第23話 つつ、付き合ってなんかないから〜!!

「あ、こんにちは! 日向の彼氏さん!!」


 朝比奈さんのお姉さんは僕をみるなら律儀に挨拶をしてきた。

 僕は朝比奈さんの彼氏じゃないのだけど……


「ね、姉さん! ちょっと私たち付き合ってるわけじゃないからね! 勘違いしないで!!」


「あら? そうなの? てっきり付き合ってるものかと〜うふふ! ごめんなさいね!」  


「それで充電器がないの?」


「そうなのよ〜あたしさっきこの実家に来たんだけどさ、家に充電器忘れてきちゃったから貸して!」


「そこに置いてあるわよ……! ところで姉さんはしばらくここにいるの?」


「うーん、仕事の都合がついてさ、ちょうど大学も夏休みに突入したし! 少しは羽を伸ばそうかなって思って家に戻ってきたのよ! だからしばらくはここにいるつもりよ〜」  


 朝比奈さんのお姉さんは大学に通学しながら仕事をしているのか……


 朝比奈さんのお姉さんの見た目は朝比奈さんに少し似てて、人気モデルの雨宮美香さんそっくりの顔つきをしていて、長い美しいロング髪が背中まで伸びている……そして、何よりとてもスタイルがいい……脚とかすごい長いし……


「あ、紹介遅れたね! あたしは日向の姉でJD兼モデル業をやっている、朝比奈向日葵あさひなひまわりって言うんだ〜! よろしくね! 日向のお友達!」


「僕は影密日影って言います……妹さんである日向さんとは仲良くさせてもらっています……よ、よろしくお願いしま……モデル? モデル業!?」


 僕は最後のモデルやってる発言をなんとなく聞き流していたけど、自己紹介の最後らへんでそれを思い出して聞いたことの驚きを胸に痛感する。


「そうよ〜あたしはモデルをやってるのよ、そこの雑誌に写っている雨宮美香……それ、あたしの芸名だから!」

「え……え、うえ!?」


 まさかとは思っていたけど、朝比奈さんのお姉さんがまさかあの雨宮美香さんだったとは……

 

 だからこの前大翔に見せてもらった時、朝比奈さんに顔が似ている気がしたんだ……


 今年一番驚いた気がする……


「ちょっと姉さん! いいのそんなに軽々行く言っちゃって……秘密にしたいんじゃなかったの?」


「まあ、その子日向のお友達って言うし、それにその子口固そうじゃん! 絶対誰かに言ったりしなさそう……それに、いつも日向と仲良くしてくれてるお礼よ!!」


「……全く姉さんは……」


「この子ったら可愛いのよ〜昔っからお姉ちゃんお姉ーちゃん!! ってベタベタしてたね! しまいには私のポスターを部屋の壁に貼るしまつよ!」


「べ、別にいいじゃない……姉さんは私の一生の目標なんだから……」


「あんたはさ〜っ、なんであたしの背中ばっか追ってるのよ〜あんたはあんたなんだからあたしの背中なんかを別に追わなくてもいいじゃん」

 

 朝比奈さんのお姉さんはため息混じりな声を漏らした。


「別に私が姉さんの背中を追おうが追わないだろうが私の勝手でしょ?」


「それはそうなんだけどさ……」


 こうみると朝比奈さんは本当にお姉さんのことが大好きなんだな……

 なんか二人を見ると、本当に実の姉妹みたいだ……

 本当に実の姉妹なんだけど……


「しばらくかりてくね! 後で返すわ〜それじゃあ日向、影密くん! あとはごゆっくり〜」


 朝比奈さんの姉さんはとてつもない光を放つ笑顔で僕たち微笑みつつ部屋を後にした。

 今の微笑みを見ていると僕は思わず惚れてしまいそうだった。

 それくらい今の笑顔は美しかった……


「なんというか……すごい人だったね……朝比奈さんのお姉さん……僕モデルの人に会ったの初めてだよ……やっぱり雑誌で見るのと、生で直接見るのはまた違うね……」


 朝比奈さんのお姉さんが部屋を出て行った後、僕は朝比奈さんにお姉さんの感想を漏らす。

 モデルの人を生で見るのは、やっぱり芸能人を生で見るのと一緒でなんかこう説明できない何かが違う……


「ええ……姉さんは可愛いし優しいし、誰にでもすぐに仲良くなれるし……本当にみんなに愛されてるのよ……」


「……朝比奈さんどうしたの?」


「さっき影密くんに言ったじゃん、姉さんは私の憧れの人だって……姉さんは昔から人を惹きつける力を持っていた、姉さんの周りにはいつも人がいたわそれに中学校では生徒会長について、周囲の信頼も厚かった……私はそんな姉さんにずっと憧れていた……」 


「え?」


「そんな姉さんを昔から見ていて追いつきたいって……そんな姉さんに認められたいって……必死に思った……姉さんは完璧だったのよ……勉強にしろスポーツにしろ……何もかも完璧にこなしていった……」


「ちょっと待ってよ、朝比奈さんはもう十分お姉さんに追いついているよ!! だってさっき、お姉さんは誰にでも仲良くなれてすごいって言ったけど朝比奈さんだって初対面の人にだってとても明るく接しているし、ほら! 入学式の僕にだって何が何だかわからずに逃げた僕を追いかけてまで話をしてくれた!!」


「……それは、ただ姉さんの真似事をしていただけよ……私はもともと人と話すのが苦手で初対面の人にだってとても今のように話したりすることはできなかった……でも姉さんに追いつきたいっていう一心で頑張ってたら自然と出来るようになったって言うか……だから、その……私は姉さんに追いついてはいないのよ……ただ姉さんの真似事をしていただけよ……」


「朝比奈さんはお姉さんに追いついて何がしたいの? そんなに必死に頑張って自分を変えようとして朝比奈さんは何を求めてるの?」


「ええ? 何を求めている……? そんなこと考えたこともなかった……私昔から姉さんばっかりを見ていたから、かっこいい姉さんみたいになりたいって思っていたけど、それがいつの日か義務みたいに自分を縛り付けていたのかも……」


「……君は……朝比奈さんはこの前僕に言ったよね自分が変わりたかったら変わればいい……変わりたくなかったら変わらなくていいって……朝比奈さんが本当にお姉さんに憧れてなりたいというなら目指せばいいけど、そうじゃなかったら無理に目指さなくてもいいっていうか……僕は朝比奈さんがどんな朝比奈さんだったとしてた友達だから朝比奈さんが僕のことを友達だと思ってくれてるいる間はずっと友達だから」


「何言ってんのよ〜影密くんは私の友達よ! この先ずーと!!」


「私もう姉さんの真似事はやめるわ! これからは私は私を貫く! 私授業中にお菓子を食べたいし!!」

「いや……それはまずいんじゃない……?」


 朝比奈さん授業中にお菓子なんて食べたら怒られるに決まってるでしょ……


 すると、朝比奈さんは僕の手を優しく包み込むように握った。


「……え……っなにしてんの? 朝比奈さん?」


「……ありがとう影密日影くん!」


「ふえ? なんで突然お礼? 僕なんかした?」


「私と友達になってくれてありがとう!!」


「そんなの……お礼なんて言わなくても……」


 僕がその言葉を吐いた時、朝比奈さんは僕に急接近してきた。


「……影密くんの髪って、めちゃくちゃサラサラしてる……」


「あ、朝比奈さん……?」


 朝比奈さんは僕の髪の毛をもしゃもしゃかき乱し始める。

 

「朝比奈さんなんか恥ずかしいからやめて……」


「っえ〜なんでよいいじゃんいいじゃん〜!!」


「……あんたたち……やっぱり付き合ってんじゃないの?」


 すると、朝比奈さんのお姉さんがまたまたお部屋に登場した。

 どうやらお姉さんには今までの一連の動作が全て見られていたらしい……


「つつ、付き合ってなんかないから〜!!」


 朝比奈さんはお姉さんに強く反論するその顔は今まで以上に真っ赤で慌ててる様だった。

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