第33話 体育祭3 体育祭リレー

「赤組速い速い!! 圧倒的速さで白組との差をぐんぐん離していく!!」


 体育祭最終種目、組対抗リレーは学年ごとにおこわれて各クラス男女4名ずつが選出されて、別のクラス計4名と合わせて8名で行われる。

 この体育祭では、1組クラスと5組クラスは、赤組など、二つのクラスで組が分けられる。

 

「よっしゃー! 一位だぜ! 日影!!」


 一年赤組のメンバーは、最初僕と同じクラスの陸上部の人が走り、その後に5組の人が連続で二人続いて、その後にもう一人の男子のバレー部の人が走り、また5組の人が2人連続で走った後、朝比奈さんに回って来て、その後にアンカーである花輪さんに渡ることになったらしい……


 これは朝比奈さんたちが放課後の子って決めたことなんだけど、大丈夫かな? 朝比奈さん……


「……朝比奈さん! 頼みます!!」


 すると、5組の女の子がバトンを朝比奈さんに渡した。

 朝比奈さんにバトンが渡った時、まだ後方との距離はめちゃくちゃ開いていて、朝比奈さんは余裕の表情を見せて走り出す。


「おい!? まじかよ、あの子速すぎだろ!」

「あの子確か、学校一の美少女って言われている朝比奈日向ちゃんでしょ! あの子あんなに足速いんだ!!」

「これはもう赤組の勝ちだな……ただでさえ距離がすごいのに朝比奈さんがあんなに速いんじゃもう相手に勝ち目はないだろ……」


 同じ赤組の人からはそのような声が学年問わず聞こえてくる。

 朝比奈さん頑張って……

 みんなの期待を一新に背負う朝比奈さんだったが


「……あ、い、痛っぃ!!」


 ここでアクシデントが発生する。

 朝比奈さんがちょうど折り返し地点に入ろとした時、足を挫いて転んでしまった。


「おい……大丈夫かあれ?」

「嘘、転んじゃったの? 朝比奈さん……」


 赤組のみんなから朝比奈さんを心配する声が響いてくる。

 この好機を見逃さないと言わんばかりに白組の人は朝比奈さんのことを抜かして一位に躍り出る。


「……うぅ、まだやらなきゃ……」


 朝比奈さんは転んだ後、すぐに体制を立て直し立ち上がり、走り始めた。

 でも転んだ右足が痛いのか、さっきまでの速さが出ていないようだった。


 その間にも、黄組の人に抜かされて朝比奈さんは3位に落ちた。


「……朝比奈! 棄権しろ! その怪我じゃ無理だ!!」


 すると、そんな朝比奈さんに体育教師がストップをかけようと、駆け寄る。

 朝比奈さんはそんな体育教師を張り切って走ることをやめなかった。


 こんな時……友達なら……僕は朝比奈さんのために何ができる……


「……がん……ばれ、がんばれ……がんばれ! 朝比奈さん!!!!!!」


 僕は考えた結果、結局応援が一番という結論に行きついた。

 僕は今まで出したことのない声量で叫び始めた。 周りの人は僕がいきなりでかい声を出したからびっくりしていた。


 朝比奈さんは僕の声援を聞いたのかわからないけど、みるみるスピードを上げて、あっという間に黄組の人を抜き去った。


「おいおい!? あの子怪我してるんだろ?」

「やばくね、どうなってんの足……なんであの状態であそこまで走れるの!?」


 赤組の人が驚愕の声を上げる中、朝比奈さんはみるみるスピードを上げて、ついにアンカーである、花輪さんにバトンが渡った。


「京香……あと頼んだ、それとごめんね」

「日向……謝ることないよ! だってこれから勝つんだから! いひひ!!」


 花輪さんはバトンを受け取ると、みるみるスピードを上げて一位である白組の人を抜き去った。


「アハハハハ!! 走るの楽しい〜! 今のあたちはタカだ! チーターだ!! ライオンだー!!」


 花輪さんは叫びながら、無事一位のままゴールした。


 僕は花輪さんが一位を取ったことを確認すると、先ほど先生に保健室に連れられて行った朝比奈さんが心配で、保健室に向かおうとした。


「あれ? 日影、お前どこに行くんだ?」

「ごめん、ちょっとトイレ……」

「わかった! だけどすぐに戻ってこいよ! もうすぐ2年生の部が始まるからな!」

「……うん!!」



 僕はそこから早歩きで保健室に着くと、朝比奈さんが用意された椅子に座りながら、痛んだ右足を見つめながらボーとしていた。


「朝比奈さん、大丈夫?」

「え? 影密くん……大丈夫だよ!」


 朝比奈さんはいつも通り元気いっぱいの笑顔を見せた。

 僕はそんな朝比奈さんを横目に保健室にあった、椅子を持って来て、朝比奈さんのすぐ横に座った。


「すごいね、あんな怪我してたのに、そこから巻き返して」

「えへへ! 当たり前でしょ! こんなの私からしたら朝飯前よ! それに影密くんの応援があったからかな……」


 今の朝比奈さんは声のトーンと顔の表情が噛み合ってない感じがした。


「朝比奈さん……大丈夫?」

「大丈夫って……? どういうこと?」

「だって朝比奈さん、今さっき転んだ時のような表情をしているから……」


「……君はよく見てるね……」

「朝比奈さん、今はここに僕と朝比奈さんしかいないからお姉さんのような完璧を演じなくてもいいんだよ……いつもの僕の家にいる朝比奈さんでいいんだよ……」


 僕が優しく語りかけると、朝比奈さんは僕に思いっきり抱きついてきた。


「あ、ああ……朝比奈さん!?」

「私……転んだ時……私のせいで負けたら、私のせいで一位を逃したらどうしようって……そんなことばっかり考えて、なかなか足が進まなかった……私怖かった……みんなが私のせいで負けて……ここまで積み上げて来たものが、みんながここまで頑張って来たものが無になっちゃうことが怖くて……」


「……うん、大丈夫……」


 朝比奈さんは泣きながら自分の気持ちを曝け出す。僕はそれに対し優しく相槌を打って、朝比奈さんのことを優しく受け止める。


「この前、姉さんの真似事はやめるって言ったけど、なかなかやめられなくて、今までのイメージを払拭するのが怖くて……踏み出せなくて、そういうのもあって余計に怖かった……」


「だからありがとう……影密くん……転んだ時ポケットから、うさぎのキーホルダーが落ちて、私そのおかげでまた立ち上がることができた……影密くんの声援のおかげで自然と足が前に進んだ……だからありがとうね」


「感謝なんかいらないよ……だって僕は朝比奈さんのお友達なんだから……」

「うん、私影密くんのお友達になれて本当によかった!!」


「でも、朝比奈さん完璧を演じるって言っても、あのテストの点数を見れば、みんな完璧なイメージなんてすぐ忘れるんじゃないかな?」

「うるさい……バカ……えへへ」


 朝比奈さんは僕から体を離し、涙に濡れた顔で優しく微笑んできた。

 この時まだ僕は、朝比奈さんに友達以上の感情が芽生えていることに気づかなかった。

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