第22話 朝比奈さんの憧れの人


「今日はすっごく楽しかった〜! あたちもう一年分泳いだよ〜!!」

「プール久しぶりに来たけどやっぱりいいな〜!」


 僕たちはプールを出た後、帰るために電車に乗るため、駅まで歩いていた。

 前を歩いている花輪さんと千秋さんはなんだか嬉しそうに話をしている。


 僕は普段運動を全くしないので、プールで泳いだらしたのでへとへとになりながら、ゆっくりと駅まで歩いていた。


「影密くん〜なんだかめちゃくちゃ疲れてるね」

「……うん、普段あんまり運動しないから……なんか今日1日泳いでいたから、疲れたよ……」


「影密くん今日頑張ってたからね! あ、そうだ!! 言わなきゃいけないことがあったんだけど!」


「え? 言わなきゃいけないこと?」


「うん! 影密くんはさ! いっつも私のことを家に招き入れて遊んでるでしょ! それをね! この前お母さんに話したら、是非影密くんとお会いしたいって!!」


「へ? お母さん?」

「だからさ……今週の空いてる日……私の家来ない?」

「あ、あ……朝比奈さんのお家?」


 え? 僕、今女の子の家に招待されたの?


「わ、わかった……行くよ」

「えへ! それじゃあ決まりね! 影密くん詳しいことは後で連絡するから!!」

「……うん、わかった」



 それから3日後……

 僕は自分の部屋の中で精神を落ち着かせていた。

 なぜ落ち着きがないのか……それは、もうすぐ朝比奈さんの家に行くからである……


「……うぅ、緊張してきた……」


 僕は緊張する気持ちを感じつつも、朝比奈さん……ひいては女の子の家に行くことに若干の新鮮感も感じていた。



——ピンポーン


「影密くん今開けるね!!」


「あ、うん……き……きました……」


 僕は朝比奈さんの家に到着するとすかさず家のチャイムを鳴らした。

 朝比奈さんの家はピンク色の屋根で庭が広い一軒家だった。


「やっほー! 影密くん、ちゃんと来れたんだね」


「……うん、朝比奈さんが送ってくれた地図が正確で迷わずくることができたよ……」  


 まあこれは嘘で、本当はちょっと迷いそうになったんだけど


「ささ! 入って入って!!」


「お、お邪魔します……」


 僕は今、同級生の女の子の家という未開の地に降り立った。

 

「あら〜いらっしゃーい!! あなたが影密くん?」


 朝比奈さんに促されるまま、リビングに向かうと朝比奈さんのあ母さんがリビングあるテーブルに座って僕のことを歓迎した。


「……き、今日はお招きいただき誠にありがとうございます!!」


「ふふ! 影密くん! そんなにかしこまらないでいいのよ! お友達のお母さんなんだかもっと気楽でいいのよ!」


「は、はい……」


 なんというか、朝比奈さんのお母さんは……

 うん、美人だ……


 しかしこう見ると、お母さんと朝比奈さんめちゃくちゃ似てるな……可愛い口元とかそれはもうそっくりだ……


 朝比奈さんのお母さんの年齢いくつぐらいだろう……僕のお母さんが40歳だから、多分それくらいだろうけど、目の前にいるこの人は20歳前半のような見た目をしている。


 こう見ると朝比奈さんのお母さんじゃなくお姉さんだと思ってしまうほどに


「影密くんとりあえず座ったら?」


 僕はただその場で呆然と立ち尽くしていると、朝比奈さんにそこのソファに座るように促された。


「こ、こんにちは……じゃなかった、失礼します」


 僕は緊張のあまりソファに座る時、失礼しますとこんにちはを履き違える。


「アハハ! 影密くん、緊張しすぎだよ! リラックスリラックス!!」


「それにしても! 日向に男の友達ができるなんてね〜! 先週ね、日向が高校に入学してから夏休みまでの1学期、やけに友達の家に遊びに行くなと思って聞いてみたら、まさかそれが男の子の家だなんて〜ねえ、影密くん! 学校での娘はさ、どんな感じ?」


 学校での朝比奈さんか……僕の家に遊びにくる時のぐうたらモードじゃなくて真面目モードだいうかなんというか……

 他人から見たらすごく優等生っぽく見えるけど実際勉強ダメダメだったり……

 朝比奈さんは無理して優等生を演じているのだろうか?


「……ま、真面目だと思います!」


「真面目!? 家ではポテチ食いながらスマホいじって大きいあくびぶっ放してるあの日向が?」


 ええ? そうなの?

 って驚愕したけど、思えば僕の家でもそんな感じだから大して驚かない……

 むしろそれを聞いて安心感さえ覚える。


「ちょ! ちょっと!? お母さんいきなり何言ってんの!!」


「だって本当のことじゃない! あんたこの前部屋の掃除したらポテチのカスいっぱい出てきたんだからね!」


「ご、それは悪かった……」


 前々から思ってたけど、朝比奈さんお菓子の中でポテチが一番好きなんだな……


 それから僕は朝比奈さんのお母さんと少しお話をした後、朝比奈さんが自分の部屋に僕のことを案内してくれた。

 

「影密くん! ここが私の部屋〜!」


「すごい……ここが朝比奈さんの部屋……」


 朝比奈さんの部屋はきちんと片付いていて、なんかフルーティのいい匂いが漂ってきて、女の子の部屋って感じがする。


 それに、テレビの奥にある壁の上にはイエローダンジョンのポスターとこの前、かき氷を食べるために並んでいた時後ろの男の人が喋っていた、雨宮美香のポスターが貼ってあった。


「あれ? この人って……雨宮美香さん?」


「え? 影密くん雨宮美香知ってるの?」


「うん、この前大翔に見せてもらったから……なんか今一番勢いのあるモデルだって言ってたっけ?」


「うん、雨宮美香今度ドラマにも出るらしくて本当にすごいよね……」


 朝比奈さんってこの前も思ったけど、雨宮美香さんのお話になると、なんだか過剰に反応する気がする……


「影密くん覚えてる? かき氷の時さ、憧れの人がいるって言ったこと……それが雨宮美香なんだ」


「ええ? そうなの? 雨宮美香さん」


 朝比奈さんは本棚から雑誌を取り出して、雨宮美香さんが写っているページを見せてきた。


「ほら見てよこれ! めちゃくちゃ可愛いでしょ?雨宮美香は可愛くて愛嬌があってみんなから愛されている……私はそんな彼女の背中を昔から追ってきた」


「ええ? 昔から追ってきた?」


「えーとね、昔から追ってきたって言うのはそれはつまりね」


「日向あんた今充電器持ってない?」


 すると、朝比奈さんの家族だろうか……女の人の声が聞こえてきて、その声の主が部屋の扉を開けた。


「……あたしあったの家に置いてきたっぽいんだテ……よ……ね……ええ?」


 僕は部屋に入ってきた声の主を一目見ると、口をあんぐりと開けて、しばらく開いた口が塞がらなかった。


「ちょっと……姉さん! 部屋を開けるぐらいはノックぐらいしなよ!!」


「ハハ……ごめんごめん!! まさか日向が家に男連れ込んでるとは!」


「あ、あ……あ、雨宮美香……!?」


 僕の目の前に現れた朝比奈さんが姉さんと言った相手はそこの雑誌にとても可愛い風貌が刻まれている雨宮美香にめちゃくちゃそっくりだった。

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