第2話 戦慄の氷帝!!氷咲響也とヴィルヘルム!!! その3


「……君が僕を倒す?」

 ステージへと上がる俺をロン毛が馬鹿にしたような目で見下しながら口を開いた。


「ああ!!」

「ちょ、ちょっと君!!? 困るよ!勝手に上がっちゃあ!!」


 MCのおっさんが慌てて俺に駆け寄る。


「このエキシビジョンマッチは将兵衛くんと響也くんのマッチアップなんだ! 試合はもう終わったの!! ほら下がって!!」


 そうだそうだひっこめ~!!


 MCの言葉に続いて、ほかの観客たちからもヤジが飛んでくる。でも俺は引きたくなかった……いや!引けなかった!!!

あのすかしたツラをギャフンと言わせねぇと腹の虫がおさまらねぇ!!


「ふうん? ほんとにやるつもりなんだ?」

「当たり前だろ!! なんのために上がってきたと思ってんだロン毛!!」

「響也くんも何言ってるの!? 会場の使用時間だって決まってるんだからそんなの認められないよ! ほら君! おりなさい!!」


 そう言ってMCのおっさんが俺の身体をつかんで、無理やりステージから降ろそうとした時だった。


「いいじゃないですか!! 実におもしろい!!」

「え?」


 会場内から聞き覚えのあるおっさんの野太い声が響き、MCのおっさんの動きが止まった。


「ご、ゴムゾーオーナー!! い、いいんですか!?」


 ゴムゾーのおっさんは席から立ち上がると、ゆっくりとステージに上がった。


「ええ、構いませんよ?別にこのあとイベントがあるわけでもありませんから。それに……」


 俺の方をチラっとみて笑うとゴムゾーのおっさんは話を続けた。


「見たでしょう? 翔くんのすごいシュートを。あれなら響也くん相手でもいいバトルを見せてくれそうだ」


 MCのおっさんは、ゴムゾーのおっさんの話をきくと、まだ納得いかないような顔をしつつも俺を解放した。


「で、では……オーナーがいうなら……きょ、響也くんもそれでいいかい?」

「ええ、ぼくは構いませんよ?」

「……ゴホン!! というわけで! すごいハプニングだが! これよりエキシビジョンマッチの第二回戦を行うぞぉ!! みんな!! たのしんでくれ!!」


 その瞬間、会場内が再び歓声に包まれた。さっきまでヤジ飛ばしてたくせに変わり身早ぇやつらだぜまったく……。とはいえ、これであいつと戦える!ありがとよゴムゾーのおっさん!!!


「んじゃあ!やるか!!ってあれ、相棒は!?」


 バトルステージへと向かおうとしたら、ステージ上に落ちた相棒が見つからない!!どこいった!!?


「こいつであろう? お主の相棒とやらは」

「侍野郎!!」


 声の方を振り返ると、侍野郎が俺の相棒を右の手の平に乗せて差し出していた。


「侍野郎ではない!! 柳生将兵衛だ!!! ……て違う! その……誰だか知らぬが本当に助かった……。お主と、こやつのおかげだ……」

「拾っといてくれたのか! ありがとよ!!」

「気にするな……それに礼を言わねばならぬのはこちらだ……。先の一撃……まことに天晴であった……。あれがなければ拙者の墨切丸は今頃……本当にありがとう……!」

「いいって! 客席から見てたけど、お前の一撃もすごかったぜ!! ま、あとは俺に任せてくれよ!! ……あ~柳生? ……将兵衛!」

「……! うむ! 客席よりお主の戦い、見させてもらう!! お主に救われた拙者の墨切丸とともにな!!」

 

 そうして、将兵衛は右手を上げた。……へ!そういう事か!!

 俺も同じように右手をあげ、すれ違いざまに将兵衛の上げた右手を叩く!


パン!!


バトンタッチしてなおさら負けられない気持ちを高めた俺は、バトルステージの前に立ちラインに相棒をセットした!!その瞬間相棒の目が黄色く輝き出す!どうやらやる気は満々見てぇだ!!


「さぁ行こうぜ!相棒!!!」

 

すると対面に立つ、ロン毛がニヤニヤと見下したような目のまま口を開いた


「ずいぶんと身の程知らずなんだね? 君、初心者でしょ?」

「なんでそんなことわかんだよ!?」

「大会で君みたいな子見たことないし、それにマナーもなってないからね」

「んなもんでいちいち判断すんじゃねぇ!! まぁあってるけどよ!! 昨日始めたばっかりだぜ!!」

「きの……!? く……あはははははは!!!」


 ロン毛が笑い出した瞬間、観客たちも大爆笑しやがった!!客席には俺を指さして笑ってるやつもいやがる!!なんだってんだくそ!!今に見てやがれ!!


「怒っているのかい? でも彼らが笑うのも無理はない。だって昨日始めたばかりの素人が、WEC準優勝のこの僕を相手に……」

「へ!! 準優勝ってことは決勝で負けたってことだろ!!? 負けたくせになぁにを偉そうに誇ってやがるんでい!!」

「なに?」

「……!!」


  ゾクっとした。俺に煽られた瞬間、ロン毛が怒りに満ちたような表情になって、やつの周りに吹雪が吹いているような威圧感を感じたんだ。

「いいだろう……! 消しバトを始めたことを後悔するくらい徹底的につぶしてあげよう!!」


 完全にキレさせちまったみてぇだな。でも……


「おもしれぇ!!! だったらその素人に負けて恥かいてもらおうじゃねぇか!!?」


 俺たちがガン飛ばしあっていると、MCのおっさんが若干引いた様子で声をかけてきた。


「じゃ、じゃあ二人とも準備はいいかな!!? では先行は……」

「いいよ。初心者に譲ってあげよう」

「じゃ、じゃあ……君……名前なんだっけ?」

「神風翔だ!!」

「し、失礼……! では!! チャレンジャー翔選手の先行でスタートだ!! 準備はいいか!!?」

「いつでもいいぜ!!!」


 おれは相棒の前に立ち、構えをとる。ワクワクしてきやがった!!いけ好かない奴だけど、つえぇやつと戦うって考えたら武者震いがとまらねぇ!!!


「OK!! 3・2・1! イレイズ・ゴー!!!」

「ぶっ飛ばしてやろうぜ!! 相棒!!!!」


 右手に回転を加えたデコピンで一気にぶっぱなす!!

 権堂との戦いのときみたいに回転を受けて風を纏った相棒は、ロン毛のヴィルヘルム目掛けてかっ飛んだ!!


(威力は十分!! これならやれる!!!)


「必殺!!トルネード・ブラス……」

 

 しかし、トルネード・ブラストを放とうとしたその瞬間……相棒の動きが一気に鈍りやがった……!


「ど、どういうことだ……!?」


 相棒は動きを鈍らせながらもヴィルヘルム目掛けて突っ込んでいく……!なんでかわからないけどやばい……!!そんな予感をビンビン感じる!


「だめだ相棒!!!」


 そして、その予感は当たっているよとでもいうかのように、ロン毛が不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「あんなに威勢がよかったから少しは期待してたんだけど……君もこの程度か」

「なに!?」

「ヴィルヘルム! 夜想曲第四番・凍てつく迷宮(アイシクル・ラビリンス)!」


 ロン毛がそう叫ぶと、将兵衛と戦った時のようヴィルヘルムの周りを白い靄が包み込んだ!その途端に目の前まで迫っていた相棒は軌道を変え、ヴィルヘルムに当たることなく場外へと落ちていった……。なんてこった完全に将兵衛の墨切丸と同じになっちまったじゃねぇか……!

「あ、相棒!!」

「リングアウトにより、響也選手に一ポイント!!」


 ロン毛への歓声が上がる中、俺は相棒を回収しに走る……。くそ~なんかみじめだぜ……!でもそれよりも……

 

「……お前の力をうまく引き出してやれなくってごめんな相棒……」

「ふん……やはりこんなものか」


 相棒を拾い上げる俺の方を見もしないで、ロン毛が口を開いた。


「……んだと?」

「君も結局、さっきの彼と同じだ。僕のヴィルヘルムに触れることさえできない……。今日のコンサートは本当につまらないよ……」

「く!」


 何か言い返してやりてぇ!……でも……悔しいが事実だ……!何も言い返せないおれはそんな無力な自分自身への怒りに肩を震わせながら自分の立ち位置に戻る……。


「つぎで終わりだ……。君もその相棒とやらに、さよならを言うがいい……!MCさん、はやくカウントを」


 ロン毛は心底つまらなそうに……冷たく淡々と言い放ち、指揮者みたいなポーズをとった……!

間違いない!あれがくる……!


「……お、おう。……では……3・2・1! イレイズ・ゴー!」

「フィナーレだ! ヴィルヘルム! 鎮魂曲第三番・忘却の氷河(グレイシャルオブリビオン)!!」


 弾き出されたヴィルヘルムはその銀色のボディに白いモヤモヤを纏わせ、赤い目を光らせながら襲ってくる!!それはさっきも将兵衛との試合で見てたはずなのに……!でもなんか違う!なんというか……


(め、めちゃくちゃ怖え!!!!)


 改めて正面から見ると、とてつもない迫力だった……。俺はその恐ろしさにのまれちまって、一瞬立ったまま意識を失っちまった……!


「いかん!! 神風殿!!! 敵の気迫にのまれるな!!!!」


 客席から将兵衛の声が響く!そのおかげで俺は意識を取り戻した……!そうだった!俺がのまれちまったら相棒が……!!!


「もう遅い」


 ロン毛の声が冷たく響くと、俺の相棒は……氷の中に閉じ込められていた……。

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