第12話 本当に友達になれてよかった

 緋村くんはそれから話を始めた。


 どうやら、自分の無敗記録を破ったマスターというプレイヤーを探して、そのマスターというプレイヤーともう一回あのゲームで戦いたかったらしい……


 それで、僕たちの話を聞いて、マスターの正体が僕なんじゃないかと思った緋村くんは僕をこんなところまで呼び出して、マスターの正体が僕なのかということを確かめようとしたらしい……


「……え? それじゃあ、私の思い過ごしだったってこと? やだー! なんだか私バカみたい! 恥ずかしいよ〜!!」


「アハハ!! お前ら本当にお似合いだな」


「っていうことは、緋村くんは僕ともう一度対戦がしたいということ?」


「そうだ!! 俺お前に感謝してるんだ! 今まで俺は負けなしだったからな! なんか他の人とは違うなんていうか……孤独感みたいなのがあったんだ! でもお前に負けたことで、俺は孤独感みたいなものから解放されて! なんというか、さらに成長することができた! だから俺に勝ってくれてあんがとな!! 影密くん!!」


 なんか緋村くん……漫画の絶対級の最強キャラが何かを悟取った時みたいなセリフを吐くんだね……

 

「いや、お礼を言われる筋合いはないというか……なんかその……お礼を言われると照れる」


「アハハ!! てかよ、お前面白いやつだったんだな! クラスでいつも静かにしてたから全然気づかなかったわ!! 影密くん! もちろん知ってると思うけど俺は緋村宗馬って言うんだ! これからよろしくな!! 影密くん……いや日陰!!」


「え? うん……よろしく緋村くん!」


 僕と緋村くんは笑顔で熱い握手を交わした。


「日陰! 俺のことは普通に下の名前で呼んでもらって構わないぜ!!」

「え? その……え? その……」


 僕、誰かを下の名前で呼んだことがないからなんだか緊張するな……

 下の名前がなかなかハードルが高いな……


「……そ、宗馬……」

「アハハ!! なんでそこで照れるんだよ! まあ、日陰よろしくな!!」


 僕が緋村くんと握手を交わしている時、横にいた朝比奈さんはすごい嬉しそうに微笑んでいた。


「……朝比奈さんなんだが嬉しそうだね」

「……だって〜!! 影密くんに新しいお友達ができたんだよ!! そんなのお赤飯炊くレベルの嬉しさだよ!!!」


 いや、お赤飯を炊くレベルってそんな大袈裟な……


「あの、れ……蓮、僕たちは友達なの?」


「は? 日陰……違うのか? だったら俺泣いていいか?」


「あえぁ!? 違うよ! 別に蓮と友達になるのは嫌だというわけじゃないよ! ただ、今の握手だけで友達になったのかどうかわからなかっただけだよ」


「あのな……友達って言うのはな! 握手を互いに交わしたらそりゃもうダチなんだよ!!」


「そうなんだ……なんかごめんね」


「なあ! 朝比奈さん! こいつすげー面白いな! 俺こいつもらっていいか?」


「だ! ダメ!! 影密くんはあげないよ! 緋村くんと影密くんが友達になるのはとっても喜ばしいことだけど、それとこれは別なの!!」


「アハハハハ!! 冗談だよ!! 日陰は俺たち二人のもんだ!! アハハハハ!!」


 いや、僕はあなたたち二人のものじゃなくて、僕自身のものなんですけど……

 なにやともあれ、一件落着になったのかな?


 

 そして、放課後……いつも通り学校が終わったあと朝比奈さんは僕の家に入り浸る。



「……それでさ! 影密くんはいつ緋村くんとデラックスファイターズでバトルするの?」


「確か……今週の金曜日に、蓮の家か……僕の家のどっちかで対戦しようってことになったかな……」


「へえ〜そうなんだ〜ねえ、それ私も言っていい?」


「え? 朝比奈さんも?」


「もしかして私はダメなの? 嫌だよ! 私影密くんがいいよっていうまで、今日帰らないから! いいの? いいよって言わなきゃ私ここの子供になっちゃうよ?」


 え? 別にまだ僕はダメだとは言ってない……にしても、そうなったら親になんて説明しよう……擬似双子? 擬似姉ちゃん? 擬似妹? 


「……別に僕まだダメとは言ってないよ……それにせっかくなら朝比奈さんも誘おうと思ってたし」


「ほんと!? やったー!! あ、このポテチうまい! コンビニにひっそり置いてあったけど、これは美味ですわ〜!!」


 朝比奈さんは手に持っているポテトチップスの袋からポテチを口に入れてバリバリ食べている。


「……あ、それ僕も食べたかったのに、全部食べたの?」

「へへ! 全部食べちゃった!! ごめんね影密くん!!」


「もう、朝比奈さん……僕の分も残しておいてよ」


 朝比奈さんは気がつけば、ポテチの袋を丸々一個平らげていた。


「……ごめんごめん……美味しくてついつい!! あ、なんだったらさ! 私の手を舐める?」


「はい? 朝比奈さん何言ってんの?」


「え? 私の手にポテトチップスの味がついてるから少しでも味を味わえるかなって……」


「いやいやいや……それは遠慮しておくよ」


 僕が遠慮をすると、朝比奈さんは紙コップに入った、メロンソーダを一気飲みして、漫画を片手に僕のベッドでゴロゴロ転がりながら幸せそうに笑った。

 朝比奈さんめちゃくちゃぐうたらしてるな……


「……アハハハハハ!! うぃひひひひ!! ギヒャハハハハハ!!」


 朝比奈さんはベットに転がりながら漫画を見てたらとあるワンシーンが面白かったのか、腹を抱えて大声で大笑いし始めた。

 なんだか楽しそうだな……


「朝比奈さん……そんなに面白かった?」


「あーは!! マジで最高だよ!! ここのシーン考えた人天才でしょ!!」


 朝比奈さんは漫画のとあるワンシーンを絶賛していた。

 僕もそのシーンは結構気に入ってる


「影密くん!! 私と友達になってくれてありがとね!!」  


「いきなりどうしたの? そんなこと言って……ていうか、それは……こっちのセリフだよ……」


 僕と朝比奈さんは二人で笑顔で微笑みあった。

 本当に朝比奈さんとお友達になれてよかった……

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