第27話 花火

「いや〜雨宮美香可愛かったよな〜! なあ、日影ー!!」


 モデルである朝比奈さんのお姉さんを見た後僕たちはもうすぐ花火が始まるということで、花火がよく見える場所へと移動していた。


 ほかの夏祭りにやってきたお客さんたちも僕たちと同じように花火がよく見える場所に移動している影響で今、ここは人でごった返していた。


「そうだね……雨宮美香さんお仕事かな?」


「ああ、そうだろ! カメラマンの人もいたしな!!」


 僕が大翔と話している中、朝比奈さんに背中を優しく叩かれたので僕は朝比奈さんの方を向く。


「……どうしたの? 朝比奈さん」

「ねえねえ、あそこにお面売ってるんだけどさ、あのお面イエローダンジョンのうさぎじゃない?」


 朝比奈さんが指し示すお面が売ってる屋台の方を見ると、確かに朝比奈さんがいつも愛用しているキャラクターであるうさぎのお面が飾ってあった。


 てか、イエローダンジョンのお面なんてあったんだ僕知らなかったよ……

「ねえねえ! せっかくだから買っていい?」

「うん……いいよ、大翔! 朝比奈さんが……あれ?」


 僕が朝比奈さんがお面を買うことを大翔に伝えようとして、彼がいた方を振り返ったけど、そこには大翔はおろか、花輪さんたちもいなかった。


 おそらくこの人の多さで逸れちゃったんだろう……


「大翔たちいなくなっちゃった……っていうか、僕たちが迷子になっちゃった……」

「ええ? あれ? 確かに本当だ! アハハ、私たち迷子ちゃんだね!!」


 なんで朝比奈さんはそんなに嬉しそうなんだろう……


 それから、朝比奈さんはそのお面を買った後、すぐさま顔につけようとした。


「ちょっと朝比奈さん、この人混みの多さで、お面なんてつけて大丈夫? 視界が狭まらない?」

「むう、確かにそうか……私一刻も早くイエローダンジョンのうさぎの気持ちを味わってみたかったんだけどな〜」



「……人が多いね……朝比奈さん大丈夫?」

「……うん、すごい人だね」


 僕と朝比奈さんはとりあえず花火がよく見える場所に向かって歩き続けていた。

 そこに行けば大翔たちとも合流できると踏んで


「影密くん……今度は私たちが逸れちゃうかもしれないからさ……手……繋いでいい?」

「へ? 手? 別にいいけど」


 朝比奈さんは逸れちゃわないように僕の手を握りしめた。


「影密くん手……あったかいね!」

「そ、そうかな? さっきたこ焼き食べたからかも」

「ふふ! なんだそれへーんなの!」


 朝比奈さんはいつものテンションで変わらず僕とおしゃべりしているけど、僕は今、朝比奈さんの顔も見れないほど、緊張していた。


「よーし! 到着! 影密くん、紗奈たち探してもいないから二人だけで見ちゃおうか!」


「……うん、そうだね」


 僕と朝比奈さんは花火がよく見えると言われている、緑の芝生が多い、周りに遮蔽物が少ない開けた場所に到着した。


「それでは! 今から花火が打ち上がりまーす! みなさん!! 空にご注目くださーい!!」


 すると、夏祭り会場にアナウンスが響いた後一発目の大きい花火が宙に舞った。


「……すごい、大きい……」


「影密くん、この後もっと大きいの来るよ!」


「……すごいね……花火」


 僕は久しぶりに見た花火に感動する。


「綺麗だね! 花火!!」


 僕は花火を見れてよかったよ……隣には朝比奈さんがいるし……

 ん? 朝比奈さんがいる? そういえば大翔たちが今いないから、ここには朝比奈さんの僕の二人っきりってことじゃないか……


 これってすごく恋人見たい!?


「そ、そそそ……そうだね」


「なになに〜どうしたのそんないきなりカタコトになって!」


 朝比奈さんそんなに僕の顔を見ないで〜!?


「いや、花火が綺麗すぎて……カタコトになっちゃった……」


「アハハ……なんだそれ! あ!? コアラの形の花火だ!! 動物の形をしている花火も出てくるんだ〜!! すごいすごい!!」


「…………」


 なんだろう……僕さっきから体が熱い……熱でもあるのかな? それに胸のドキドキが止まらない……

 やっぱり熱が……


「あれ? 本当にどうしたの? 影密くん? ちょっと変だよ!」

「えーと、僕もしかしたら熱があるかも……」

「え? 熱……? どれどれ?」


 朝比奈さんは自分のおでこを僕のおでこに優しくくっつてきた。

 僕はいきなりのことでさらにドキドキが強くなる。

 朝比奈さんの吐息の音が僕の耳に聞こえてくる。


「……は、はひ!? ちょっと朝比奈さん?」


「ううん! 熱はないみたいだね! 大丈夫だよ私のこのおでこは60℃まで熱を測ることができるから!!!」


「…………」

「ちょっと! ツッコンでよそこは! 私ちょっと恥ずかしいじゃん!!」


「……ごめん……」


 僕は今、そんなに60℃まで測ったらおでこが火傷しちゃうよってツッコミを入れようしたのだが、今考えたように瞬時にツッコミを入れることはできなかった。


 それから僕と朝比奈さんはしばらく無言でただ花火を見つめていた。


「朝比奈さん……ありがとう……僕に花火を見せてくれて……」


 そんな中、僕が沈黙を破り朝比奈さんに感謝を告げた。


「ふふふ! 何言ってんのよ! 影密くん、もっとこれから私と色々なもの見ていこう!」


「……うん、そうだね!」


 僕が朝比奈さんに微笑んだ時上空にこれまでで一番大きい花火が舞った。

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