異世界で秘書修行!魔王との契約生活

阿院修太郎

第1話: 「異世界で目覚めたら、俺、魔王の秘書でした」

 目が覚めると、天井には古びたシャンデリアがかかっていた。伊織は目をこすりながら、どこにいるのか状況を把握しようとする。見回すと、豪華な装飾が施された部屋にいることに気づいた。大きなベッドと深紅のカーテン、ゴシック調の家具が一堂に並ぶ。


「……ここは、どこだ?」


 自分の頬を軽くつねり、痛みを感じた伊織は、夢ではないことを確信した。彼が確認しようとする間にも、ドアが大きく開かれ、長身の男が入ってきた。男は黒いマントをまとい、鋭い目つきをしているが、その姿にはどこかコミカルな印象があった。


「お前が新しい秘書か? 初対面だな。俺がこの城の主、魔王様だ!」


「え、ええっ!? 魔王!? ってことは、ここは異世界!?」


 魔王は伊織の反応に微笑んだ。


「そうだ、ここは異世界だ。そしてお前がここで働く新しい秘書だ」


「でも、どうして俺が!?」


 魔王は肩をすくめ、無関心な態度で言った。


「そんな細かいことはどうでもいい。お前がここにいる以上、俺の秘書として働いてもらう。今日からがんばってくれ!」


「ま、待ってください! 俺、秘書なんてやったことないし……」


 魔王は頷きながら、手を振ると巨大な書類の山が現れた。伊織はその量に呆然とする。


「これが今日のスケジュールだ。やるべき仕事が山ほどある。まずはこれを片付けてくれ」


「こんなに!? 一人で全部やるのかよ!?」


 魔王はにやりと笑い、肩をすくめた。


「そうだ、頑張れよ。気に入れば、待遇を考えてやるかもしれん」


「待遇!? いや、そういう問題じゃなくて!」


 混乱しながらも、伊織は書類を見つめ、深呼吸をした。とりあえず、目の前の現実を受け入れるしかない。彼は書類を手に取り、最初の仕事に取り掛かろうとしたその時、ドアがまた開いた。


 中から、身長は低いが目立つ魔法のローブを着た小さな妖精が飛び込んできた。彼女は伊織を見て、にっこりと笑った。


「こんにちは! 私はエル、魔王様のアシスタントの妖精よ。いきなりお疲れ様ね」


「アシスタントの妖精!? 」


「そうよ。魔王様のスケジュール管理とか、いろいろ手伝ってるの。新しい秘書のこともサポートするから、安心してね」


「ありがとう……って、どうやって手伝うんだ?」


「まずは、これを使ってみて。便利なアイテムよ」


 エルが取り出したのは、光るクリスタルのようなものだった。


「これは、魔王様のスケジュールを管理する魔法のクリスタル。これを使えば、仕事の進捗も簡単に確認できるわ」


 伊織はそのクリスタルを手に取り、感心しながらも、書類に戻った。エルが手伝ってくれるおかげで、少しは気が楽になったが、まだまだ多くの仕事が残っている。


「とにかく、これでなんとかやってみるか」


 伊織は決意を新たにし、書類の山に挑む。しかし、その背後で、魔王とエルがそっと笑い合っているのが、伊織の知らぬところであった。

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