが出来る。異性に見向きもされない底辺は、そんな自慰行為だけで自身を納得させてるんです」
俺のバカみたいな意見を、ノエは真剣な表情で聞いていた。そして面白い事に、日本が一番カスタマイズ・ベイビー構想の実現に適していると言った。
「アニメやアイドルというのはつまり、理想の具現化と同じ様なものでしょう。ポルノ産業もつまる所は同じです。日本人は恋人に求めるものが多い、そういう事ですか?」
「いや多分そうじゃなくて……………世界的に見ても、日本人は単純に不細工なんですよ。チビで顔デカ、手足も短いちんちくりん。パリコレを見ればわかるでしょ、日本人なんて何処にもいやしない」
「確かに…………失礼ですが、日本のオタク文化は劣等感の裏返しとも言えますね。そうやって理想の恋人を増産し、それらに熱狂する事で現実から目を背けている」
俺はノエのその言葉を聞いた瞬間、思わず腹を抱えて爆笑してしまった。そして俺はノエの肩を叩き、今の意見を秋場原で叫んだ方がいいと言った。
「アキバハラ…………日本のオタクの中心地ですね。もし来日する機会があったら、其処へ足を運んでみるかもしれません」
「冗談だよ、今のはジャパニーズジョーク!それにオタクに其れを説いても無理、あいつらにとってはアニメやアイドルは神だから」
俺はそう言って、ノエにグッバイの手を振って席を立っていった。日本では絶対にカスタマイズ・ベイビーの構想は実現しない。そんな事に金をぶち込める程、現状の日本で富を持て余している層はごく一部に限られた。
(偶像崇拝してる内にオッサンオバサンになって、ヤベーと焦って結婚に走る奴も多いんだ。そいつらは諦める事に慣れ切っている。そんな連中がカスタマイズ・ベイビーに大金をぶち込むとは、俺にはとてもじゃないけど思えねえな)
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