第2話 戦慄の氷帝!!氷咲響也とヴィルヘルム!!! その1

「翔ちゃん!! 今日の放課後暇!?」


 朝、俺が教室に入るなり、真っ先に俺に駆け寄った宙斗の言葉がそれだった。


「あのな? まずおはようとかそういう挨拶からじゃねぇのかよ? なんだってんだ藪から棒に!」

「ごめんごめん! でも昨日のエアロドラゴンのこと忘れられなくってさ! 朝、翔ちゃんがきたら真っ先に伝えようと思ってたんだ!! ここに行かないかって!!」


 そう言って宙斗はなにかのチラシを広げた。


「なんだこれ……? 消しバトSHOP・シロクロ?」

「ボクの行きつけのショップなんだ!! ここでブラックナイトとかほかの消しゴムも買ったんだよ!!」

「は、はぁ……」


 まぁ店の名前からそれは想像できるけども……。なんだ消しバト専門店って!普通の文房具屋じゃねぇのかよ……。


「普通の文房具屋とは違うんだ!! 消しバト用のカスタマイズパーツやアクセサリー! バトルアシスト用のアイテムも取り揃えているんだよ!!」


 こわ!なんで思考読まれたんだ!!この前の仮面のおっさんといい、消しゴムバトルに興じたら相手の思考を読める特殊能力でも身につくのか!?


「なんか面白そうな話してるじゃない? なあにそれ?」

「茜!」

「茜さん! おはようございます!」


 動揺してたから気づかなかった……。いつの間にこいつも近づいてきてたんだ……。


「おはよう! でなにそれ?」

「これはですね! ボクの行きつけの消しバトショップのチラシです!! 実は放課後、翔ちゃんと一緒に行こうって話をしてて!」

「は!? ちょっと待てよ!! 俺は行くなんて一言モガ………!!」

「ええ!? 面白そうじゃない!! 行く行く! じゃあ放課後正門集合ね!!」

「はい! ぜひ!!」


 この野郎勝手に話進めやがって……!でもまぁこうなったら逆らえねぇ……しょうがねぇから付き合ってやるかぁ……!


(……まぁそれに!)


 俺は筆箱の中に眠る相棒の姿を思い起こす……。

 昨日、あいつとともに戦ったあの時は、まぁなんだかんだ楽しかった。カスタマイズとかはよくわからねぇけど、相棒のために何か買ってやれるならそれはそれでいいのかもしれない!

 そう考えた俺はとりあえず放課後を楽しみにすることにした。


 というわけで放課後!俺たちは例のショップに来ていた!!


「うわ~すご~い!」

「思ったよりでけぇんだなぁ……!」

「でしょう!! じゃあぼくは店長さんを呼んできますから自由に見ててください!」

 なぜか得意気な宙斗はそう言うとそそくさと店の奥へと消えて行った。


「行っちゃったね」

「まぁ自由に見てろって言ってたし、見ながら待ってようぜ?」

「ま!そうね! じゃああたしあっち見てこようっと!」

「え?あ、おい!」


 一応ここで待ってた方がいいんじゃねぇかって言おうと思ったんだが、それよりも早く茜は店内のどこかへと消えて行った……。


「まぁいいか……。それにしても……」


 俺は改めて店内を見て圧倒されていた。


「なんつうか……すげぇな……」


 もっとこじんまりとした店だろうなって思ってたのに、想像の5倍くらいでかくて広い!

 そんで店内をきょろきょろ見回しながら歩いたんだが、どこもかしこもショーケースばっかり!そんで中には変な形の消しゴムが大量に展示されていたんだ。しかもどいつもこいつも高い!!一個3000円とか中には5万のやつとかもある!

 ……なんというか宙斗みたいな消しゴムマニアは確かに喜びそうな店だなって思った。

 さすがにもう消しバトを下らねぇ遊びだとは思わねぇけど……ここまで熱を上げられるかって言うとそうでもない……と思う……。


(……もしかしたらバトルにのめり込んだら宙斗みたいなマニアになっちまうのか!? おれも!!)


「いやいやいや!!ないない!!……て、ん?

 なんだか嫌な想像が頭をよぎりぶんぶんと首を横に振ったその時、なんか面白そう部屋が目に入った。


「なんだあれ?バトルスペース?」


 まぁこんだけ広いショップだしそういうスペースもあるか……とりあえず興味を持った俺は中に入ってみることにした。

 すると……。


ワァァァァ!!


 外からは聞こえなかったけど、大会でもやってたのかも、中はすごい歓声だ。それにすごい熱気!!そんでもってめちゃくちゃ広い!! 

 改めてこんなに熱中してるやつらがいるんだな……消しバトおそるべし……!


「それでは!!両選手の入場だ!!」


 中央の一際大きな舞台に立つMCのおっさんがそう宣言すると、その檀上に二人の男が上がり、中央に置かれたバトルステージらしき長机をはさんで向き合うように立った。その瞬間、ほかのステージでバトルしてたやつらも手を止めて、部屋中のみんなの視線がその二人に集中した。なんかすげぇやつらみたいだな……!


「では!! みんなに今日のエキシビジョンマッチで戦う二人のバトラーを紹介するぞ!! まずはチャレンジャーの紹介だ!! その消しゴムの鋭さは鉄製定規のごとし!! その消しゴムの固さは文鎮のごとし! 研ぎ澄まされたカスタマイズであらゆる敵を一刀両断!! その刃は戦慄の氷帝に届くのか!? 小学六年生! 柳生将兵衛(やぎゅうしょうべえ)選手!!!」


 なんか眼帯した侍みたいなやつが出てきやがった……。色物すぎるだろ……なんて思ってたら……ん?なんか急に背中引っ張られた!!痛たたたた!!


「痛ってえなあ!!誰だよもう!!って茜……宙斗……」

「誰だよじゃないわよ! たくも~!! 一人で変なとこ行かないでよ!!」

「全く翔ちゃんは!! 自由に見ててって言っても限度があるでしょう!」

「わ、わりぃわりぃ……」


 やべぇ……茜と宙斗のことすっかり忘れてた……。ていうか


「いっしょにいるおっさんは誰だ?」

「おっさんって! もう~! 翔ちゃん! 初対面の人にそれはないでしょう!!」

「そっか! すんません!」

「いやいや、気にすることはないよ! 元気があっていいじゃないか!」


 おっさんはそう言って笑うと咳払いを一つした。


「ウオッホン!! 初めまして! 神風翔くん! わたしがこの消しバトショップ『シロクロ』のオーナー! 大木 護夢蔵(おおき ごむぞう)だ!」

「ゴ……ゴムゾー……す……すごい名前っすね……」

「ウォッホッホッホ! ありがとう翔君! ではさっそく店の案内を……と思ったが、せっかくだしな! このまま試合を観戦しようか! そのあとゆっくり案内しよう」


 おっさんはそういうと、茜と一緒に席に着いた。でも宙斗のやつはなんか嫌なのか座らない……どうしたんだ?


「店長いいんですか? エキシビジョンとは言え公式戦なんですよね? いきなり翔ちゃんに見せるなんて……」

「宙斗くん……君の言いたいことはわかるよ?でも遅かれ早かれ見ることになるだろうしね。君の言うように翔くんが彼の息子ならなおさらさ」

「は……はい……」


 そんななんかよくわからないやり取りをすると、宙斗はしぶしぶ席に着いた。……てか彼の息子って、このおっさん俺の父ちゃんのことしってんのかな?

 しかし深く考える時間はなさそうだ。宙斗が席についたちょうどそのタイミングで侍野郎の消しゴムの説明だか経歴だかの紹介を終えたみたいで、もう片方の男の紹介が始まった。


「そんな彼を迎え撃つは、前回WEC準優勝者にして、全国大会優勝者!! 消しバト界のプリンス!! 同じく小学6年生!! 戦慄の氷帝・氷咲響也(ひさききょうや)選手!!」


 すかした感じの金髪ロン毛野郎が紹介を受けて手を振った瞬間、会場中から黄色い悲鳴が上がった。以外に女人口も多いんだな……この遊び……

「すご~いかっこいい!!」


 となりでも茜が目の色キラキラさせてロン毛を見てやがる……わかりやすいやつだぜ、まったく……。


「うん!!! ね!!? あんたもそう思うわよね! 翔!!」


 なんで俺に同意求めてくるんだこいつは……。


「知らねぇよ……。そうなんじゃねぇの……?」

「なぁにその素っ気ない態度? あ! もしかしてヤキモチ焼いてんのぉ?」

「うるせぇな!! そんなんじゃねぇっての!!」

「君たち? 仲がいいのは結構だが、もうすぐ試合が始まるみたいだよ? ほら」


 そう言っておっさんが指差した先では、さっき紹介された侍とロン毛がすでに消しゴムをセットして向かいあっていた。

「やべ……そうだった……て、ん? どした宙斗?」

 

 前を向こうとしたときに視界の端に映った宙斗がなんか元気なさげにうつむいてるのが気になって俺は声をかけた。


「なんか具合でも悪いのか?」

「え!? あ! ……い、いいえ!! ボクは全然!! だ、大丈夫です! ちょっっとぼーっとしてただけですから!!」

「そうか?」


 なんだ?あんなに慌てて否定して……変な奴……。と!いけねぇ!試合が始まっちまうぜ!


「それでは!! チャレンジャーの将兵衛くんの先行でスタートだ!! 用意はいいな!!?」

「うむ!! 拙者の愛刀・墨切丸も消しカスに飢えておる!!」


 MCの問いかけにも気合十分といった感じで侍がなんか決め台詞っぽいものを言っている。いよいよ始まるみてぇだ!!……なんか俺までドキドキしてきた……!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る