第1話 吼えろ!!俺の相棒・エアロドラゴン!!!その3
「な、なんだったんだ今の……? ……あ!!」
風が止んだかと思うと、相棒の頭のところに黄色い目みたいなラインが刻まれていた。しかも使いこんでたはずなのに、新品みたいになっていた。
「ふ……これがエアロドラゴンの真の姿というわけだ。神風君」
まじで訳が分からん。こんな消しゴムに変な名前つけやがって……と思ったんだが……結構カッコいい……。
白をベースにしたカバーは風が渦巻いたような変な形状をしているが、親指、人差し指、中指がそれぞれセットしやすいようにへこみがあり握りやすい。けど、何よりも目を引いたのはカバーの尻の部分から小さく左右に一枚ずつ伸びた金色の羽根みたいな出っ張りだ……まぁすくなくとも普通の文具として使わせるつもりはないというのは一目みてわかった……。
眉間に皺を寄せて相棒の真の姿とやらを見つめているとおっさんはまた話し出した
「彼が消えた謎を知りたくば、そのエアロドラゴンを使ってこの消しゴムバトルの世界で戦うほかはない。どうするね? 神風君。いや、神風翔くん!!」
その問いかけに俺は迷った……。普段だったら、こんなバカ見てぇな遊びに付き合ったりしないんだが、おやじの箏を知りたかったし……なによりも……。
(こいつ……戦いたがってる……!)
今手にもっているこいつが、俺の手の中で今にも暴れ出したそうにしているのがなぜか伝わってきた。それになんでか消しゴムをもつ俺の右手を風が渦巻いているような、そんな感じがしたんだ……!
(そっか……いままでごめんな……相棒……)
正直俺は、消しバトを嫌っていた理由は、自分がもらった大事な消しゴムを傷つけるのがいやだったから……だから下らねぇって見下していた……。でもいま分かった!こいつはずっと戦いたがっていたんだ!!だったら俺の答えは一つ!!
「……いいぜ……!」
「翔!」
「翔ちゃん!!」
「やってやる!! こいつで戦えば、おやじに会えるんだろ!!? おっさん!!」
「ふ……おにいさんな……? だがその通り! 君がそのエアロドラゴンで戦ったその先に、君の父、神風真破は待っている!!」
その言葉を聞いちまったらもうしょうがねぇ!のってやらぁ!
「じゃあ手始めに権堂!!てめぇをぶっ倒してやるぜ!!そんで宙斗の消しゴムを返してもらうぜ!!」
しかしそれを聞いた権堂が嫌みな表情で笑った。なんだ?俺何か変なこといったか?
「ぶっ倒すってのは無理なんじゃねぇか? だってよぉ! お前消しバトやったことねぇだろう?」
「そ、そうだよ! 翔ちゃんルールだって知らないでしょう!?」
「ああ、知らねぇ」
きっぱりと答えたその瞬間、おっさんが大声で笑いだした。
「フハハハハハ!! 知らないのに自身満々と言った風情だな! 面白い! 実に面白いぞ神風くん!! いいだろう! 今回は私が君に基本的なルールを教えよう!! それでもいいかな? 権堂くん?」
「いいぜ?ルール知ったくらいで俺が初心者に負けるわけねぇからな!」
権堂のやつ……余裕かましやがって!今に吠え面かかせてやるからな!そういう思いを込めて睨みつけていると、おっさんは急に指をパチンと鳴らした。すると
「「おわぁぁぁああ!!!」」
俺と権堂の前に急に長机が降って来やがった!だれかが放り投げたとかじゃあもちろんない!まじで急に天井から降ってきやがったんだ!
一瞬命の危機に瀕した俺と権堂は、はぁはぁと息を荒くして、その長机を見つめていたが、おっさんはそんなおれたちのことなど視界に入っていないかのように話し出した。
「説明しよう!! これこそが消しゴムバトルのバトルステージ! ストレートエッジ! 直線状のステージの端にお互いの消しゴムをセット! じゃんけんをして先行後攻を決めた後は、順番に己の分身たる消しゴムをデコピンなどでシュートし相手の消しゴムにアタック!! 先に三回場外に落とすか、相手の消しゴムを大破させた方の勝ちだ!! ただしシュートした際に勢い余って自分の消しゴムがリングアウトした場合は相手の得点になるから気をつけたまえ!!」
「よくわからねぇが、とりあえず相手の消しゴムを弾き飛ばせばいいんだろ!!やってやるぜ!」
「ふ……神風君。消しゴムバトルはそんな単純なものではないぞ? まぁ頑張ってくれたまえ」
まぁ確かに、いろんなやつが熱中している以上そんな簡単なもんじゃないってのはなんとなくはわかっていた。でも……
(いけるよな……? 相棒?)
こいつとなら何故かどんなバトルでも絶対に勝てるってそんな気がしたんだ。
「へ! そいつがどんな力を持ってるかは知らねぇけどよ? 初心者ごとき、俺様がこの最新型を使ったら負けるはずねぇっての! なぁ! ブラックナイト!」
そういうと権堂は真っ黒い大きな消しゴムを取り出した。
普通の消しゴムと思いきや、先端部が尖っていて、まるで真っ黒い盾のような形状だ。しかもカバーの部分は黒い金属でできていて、所々金色のラインが入ってることから、まるで騎士の鎧のような重厚感だ……。見ただけで相当な重量があるのはわかる。どうやらブラックナイトという名に違わない相当な強敵のようだな……。
「ご、権堂君!! ボクのブラックナイトなのに!!」
「権堂あんたねぇ!」
「うるせぇ! ごちゃごちゃ言うな!! どうせ俺のものになるんだから今使ったっていいだろうが!!」
「そんなぁ~!」
「……翔! わかってるわよねぇ!! 絶対こんな奴にまけんじゃないわよ!!」
宙斗のすがるような視線と茜の俺を信じ切った視線を背中に受けて、俺はステージへと向かい、そして振り返った。
「任せとけ!! こんなやつあっという間にぶっ飛ばしてやるからよ!!」
ブラックナイトは確かに強敵なんだろう……。でも!全く負ける気がしなった!!
「さて権堂! 準備はいいよな!! 俺にやられる準備はよ!!」
「へ! ぬかしやがれ! ド素人が!」
クラスメイトの視線が俺たちに集中する……。こんなことはよくあることだったけど、今回は違った。なんだかすごくワクワクする!いい意味での緊張感が俺の心を高鳴らせていた。
そんな俺たちを見ておっさんはすこし笑うと、いままでより一層大きな声を張り上げた。
「ふ……では!! 両人とも準備はいいな!? ならば消しゴムを定位置にセットせよ!!」
俺は汗ばんだ手で相棒を白いラインにセットした。斜向かいに立つ権堂も同じようにブラックナイトをセットする。
「ではじゃんけん!!」
「「じゃん! けん! ぽい!!」
結果は俺の勝利! 権堂の後攻だ!
「へ! ビギナーズラックってやつだな! まぁいいさ、先行くらいくれてやるよド素人!」
「抜かしがれ!」
「では神風翔!合図とともにシュートだ!! いくぞ!! 3、2,1」
カウントダウンとともに俺の心臓の鼓動はどんどん高まる。いまならすげぇのが撃てる気がする!!
「イレイズ! ゴー!!!」
掛け声とともに右手のデコピンで相棒をぶっぱなした!!
「いけぇ!!俺のエアロドラゴン!!」
狙いは正確だ!!相棒は権堂のブラックナイト目掛けて一直線にぶっとんだ!当たる!!
ガイン!
鈍い音が響いたかと思うと相棒はシュウウウという煙を立ててブラックナイトの前で静止していた……。
「な!ばかな!!」
狙いは正確だったはず!それなのにブラックナイトを一ミリも動かせていないなんて……。
俺は動揺しながらゆっくりと相棒を回収して、再びラインにセットした。
「ど、どういうことなの……?だってものすごい威力だったわよ……? 翔の一撃は……」
俺のうしろで狼狽えながら問いかける茜に、宙斗が震える声で答えた。
「足りなかったんです……翔ちゃんの攻撃力じゃ……。ブラックナイトの重さは10kg……に対して翔ちゃんのエアロドラゴンは見た感じ、せいぜい30g……」
「何よそれ!! それじゃあ翔がどれだけすごい一撃を出しても……!」
「不可能、だろうな……彼を倒すことは……」
二人の会話に入ったおっさんはそう淡々と告げている……。なんだってんだよ……!いきなり俺は負けちまうのか……!?
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