夏休み

第18話 朝比奈さんとかき氷

「そこまで!! 後ろから順に答案用紙集めて前に持ってってこいよ〜」


 今これを持って1年生1学期期末テスト全ての日程が終了した。


「やっと終わったな〜!」

「なあなあ! 夏休みどこ行く〜?」


 テストの答案を集めている中、クラスから早くも夏休みについての話題が飛び交う。

 ついに夏休みが始まるのか……でも1ヶ月って案外長いようで短いからな……せめて2ヶ月ぐらいはほしいな


 今年の夏休みは宿題少なくありますように……


「やっと終わったな〜!! 期末テスト」


「そうだね……今回は中間に比べて範囲が広かったからこの前みんなで勉強しといてよかったよ」


 HRが終わり、僕の元へとやってきた大翔も、とても安堵した様子で期末テストの終わりを噛み締めていた。


「でもちょっと不安だな……もしも補習になっちゃったら夏休み学校に来なきゃ行けないんでしょ……この前みんなで勉強したところはできたと思うけどそれ以下がからっきしで……」


「大丈夫だって! 自分を信じろ、でももし補習になったとしても朝比奈さんとの友情パワーでどうにかすんだろ?」


 朝比奈さんはどうだったんだろう……

 僕はなんとなく朝比奈さんの方を見つめた。


 そして、夏休みがやってきた。

 今日は夏休み1日目……初日ということで去年同様、イエローダンジョンの限定ダンジョンが配信開始の時間だ……


 僕はダンジョンが配信される午後12時を今か今かと待った。


 僕は期末テストで赤点を取ることはなく、無事に補習を免れることができた……

 同様に朝比奈さんも補習を免れることができたのでよかったと思う……


「……よし!! 来たぞー!!」


 僕は今日一番の声をあげて限定ダンジョンに挑戦するために、ダウンロードコンテンツをダウンロードした。


「……今年の限定ダンジョンは! 灼熱のマウンテンが舞台なのか!」

 

 夏休み限定ダンジョンは毎年ダンジョンのギミックが違う、去年は砂漠が舞台で、歩きにくくスピードを競う大会においては苦労した。

 

 今年はダンジョンの中が灼熱でダンジョン内を練り歩いているだけで、暑さによるダメージを喰らうのでいろんなところに落ちてる回復アイテムを駆使することが重要となる。


「このダンジョンの適正キャラは……うさぎナイトとオオカミファイヤーか……」


 うさぎナイトと言えば、プレイヤーネームうさぎこと、朝比奈さんだけど、彼女も今このダンジョンをやっているのだろうか?


「……うわ!? びっくりした!!??」


 そんなことを思っていると、スマホが大音量で音を鳴らした。

 僕は慌ててスマホを取ると朝比奈さんからOINEの通話機能で着信が来ていた。


「……朝比奈さん? 電話なんて珍しいね」


 あれ? よくよく考えたらこれ……僕、今生まれて初めて友達と電話してる?


「影密くん元気してる!?」


「元気っちゃ元気だよ……」


「それはよかった! それじゃあさ、もうすぐつくから家のドア開けてくれないかな?」


「うんわかった……へあ?」


 朝比奈さんもうすぐ着く? どこに? 家のドアを開けてくんない? え? もしかして僕の家?


「アハハ! びっくりした? 私今から影密くんの家行くから!! 着いたらドア開けてね!!」


「そんなに急に……」


「ごめんもしかしてダメだった?」


「いや! 違うよただ、急なことでびっくりしたって言うか……」

「えへへ! サプライズー!! あ、着いたよ影密くん、あーけーて!!」


 僕が自分の部屋から玄関に向かい、ドアを開けて彼女の顔を見ると、朝比奈さんはニッコニコの笑顔で僕に手を振った。


「急にごめんね! 私どうしても影密くんに会いたくて、飛び出してきちゃった!!」


「そんなに僕に会いたかったの?」


「うんうん!! ってことでお邪魔しまーす!」


 朝比奈さんは元気良く慣れた様子で僕の部屋に向かって行った。


「影密くん今もしかしてイエローダンジョンやってた?」


 朝比奈さんは部屋の中に入ると、ベットの横に設置されているテレビに映るイエローダンジョンの画面を見ると、興味津々の様子だった。


「うん……今日から夏休み限定ダンジョンの配信なんだ……」


「ええ!? あれって今日からなの? 私去年ちょっとやったけど、あれすごく難しいね! 私クリアはできたけど、とてもじゃないけどクリアタイムを競う大会にはチャレンジできなかったよ……」


「あれは毎回難易度が鬼むずいからね……僕も去年は何回も思考錯誤したよ……」


 朝比奈さんはしばらく僕の横に座って僕が限定ダンジョンを初見プレイする様子をただ眺めていた。


「そういえばさ! 最近暑くなってきたよね! 外に一度出ると、熱気で焼きおにぎりになっちゃうよ」


 僕が一通りダンジョンをクリアし終えると、朝比奈さんは地面から立ち上がり、僕に話を始めた。

 朝比奈さんの例えはよくわからないけど、確かに最近暑くなってきたな……


「外に出た後、家に帰って冷房の空気を一度浴びたらもう楽園みたいな感じだよね……」


「それで私が今日ここに来た本題を話そうと思います!!」


「え? 本題? 僕の家に遊びにくるためにここにきたんじゃないの?」


「もちろんそれもあるけど! もう一つ目的があってさ! 影密君かき氷は好き?」


「え? かき氷って氷の上にシロップかけるやつだよね? 好きって言えば好きかな……」


「よし! それじゃあ今からかき氷を食べにいきましょうー!! ちょうどこの前テレビとタンスタで美味しいかき氷屋さんがあるって紹介されててさ! それがこの近くにあるもんだから影密くんの一緒に食べに行きたいなと思って!!」


「かき氷を食べに行くっていまから?」


「……影密くんダメかな?」


 そんな可愛い顔でダメかな? なんて聞かれたらダメなんて言えないでしょ……

 それにせっかく誘ってくれてるから断るのもなんか悪いし……


「わかった朝比奈さん行こうか」


「えへへ! それじゃあ今から出発ー!!」


 僕はバックに財布などを詰めて、朝比奈さんと一緒に家を出てかき氷屋さんを目指して歩き始めた。


「そういえばさ……かき氷屋さんってこの近くっていってたけど、この近くにかき氷屋さんなんてあったっけ?」


「うん! あったんじゃなくて、最近できたんだよ!!」


 僕たちは会話をすること、数分……朝比奈さんが言っていた、かき氷に到着した。


「……すす、すごい人だ……」


 僕はかき氷屋さんの前に到着すると、かき氷屋さんを待つ人で行列ができていた。


「……あそこまで列が続いてる……」


 このかき氷に並んでいる行列を見ると、某テーマパークのアトラクションの待ち時間の風景によく似ている。


「……アハハ、テレビの効果ってすごいね……今日夏休みだけど、平日なのに人がこんなにいっぱい……」


 こんなに人が並んでいると言うことはやはりここのかき氷は美味しいということなのか……


「どうする? こんなに人がいるならやめとく?」


「いや……せっかくだし並ぼう……! 僕ここまで来てかき氷お預けなんて耐えられない……」


 朝比奈さんが本当は並んでかき氷を食べたいけど、僕に気を遣ってその思いをおし殺し、無理やり笑顔を作って、僕に選択を委ねてくる。


 朝比奈さんが食べたいなら僕はそれに付き合ってあげるだけだ……

 だって僕は朝比奈さんのお友達だから……

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