第35話 僕の担任の先生

「カラオケ楽しかったな〜!!」

「俺なんて今日、歌いすぎて喉カラカラになってしまったぜ!!」


 カラオケ終わりの帰り、僕たちは家に向かって歩いている中、前で歩いている花輪さんと大翔が楽しそうにカラオケの感想を語っている。


「そういえば日向めちゃくちゃ歌うまかったね! 日影っちとのデュエットもいい感じだったし!!」

「そうかな? 影密くんと一緒に歌うの楽しかったな!!」


 あの後、千秋さんの他に大翔と花輪さんが部屋に戻ってくると、僕たちは何事もなかったように平然を装った。


「影密くん、明日お家行っていい?」

「え? いいよ……」


 明日は金曜日、そう、もうすぐ土曜日と日曜日が待っている。

 今週は体育祭ということもあって、朝比奈さんが家に来ることはなかったが、明日は体育祭が終わったということで、家に来るようだ。


 そして、次の日——


「みんな昨日は体育祭お疲れ様〜、えーとね……もうすぐ文化祭が行われます……来週から中間テストの勉強期間が始まります、それが終わったら文化祭の決め事とかいろいろ決めたりするから……あんたたちそのつもりでよろしく……ああ〜金曜日ってのにだるいな……文化祭色々やることあるからやりたくないな〜」


 朝のHRで、きだるそうに文化祭のお知らせをしてくれたのは、僕たちの担任の先生である、西野初香にしのういか先生だ。

 この先生はオレンジ色の髪の毛にお尻らへんまで伸びている髪が特徴の顔がとっても可愛い先生である。

 

 この先生はその可愛らしい見た目から生徒から人気があり、綺麗好きでいつもどこか掃除しているイメージがあるが、課題プリントを配ろうとして期末テストの問題用紙をを配ろうとしたり、そんなポンコツの一面もある、いい先生だ。


 そういえば西野先生は、昔家事代行をやっていたという噂もある。


「文化祭なんの出し物する?」

「さあな……お化け屋敷とか、迷路とか?」


 HRが終わると、さっそくクラスは文化祭の話題で持ちきりになっていた。


 文化祭か……学園ドラマやラブコメなどに必ずと言っていいほど出てくる文化祭……それがもうすぐやってくるのか……


「影密くんは文化祭何がしたいと思う?」

「うわ!? び、びっくりした……驚かさないでよ朝比奈さん……」


 そんな感情に浸っていた僕は目の前にいた朝比奈さんに大層びっくりする。


「そ、そそ……そんなにびっくりして、どうしたの……ぶふ……ぷぷぷ!!」


 朝比奈さんは何が面白かったのかわからないけどその場で吹き出した。


「影密くんは本当に面白いね!!」

「僕は何も面白くないけど……」

「アハハ……!! それで何がやりたい?」


 僕は朝比奈さんにさっき中断した質問の答えを催促される。


「うーん、ダンボールアートとか……ゲ、ゲーム大会とか?」

「あ! ゲーム大会いいじゃん!! それなら盛り上がるしいいかもね!!」


 朝比奈さんは僕のアイデアを大層気に入った様子だった。


「次は移動教室か……その前に飲み物を買ってくるとしよう……」


 1時間目が終わると、僕は誰にも聞こえない独り言を漏らして自動販売機に向かった。


 自動販売機につくと、僕は衝撃のものを目撃する。

 僕のクラスの担任である西野先生が自動販売機の前でオレンジジュース片手に床で寝転がっていたのだ。


「な、何してるんですか……西野先生……」

「んにゃ? 君は確か、アタシの担任の……影浦かげうらくんかい?」

「いえ、影密です」


 西野先生、僕の名前ぐらい覚えてよ……僕影が薄いって思うけど、一応、先生の生徒なんだから


「こ、こんなところで何してるんですか?」

「うーとね、疲れたから寝ていたのだよ、先生は色々と忙しいのだよ……」

「は、はあ……でもそんなところで寝そべっていたら危ない……っていうか他の人に迷惑ですよ……」


 自動販売機の前だし……


「ええ……それじゃあさ! 誰にも迷惑かからないところに、影宮かげうらくんおんぶして連れてってよ!!」

「い、嫌ですよ……僕それに名前影密です」

「なんでよ〜連れてって連れてって!! 」


 西野先生は子供のように駄々をこね始めた。

 ちょっとどうしよう……次は体育の授業だからすぐに飲み物を買って移動しなくちゃいけないけど、先生をこの場に置いていくのも……それも気が引ける。


「わ、わかりました……それでどこに行けばいいんですか?」

「えーとね、とりあえず職員室まだお願いしやーす!!」

「先に言っときますけど、僕そんなに力強くないので、先生途中で落としちゃうかもしれないですけど、いいですか?」

「そんなの全然いいから〜早く背中に乗らせて!」


 僕はおんぶの体制をとると、先生はそこにピッタリと体を乗せて、僕は職員室まで歩き出す。


「ふは〜楽ちん楽ちん……!!」

「本当に……西野先生今度から自分で歩いてくださいね」


 僕は先生を乗せて、歩き出す……先生は大人だから想像以上に重かったけど、幸い、職員室まで距離が短かったので、そんなに苦痛に感じなかった。


 それに周りの生徒からの視線がやばかった。

 それはそうだ顔が可愛いい先生を背中に乗せて歩いているんだがら……だけどいくら顔が可愛いと言ってもこの先生には何故か僕はドキドキは微塵も感じなかった。


「先生……これでいいですか?」

「ありがとう〜影山かげやまくん!!」

「あの……影密です……」


「そうだった! 名前は影密くん! ほんじゃあこれあげるよ!!」

「これなんですか?」

「え? さっき廊下を掃除していた時に見つけてさ! 綺麗でしょ? この松ぼっくり!!」

 

 西野先生はどんぐりを渡してくる。

 松ぼっくりをもらっても嬉しくないのだけど……


「一応もらっておきます……ありがとうございました」

「いいってことよ! あなたいい生徒ね!! これからもいろいろ頼もうかしら!!」

「いえ、もうこれっきりにしてください……」


 僕は先生に礼を言って、体育を行うために体育館に向かった。

 この時僕は気づいていなかった……肝心の飲み物を買っていなかったことに……




「アハハハハ!! そんなことがあったの!!」

「そうだよ、西野先生のおかけで、僕体育の授業を遅刻しそうになって、自動販売機で飲み物買うの忘れちゃったんだけから」


 放課後、朝比奈さんがいつものように僕の家に入り浸っていた。


「でもよかったじゃん! 先生に気に入られて!」

「僕、気に入られたのかな? わかんないや」

「えへへ! 影密くん優しいから!」


 朝比奈さんはなんだか嬉しそうだった。


「それじゃあ影密くん、今日もいつものあれやりましょう」

「うん、そうだね今日も僕負けないから!!」


 朝比奈さんと僕は今日もデラックスファイターズで勝負することになった。

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