第3話 月夜の咆哮……
「ここは……」
目を覚ましたら、見覚えのない白い天井が広がっていた。あれ……おれは……なんでこんなとこに……?
「……痛っで!!!!!!」
両手がものすごく痛ぇ!!……でもその痛みで思いだした。俺はあのロン毛との戦いで……
「……ぶっ倒れちまったんだな」
あのあとどうやら病院に運ばれたみたいだ。両手が包帯でぐるぐる巻きにされていた。窓の外も真っ暗だし……結構寝てた見てぇだなぁ……。
「まいったなぁ……じいちゃんになんて説明すりゃいいんだ……あれ?……てか……ん!?」
俺はとんでもないことに気づいて途端に青くなる。
「相棒!! 相棒はどこだ!!!」
俺の相棒・エアロドラゴンの姿が見当たらないんだ!!俺は慌ててベッドの周りや、近くに置かれた俺のカバンを探した!でもやべぇ! 全然見つからねぇんだ!!
「もしかして、まだ店の中に!!? いや誰かが拾って盗んだり!!!?」
俺がそう騒ぎ出した瞬間、ドアの外から聞き覚えのある声が響いた。
「なんじゃ元気そうじゃな? 心配して損したわい」
声を聴いてドアの方を見るよりも早く、ドアが開き、声の主がその姿を現す。
「じいちゃん!!」
声の主は俺のじいちゃん、神風疾風(かみかぜはやて)だった。
「見舞いに来たのはわしだけではないぞ?ほれ」
そういうと、じいちゃんは身体を逸らし、後ろからゾロゾロと何人かが入ってきた。
「お前ら!!」
最初はいつもの二人かなとおもったんだけど、茜や宙斗だけじゃなく、今日知り合ったばかりの将兵衛やゴムゾーのおっさんまでいやがる。
「どうしたんだよ? みんな揃って」
「どうしたじゃないわよ!!! このバカ!!」
皆に声をかけようとしたら開口一番、茜に怒鳴られて俺は肩をすくめた……。
「な、なんだよ……。いきなり怒鳴るんじゃねぇよ……!」
「茜さんが怒鳴るのも無理ないですよ……! あんな無茶して……運ばれた時ほんとにすごかったんですからね!?」
宙斗もすこし怒ってるみてぇだ……そんなにダメだったかな……?
どう二人に声をかけたもんかと迷っていたら、将兵衛が俺の前に出てきて口を開いた。
「まぁ仕方あるまい……。二人ともお主のことを心底から心配しておったのよ……」
「そうなのか……?」
「いきなり倒れたからなお主は……」
将兵衛はすこし鼻をすすって、それから
「く……う……うう!!」
急に涙を流し始めた
「お、おい……?」
「く!! うう!! ……すまぬ!! もとはと言えば拙者の責任……!! そんなに手をボロボロにさせてしまって……!!! 本当にすまぬ!!!!」
そう涙を流しながら将兵衛は俺に頭を下げ続ける。
「お、おい!!? べつにお前のせいじゃねぇからよ!! 気にすんなって!!」
「すまぬ!! すまぬ!!!!」
将兵衛は大声で泣きながら頭を下げ続ける……。ほんとにこいつが悪いわけじゃねぇのになぁ……。
「そうよ! 悪いのは勝手に挑んで、勝手に無茶して、勝手に倒れたこいつじゃない!? 将兵衛さんは悪くないわ!!」
横から茜が怒鳴りながら口を挟んできた。いや、確かに茜の言う通りかもしれねぇけど、そう実際に言われるとなんか頭くるな……。俺は言い返してやろうと茜の方を向いた。
「あのな! なんかもうちょっと言い方ってもんがあるだろうが! あか……ね……?」
茜は顔を真っ赤にして、目に涙をためていた……
「言い方なんて知らないわよ!! いい!!? 二度とこんな大けがするような無茶しないで!!!」
そういうと茜はとなりに立つ将兵衛のようにわんわん泣き出し
「そうですよ!! ぼくはこんな翔ちゃんを見たくて……ショップに誘ったんじゃ……ありません!!!」
そう叫んだ宙斗も泣き出しちまった……。な、なんだこの状況……? どしたらいいんだ!?
「き、君たち……気持ちはわかるけど一応病院なんだから……」
さすがにうるさすぎたのか、ゴムゾーのおっさんが注意した……が……
「「「うわああああん!!!」」」
声が届いていないのか、それとも止めたくても止められないのか……3人とも泣いたまま一切止まる気配がない。
「やれやれ……同じ病室に患者さんがいなくてよかった……というべきか……」
おっさんはヒゲをさすりながら苦笑してそう呟くと、俺の方を向き。
「まぁとはいえ……だ……!……私も君に謝らねばな」
そう言うと突然、頭をがばっと下げた……!
「君が氷を無理に砕こうとした時点で、無理やりにでも試合を止めるべきだった! すまない……! 翔くん……!!」
「い、いやいやいや!!! だからそれこそ俺が勝手にやったことで……!」
「違うんだ……! 店のオーナーとして……いや、大人として君を止めるべきだったのに……! 結局こんな大けがをさせてしまったのは私の責任だ……!!」
「だ、だからそんな謝らなくたっていいってば! 大体おっさんが悪いわけじゃねぇし……! 悪いのは……そう! あんなルール悪用してるロン毛だろ!?」
「いや、悪いのは、そのルールとやらを作った組織じゃな」
今まで黙ってこっちを見てただけだったじいちゃんが、急に口を挟んできて、俺とおっさんはおもわずそっちの方を見つめる。
「じいちゃん? 組織って世界なんちゃらとかいうやつか? てか、なんでじいちゃんがそんなの知ってるんだよ?」
じいちゃんは俺の質問を無視して、ゴムゾーのおっさんに話しかけた。
「ワシが離れてる間に、やっぱりそんなことになっちまったか……ゴム坊」
「疾風さん……。はい、あれからあなたの予想した通りになってしまいました……」
おっさんとじいちゃんはなんか二人にしかわからない話をしてる……てかなんだ?この二人知り合いなのか?
「な、なあじいちゃん」
「よし! じゃあそろそろ帰るとするか! 翔! 帰りの支度をしておけ! ゴム坊! 一緒に受付いくからちょっと付き合え!」
「か、帰りの支度!!? 何言ってんだよじいちゃん!!」
まだ全然痛ぇし、腕中包帯だらけだし、さすがに入院だと思っていたから、そんなこと言われて俺の声は思わず裏返っちまった。
「疾風さん!? このケガではさすがに……!」
さすがゴムゾーのおっさんはまともだ……!そのとおりなんだよじいちゃん!ちゃんと治療させてくれ……!
「この程度家かえって飯食ったら治るわい。なぁ翔?」
いや全然だめだわこのジジイ……。そんなつばつけときゃ治るみたいなこといつまでいってんだ……。
「いやあ? さすがに飯食うだけじゃ治ったりしねぇって……常識的に考えて」
「今日の夕飯が焼肉でもか?」
「よし退院だ!!」
「ちょっと翔くん!?」
焼肉なら大丈夫!明日になったら爪も何もかも元通りだ!!
でも俺が二つ返事でOKを出したから、おっさんはびっくりちまったみてぇだな……?マジかこいつら、みたいな目で俺とじいちゃんを交互にみてやがる。
「というわけじゃ。ほれ! ゴム坊ついてこい!」
「え!? あ……は、はい!」
じいちゃんは振り返ることそのまま病室を出て行き、ゴムゾーのおっさんも慌ててその後を付いていった……と思ったら
「ああ、そうだそうだ! 忘れてた!!」
おっさんが慌てて病室に戻ってきた。
「どしたんだよ? おっさん」
「この子をちゃんと、君に返しておかないとと思ってね……」
「……?」
おっさんは肩にかけたカバンから何かの袋を取りだす。なんだろうと思ってみているとその袋を俺に差し出した。
「ほら、開けてごらん」
「ん? あ!相棒」
おれは袋からすぐに相棒を取り出し、手のひらに乗せてその姿を確認する。すると、相棒の姿にどこか違和感を覚えた……。
「なんか……あの戦いのキズも全然見当たらねぇし……それに……」
あんなにやられたのにきれいなこともそうだが、何よりも気になったのは、相棒の尻のところ、つまりデコピンを当てる位置にジェット機の噴射口みたいな突起が付いていたことだ。突起は正面からみると、噴射口の穴にあたる部分がボコっとくぼんでいる。
「おっさん……どうしたんだこれ?」
「修理しておいたよ。君に負けずその子もボロボロになっていたからね……。それから、そのお尻についているパーツは[インパクトスラスター]だ……。今回の件の迷惑料として受け取ってくれ」
相棒は二つの翼の間にそのなんとかってパーツがついて、めちゃくちゃかっこよくなってやがる!
「ありがとよおっさん!!」
「いやいや……礼を言わなければならないのはこちらの方だ。本当にありがとう」
おっさんはそう言って優しい笑みを浮かべた。
「おう! ……ところで……このパーツどう使うんだ?」
「うん! それはね……」
「お~い!! 早く戻ってこんかぁゴム坊~!! 年寄を待たせるなぁ!!」
「は~い!! ……ごめん!! そのパーツの使い方は……宙斗くんにでもきいてくれ!!」
「え!? あ! ちょっと!!」
じいちゃんに呼ばれたおっさんは慌てて部屋を出て行った。まったくやれやれだ……。
‘(ていうか宙斗にでも聞けって……)
「「「うわああああん!!!」」」
さっきから3人でずっと泣きっぱなしじゃねぇか!!てかよくずっと泣いてられるな!?逆にすげぇよこいつら!!
「あ~もう!! お前らいつまで泣いてんだよ!!? 帰るってよ!! 早く支度しようぜ!! な!!!」
「「「うわああああん!!!!」」」
……結局、それからじいちゃんたちが戻ってくる直前までこいつらはずっと泣き続けていた。
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病院を出て、3人を家まで送り届け、俺はじいちゃんと二人で家にもどってきた。
まぁようやく二人になったし、今度こそはぐらかさずに話を聞かせてくれるだろう……と俺はさっき気になったことを聞いてみることにした。
「なぁ、じいちゃんとゴムゾーのおっさんて知り合いだったんだな? どういう知り合いなんだ?」
「ん? まぁ昔いろいろとな」
「なんだよそれ……。じゃあなんで消しバトのルールを決めた組織のこととか知ってたんだ?」
「ん? まぁいろいろとな」
「色々ばっかじゃねぇか! さっきから!!」
俺が怒り出すとじいちゃんは小さく笑った。そして
「いつかわかるときがくる……。お前さんの相棒とともに戦っている限りはいつかな」
なんて言いやがった。だからいつかって何なんだよ……。あの仮面のおっさんといい、じいちゃんといい……!
「まぁしかし!」
「あん?」
「お前が消しバトを始めたとは知らんかったわい」
「え? あ、そういや話してなかったっけ」
「まぁどっちでもいいがな……。いちいちお前さんがどんな遊びをはじめようが……」
「そ、そうだよ!! 相棒……あのエアロドラゴンはなんなんだ!!? こいつには何か秘密があるのか!? ただの入学祝いじゃなったのかよ!?」
しかし、じいちゃんは俺の質問には答えずに立ち上がると
「さて!! 焼肉の支度でもしようかの! 飯食ったら早く寝られるように風呂入っとけ!」
そう言ってじいちゃんは部屋の出口へと向かう。
「お、おい!!」
俺が呼び止めても、止まることなくドアを開けた。しかし、ドアを開けたらその場で立ち止まって
「すべての秘密を知りたくば、ただただ強くなれ……相棒とともに……!」
背中越しにそれだけいうと、部屋を出て行ってしまった。
「なんだってんだ……くそ……!」
俺は一人取り残された部屋でそう小さくぼやいた。それから……
「……相棒」
俺はカバンから相棒を取り出し、その姿をじっと見つめる。
――君に劣らず、その子もボロボロになっていたからねぇ
病院でのおっさんの言葉がよみがえった。俺のせいで……俺が弱いせいで相棒は……やられちまったんだ……。
「ごめんな……相棒……」
手の平の相棒に向けてそう小さく呟く。そして……
「負けたんだな……俺……。……へ……へへ」
あのロン毛の姿が浮かび、そう口に出した途端、なんだか笑いがこみ上げてきた。でも一方で……涙が勝手に溢れて溢れて、止まらなくなっちまった……!
「……へへへ……なにが……何が俺に任せろだ……!何が俺がぶっ潰すだ!!」
笑いはどんどん怒りへと変わっていく!!
「くそ!!!!! くそ!!!!!!! くそぉ!!!!!!!!!!!!」
俺は泣き叫んだ……!
悔しくて悔しくて! 相棒に申し訳なくって!! 信じてくれたみんなにも申し訳なくって!!! ……でもなによりも!!!!
情 け な い 自 分 自 身 が 本 当 に 許 せ な く て !!!!!!!
「うわぁあぁああああん!!!!」
月夜の晩に、俺の泣き声はいつまでも響き続けた……。
……俺の涙が止まるまで、じいちゃんは呼びに来なかった。
消しゴムバトラー!!神風SHOW!! 井ノ中 エル @ryou1994
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