第2話 戦慄の氷帝!!氷咲響也とヴィルヘルム!!! その4

「あ、あぁ……!相棒……!!」

「勝負ありだね? ではつぎは氷ごと君の相棒を砕こう……」


 ロン毛に呼応してヴィルヘルムの目が赤く輝く。そんな……ここで……こんなところで俺は終わっちまうのか?


「く……そ……」


 もうどうしようもない……こいつは相棒は砕かれて死んじまうんだ……!俺が間違っていたのか? 他人のことなんてほっとけばよかったのか?……わからない……。


「あい……ぼう……」


 膝から崩れ落ち、地面を見つめる俺は、もはや顔を上げて相棒の姿を見ることはできなかった……。俺のせいで粉々にされる相棒の姿なんて見たくなかったんだ……。

 しかし、その時……!


「なぜ攻撃許可をもらえないんですか!? 相手の消しゴムを破壊することは許可されているはずです!!」

 

 ロン毛がなにかイラついた様子で叫ぶ声が耳に入って来た。相手は……


「たしかに、それは認められている。けれど……その場合は次に攻撃側になる選手がパスするか、完全に戦意喪失したときのみだ。それはわかっているだろう?」


(ゴムゾーのおっさん……)


 おっさんは俺の方に向くとゆっくりと近づきしゃがみ込む。そして俺の肩をぽんと叩いた。


「なんだよ……?」

「君はもう完全に戦意を失ってしまったのかい? ならば、もう響也くんのターンになる。そうしたら本当に君の相棒は粉々に砕かれてしまうんだよ? それでもいいのかい?」


 (そんなの……いいわけねぇだろ……!でも相棒は凍ってうごけない……どうしたらいいんだよ……!)


 心の中では反論が浮かんでくるのに俺は口を開くことができなかった。多分、本当に戦意喪失しちまったんだな……。もう立ち上がれる気がしねぇんだ……。


「ふむ、立ち上がれない……か。それも仕方ないかもしれんな……」


「……」

「だがな?」

「……なんだよ?」

「君とともに戦うものたちはまだ戦う意思を失っていないようだよ?」

「……何言って」

「まわりの声に耳を傾けてごらん」

(……まわりの声? ……!!)


「翔~!! 立って!! 負けないで翔!!!」

「翔ちゃんならやれます!!! 立ってください!!!!」

「拙者と墨切丸の思いをバトンタッチの時に背負ってくれたであろう!!! 拙者はお主を信じている!!! 立ってくれ神風殿!!!」


 茜、宙斗、将兵衛……それに……!


「まわりといっても3人じゃないですか……。そんな小さな応援で何が変わるというのです? こいつはもう戦う意思を失った、立てません。それが事実です。これ以上は時間の無駄ですよ」


 ロン毛がそう嘲笑い、俺は肩を震わせる。そして……


「ダッハハハハハハ!!」


 俺は大きく笑いだしちまった!!途端、ざわついていた客席が静まりかえる。


「な、なんだ!!? 気でも触れたか!!」

「いやいや正気だぜ? ただ、お前がドヤ顔で勘違いのたまってるのがおかしくってよ」

「勘違い?」


 ロン毛がイラついた様に眉間に皺を寄せる。


「ああ! 3つも勘違いしてるぜお前!!」


 俺は顔を上げて高らかに叫ぶ!


「一つ!! あいつらの応援は小さくなんかねぇ!! どんな応援よりも大きく心に響く最っ高の応援だ!!!」

「なんだ。そんなくだらない友情ごっ……」

「二つ!!」

「!」

「3人じゃねぇ!! 4人だ!! 俺とともに戦ってくれているのは!!!」

「4人……だと? クク……あと一人はどこにいるんだい? もしかしてゴムゾーさんのことかい?」

「は! ほんと節穴だなお前。最初からずっといるじゃねぇか! 俺の相棒が!!!!」

「なに?」


 そうだ! 相棒は戦う意思を捨てて何ていなかった!!! あいつは俺が立てなくなっても、氷漬けになってからもずっと!!俺が立ち上がるのを待っていたんだ!! 

 氷の中の相棒は「ようやく気付いたか」とでも言うように黄色いその目の光をさらに強く輝かせた!


「……3つ目は?」


 さっきまで馬鹿にしたような様子だったロン毛の表情がすこしマジになる。


「三つ!!! この俺、神風翔は!!!! 仲間たちがいれば!!!!! 相棒がいれば!!!!!! 絶対に立ち上がれるってことだぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」 


 俺は全身に力を入れて、立ち上がった!!


「三人とも!!! ありがとな!!」

 

 客席で応援してくれたあいつらに礼をいい、そして俺はゴムゾーのおっさんの方を向いた。

 

「おっさんも、ありがとな」

「なに、私はただ気づかせただけだよ。君は一人ではないということをね」


 そうおっさんはやさしく笑った。


「ふ~ん。ずいぶんとヒロイックに立ち上がったね? でもどうするんだい? 君が立ち上がったところで相棒は氷の中……状況は何一つ変わっていないよ?」

「へ! 変わるさ! 俺と相棒が戦う意思を合わせれば!! 変えられないものなんて何一つねぇ!!!」


 俺はバトルステージの前に立ち、氷の中の相棒を見つめる。


 (相棒、またせたな!!)


「ふん、気持ちで勝てれば苦労はしない。その氷の中の相棒とどう一緒に戦う?」

 

 ロン毛が相変わらず嫌味な調子で問いかける。でも……


「俺の答えは決まってるぜ!! こうするんだぁ!!!!!!!」

「……な!!?」


 その場にいたゴムゾーのおっさんや観客たち、ロン毛までも含めた全員が信じられないといった表情で俺を見つめた!多分思ったんだろうな。狂気の沙汰だってよ!!


「うおおおおおおおお!!!!」

「や、やめるんだ!! 翔くん!! そんなことをしたら!!」

「神風殿!! いくらなんでも無茶だ!!」

「翔!! やめて!!! ほかの方法を考えて!!!」

「翔ちゃん!! だめだよ!!!」


 さっきまで応援ムードだったやつらもみんなそろって止めようとしやがる……!でも悪いなみんな!!これしか思いつかねぇんだ!!!


「うおおおおおおおお!!!!!」


「「「「指がダメになってしまうぞ!!!」」」」


 みんなが口を揃えてそう言った。俺がやっていること……それは!


「氷に向かって、ひたすらにデコピンだと……!!?」


 いまロン毛が言った通りだ。俺は相棒を救うためにひたすら力を込めたデコピンを氷の塊に向けて放ち続けていた!!


「中指から血が出ている!!やめろ!!」

「中指がダメなら人差し指だぁ!!!!!!」


 俺は全部の指が血だらけになろうがぶっ壊れようが止めるつもりはなかった!ずっと戦う意思を失っていなかった相棒に報いるためにも、俺は止まるわけにはいかなかった!!

 ……そして、ついにその時がきた!!


 ピシ!ピシピシピシ!バキィィィィィン!!!


 相棒を覆っていた氷が音を立てて砕け散った!


「はぁ……はぁ……待たせたな……ショータイムだぜ……相棒……」

「無理よ!やめなさい!!」

「そうだよ翔ちゃん!だって!!」

「お主は……!! お主の両手の指は……!!」

「すべてボロボロじゃないか!!!今すぐに救急車を呼ぼう!!」


 客席の3人とゴムゾーのおっさんはそう言って止めようとする。そう……俺は相棒を救出するために両手の指すべてを使って弾きまくったから、爪は全部割れて、両手から血をダラダラ垂らしていた。


「……覚悟……しやがれ……ロン毛……」


 俺は気力だけで立ち続け、焦点の定まらない目でロン毛をにらみつけた。するとロン毛はすこし目を閉じ、そして


「……ここまでにしよう」


 何を考えているのかよくわからない表情でそう言った。


「ああ……? なんでだよ……?」

「そんな状態では戦えまい。それに……仮にシュートしようものなら、二度と消しバトができなくなるだろう」

「は……? 最初っからやる気なくすくらい叩き潰す気だったんだろ?」


 俺がそう反論すると、ロン毛はさっきまでとは違う、なんというか嫌味じゃない感じで……


「……フ」


 そう小さく笑った。


「……な、なに……笑って……やがる……?」

「……この状態の君を叩き潰しても、全力じゃなかったからとか言い訳の余地が生まれるだろう?」

「なんだとこのや……」

「だから……決着はつぎのコンサートまで預けておこう。その時にはもっといい旋律を奏でられるよう、精々強くなっておきたまえ」

「……」


 舐めやがって……でも言い返せねぇ……。黙った俺に追い打ちでもかけるようとしてるのかロン毛がまた口を開いた。でも、出てきた言葉は想像していたものとは違っていた。


「……名前、なんだっけ?」

「……神風……翔……。そして俺の相棒……エアロドラゴン……! てめぇを叩き……潰す……名前だ……覚えておきやがれ……ロン……毛……」


 朦朧とする意識の中、なんとか声を絞り出す。


「覚えておくよ……。エアロドラゴン……そして……神風翔……!」


 それだけ聞くと、俺は意識を失った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る