第2話 戦慄の氷帝!!氷咲響也とヴィルヘルム!!! その2

「OK!! 3・2・1!イレイズ・ゴー!!!」

「出陣せよ!!! 墨切丸!!!」


侍が腰から刀を引き抜くような鋭い動きで消しゴムを弾いた!!一直線に飛んでいく消しゴムがまるで刀の鋭い突きみたいに見えやがる!!


 「ふうむ……! さすがは柳生くんだ……。あの墨切丸の力をうまく引き出している」

 

 ゴムゾーのおっさんは関心しながらもじゃもじゃしたヒゲをさすっていた……が。


「だが……この刃では彼に届かない……」


 そう呟くとともにおっさんのうごきが止まった。


「は?」


ステージに視線を戻すと、侍の放った消しゴムはロン毛の消しゴムに直撃する寸前まで迫っていた……当たる!!!それを見ていただれもがそう思ったはずだ……でも……次の瞬間信じられないことが起きたんだ……!


「け、消しゴムが直撃寸前で軌道を変えやがった……!!」


 まっすぐな軌道でロン毛の消しゴムに当たる寸前で、まるで相手の消しゴムを避けたかのように軌道を変えたんだ!!


 「やはりな……さすがは戦慄の氷帝……といったところか……」


 ゴムゾーのおっさんは冷や汗をかきながら唸るようにそう呟いた。

 おっさんは多分なにをしたのかわかってるんだろうけど……一体なにをやったんだ?あのロン毛は……。


「ば、ばかな!! 拙者の墨切丸の狙いが逸れるとは……!!」

「……そんなものかい?」

「!?」

「そんなものなのかと聞いているんだ……。その程度の実力で僕と……」


 ロン毛の纏う雰囲気がさっきまでと全然違う!!それに室内の空気が急に寒く!

 

「僕のヴィルヘルムを倒せると! 本気でそう思っているのか!!!?」

「ひ!!?」


 その瞬間、部屋中にすさまじい吹雪が吹き荒れたかのような寒さに包まれた


「その程度で僕たちに挑んだその愚かさに罰を与えよう!!」

「……そ、それでは!! 響也くん、準備はいいかな? 3・2・1!」


 ロン毛がまるでオーケストラの指揮者みたいな構えをとった。変なポーズだが、でもすごい気迫だ……!

 それになんだ……!?消しゴムのまわりに白いモヤモヤが立ち込め始めている……!?


「イレイズ・ゴー!!」


 ロン毛は指揮者みたいに腕を振るう!そして、消しゴムの前に腕が来た瞬間に指をパチンと弾いた!!!


「奏でろ!! ヴィルヘルム!!」


 ヴィルヘルムと呼ばれたその消しゴムはすさまじい勢いで撃ちだされ、敵の消しゴム目掛けて一直線にかっ飛んでいく!けどその姿は完全に白いモヤモヤに覆われていて全然見えねぇ!!

 

「将兵衛くん、君の墨切丸にレクイエムを贈ろう……。さよならを言いたまえ……!」

「へ?」

 

 ロン毛がそう言うと撃ちだされた白いモヤモヤの中心に赤い二つの光が輝きだした!多分……ヴィルヘルムの目だ!!!間違いない!!なにかくる!!!


「ヴィルヘルム!! 鎮魂曲第三番! [忘却の氷河(グレイシャルオブリビオン)]!!」


 瞬間冷たい風が白いモヤモヤを中心に吹き荒れ、侍の消しゴムを包み込んだ!


「フィナーレだ」


 気が付くとロン毛の消しゴムはやつの手元に戻っていた。そして……


「ああ!! 拙者の墨切丸が!!」

 

 侍の消しゴムがあったところにはその姿はなく、代わりあったのは……なんだ?氷の塊?……いや違う!! あいつの消しゴムが氷の中に閉じ込められているんだ!!


「さよならを言えといったろう? その氷はちょっとやそっとの箏では砕けない。かといって氷が解けるころには、君の墨切は二度と使い物にならないだろうがね」

「そ、そんな……」

「……お、おおっとぉ! 墨切丸行動不能!!! さぁ将兵衛選手どうする!!」

「く!!……拙者の負けだ……! 棄権させてくれ!!」

 

 ロン毛への歓声が上がる中、侍は膝から崩れ落ちた。そんな侍を見下しながらロン毛は言葉を続ける。


「何をいってるんだ? 侍たるもの徐々に朽ちていくより戦場で散った方が本望だろう? だから僕が介錯してあげよう! バトルステージという名の戦場で華々しくその命を散らせるがいい!!」

「……!? や、やめてくれ!!」

「これは君たちへの罰なんだよ? 自分の実力もわきまえずこの僕に挑んだ罪へのね?」


 そう言ってロン毛は再び指揮者みたいな構えに入った。


「おおっとぉ!! 響也選手が将兵衛選手の棄権を認めなかったため試合続行だぁ!! 」


 MCが信じられないことをのたまったから、俺と茜は驚きのあまり立ち上り


「な、なにいってんだ!?」

「じょ、冗談よね!?」


 と、そう戸惑いの声を上げると、宙斗が声を震わせながらそれに答えた。


「いえ……本当です……。そしてあれが響也さんのスタイルなんです……」

「はぁ!?」

「うそでしょ!!?」

「残念ながら嘘じゃないんだ……」


 そう口を挟んできたのはゴムゾーのおっさんだ。

 おっさんは険しい顔でヒゲをさすりながら解説を始める。


「彼は天才的な消しバトセンスを持っているがゆえに、実力のないものは許せないんだ……。だから実力のないものを相手にするとああやって、一回の攻撃で行動不能すにする……」

「だったらそこで終わりでいいじゃねえか!!? 抵抗できなくなったやつを破壊なんてしていいわけねえだろうが!!」

「それが、許されるんだよ……」

「なんだと!!?」

 

 おっさんは悲しそうな眼でどこか遠くを見つめながらつづけた。

 

「消しバトは本来、3ポイント先取、もしくは相手の消しゴムを破壊することで勝利となる。それはしっているね? しかし、相手の消しゴムがああいう風に破壊されぬまま行動不能となった場合は、一応まだ試合は続行しているということになるんだ……。そして、行動不能となった消しゴムの持ち主が戦意を喪失していた場合、ターンをパスするということになる……」

「なんだよそれ! 戦意喪失してるならリタイアってことでいいじゃねぇか!!」

「そうよ! そしたら破壊なんてしなくたって!」


 茜と俺の抗議におっさんは目をつむって首をゆっくりと左右に振って答える。


「非公式戦ならそれでいい、しかし、一応これは公式戦……。公式戦では相手側、つまり今回の場合は響也くん側が将兵衛くんのリタイアに合意しなければ試合は続行ということになるんだ……」

「そ、そんな……ひどい……そんなのただの弱い者いじめじゃない!!」

「茜のいう通りだぜ! なんでそんなクソみたいなルールを認めてるんだよ!! なぁ! おっさん!!! あんたの店だろうが!!?」

「店長のせいじゃありません!!」

 

 急に大声で宙斗が叫び、俺と茜はびっくりして固まっちまった。


「世界消しバト委員会の人たちが3年ほど前に、もっとエキサイトな競技に変えるためって! そういって公式戦では今店長が言ったようなルールが採用されるようになったんです!! そしてそれに従わなければ……!」

「店の認可は取り消され……私は消しバト界の商品を取り扱うことがゆるされなくなってしまうんだ……」

「そんな……ひどい……」


 茜は話を聞いておもわず口をふさいじまった。

一方でステージ上では


「さようなら墨切丸……。」


 ロン毛が侍の消しゴムにとどめを刺そうとしていた……。


「葬送曲第六番・凍霜の安らぎ(フロストヴェイル・セレニティ)!!」

「す、墨切丸~~~~!!」


 バギィィィィン!!!


 すさまじい音が響き墨切丸を包んだ氷に小さな塊が激突し、そして氷を砕いた。そして……。


「墨切丸!!」


 侍の消しゴムが生還し、氷を砕いた俺の相棒、エアロドラゴンが侍の前に風を纏いながらふわりと着地した。


「なにものだ……?」 


 ヴィルヘルムを回収したロン毛は、イラついた様子で会場内の俺をにらみつける。だが、そんなもんに怖じるおれじゃねぇ!!


「ちょ、ちょっと翔なにする気!?」

「翔ちゃん!!」

「うるせぇ!!!止めんじゃねぇ!!」


 俺はロン毛のいるステージへとずんずん向かう!そして……!



「俺の名前は神風翔!! 必要以上に相手をいじめやがってこのロン毛野郎が!! 覚悟しやがれ!! 俺がてめぇを叩きのめす!!!」

「……ほう?」


 不敵に笑うロン毛を睨みつけながら、俺はステージへと上がった!

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