第1話 吼えろ!!俺の相棒・エアロドラゴン!!! その2
「だ、だれだよ!! この不審者!!! おい! 先生呼びにいこうぜ!!」
珍しく権堂が真っ当なことを言ってみんな一気に冷静になるが、仮面の男は気にした様子を見せずに堂々とした調子で声を張り上げた。
「君たちの気持ちもわかるが、まぁ待ちたまえ! 私は断じて怪しいものではない! 私は……いいか! 私の名前は!!」
謎の仮面男の言葉を全員がゴクリ、と固唾をのんで待った。
「私の名は!! マスクドイレイザー!!」
「……」
なんだそれ?やっぱただの不審者か?……さっさと担任呼びに……と、そう思った瞬間、宙斗のやつが急に大声で叫び出した
「マスクドイレイザー……てあのマスクドイレイザー!!?」
「……ゴホン! いかにも! そのマスクドイレイザーだとも!!! 知っていていただいて光栄だ、畠中宙斗くん!!」
まわりのクラスメイトもざわざわと騒ぎ出し、「うそ? まじ?」とか「サインもらわなきゃ」とか言ってやがる……このおっさん結構有名人なのか?
「あのとか、そのとか、なんなんだよ宙斗……このおっさんのこと知ってんのか?」
「おっさんとは失敬な!私はお兄さんだぞ!!神風くん!!」
「はいはい……で?だれなんだこのおっさん」
「翔ちゃん!このマスクドイレイザーはね?WEC……ワールドイレイズチャンピオンシップの二代目チャンピオンなんだよ!!」
「いかにも!!」
おっさんがさっきから口をはさんできてうるさいが無視して俺は宙斗に問いかける
「なんだそのワールドなんとかって?」
「知らないの翔ちゃん! 世界中の消しゴムバトラーたちがその腕を競う世界最高峰の大会だよ!!?」
「しらねぇよ……。要するに世界最高峰の暇人のあつまりで、このおっさんは世界最強の暇人ってことだろ?」
「フハハハハハ! 世界最強の暇人とはご挨拶だな神風くん!!」
「うるせぇな!! いちいち会話に割って入ってくんじゃねぇよおっさん!!」
「おにいさんだ!!!!」
なんか変なやつに絡まれちまったな……。とっとと消しゴム取り返して帰ろう……。再び俺は権堂たちの方をにらみつけた。しかし……。
「ふむ……なんか変なやつに絡まれたな……。早く消しゴムを取り返して帰ろう……。今の君の心境はそんなところかな?神風くん」
「こ、こころ読むんじゃねぇよ!! 気持ち悪いおっさんだな!!」
「だからおに……!ゴホン……まぁいいだろう! だが取り返すために暴力とは感心できんな……」
「!?」
拳を振り上げようと思ったのに、このおっさんは俺が気づくよりも早く俺の腕をつかんで止めていた……。
「いつのまに……」
「消しゴムを取り返したくば、暴力に頼るべきではない……。君もだ権堂くん!」
「ああ!?」
「君も普段から消しゴムバトルにいそしんでいる身ならわかるね?欲しいものは消しゴムバトルで手に入れろ!!!」
「な、なに言ってんだ!!?」
さすがの権堂も訳が分からないといった様子だ……。当たり前だよ、なにが消しゴムバトルだよ……。
「……と思ったがなかなかいいこというじゃねぇかおっさん!!」
「フハハハハハ! やはり君も消しゴムバトラーなのだな!! そう言ってくれるとおもったよ!!」
いや乗るなよ権堂!意味わからねぇだろうが!!
「つまり! 俺が消しゴムバトルで勝てばこのブラックナイトは俺のものってわけだな!? それでいいよな! 宙斗!!」
「え? え~……たしかにそうなっちゃうよね……」
いやならねぇだろ!!なんで消しゴムバトルならしょうがないみたい空気になってんだよ!?マジかこいつ!!
「というわけだ、神風くん!! 宙斗くんのブラックナイトを取り返したくばやることは一つ!! ズバリ! 消しゴムバトル! 略して消しバトだ!!」
「お願い翔ちゃん!! 勝ってボクのブラックナイトを取り返して!!!」
「翔!!やってやりなさい!!」
「さぁこい!! 神風!!」
途端に、周囲のクラスメイト達も「おお!!」とか「マスクドイレイザーの仕切りで消しゴムバトルとかすげぇ!!」とか滅茶苦茶盛り上がってやがる……。だが……
「……なに盛り上がってんだ? 俺は消しゴムバトルなんて下らねぇ遊びやらねぇよ」
「……え?」
「「「え~!!!!???」」」
なんか連中勝手に盛り上がって勝手に驚いてるが……俺の苦手なものその3、それは「消しゴムバトル」だ。理由は単純「下らねぇから」それだけだ。それと……。いや、下らねぇからってだけだ!
「あのよ? こんな下らねぇガキの遊びなんか付き合うわけねぇだろ? おっさんもいい年こいてバカ見てぇなことしてんなよ? ダセェってマジで」
「そんな……翔ちゃん……」
追いすがろうとする宙斗には悪いが本心からの言葉を目の前のバカどもにぶつけてやった。だってそうだろ?こんな遊びにマジになるのなんてせいぜい小1か2のガキだけだ。なのにみんなマジになってバカ見てぇ……。
「ちょっと翔!」
「バカバカしい……俺は帰るからあとはもう好きにやってくれ……」
茜の制止も振り切り、俺はもう宙斗の消しゴムのことなんて放って帰ろうと教室の出口に向かった。しかし教室のドアに手をかけた瞬間に仮面のおっさんの発した言葉が俺の動きを止めた。
「逃げるのかね、神風くん? 残念だ。君の父[神風真破(かみかぜまっは)]なら決して背を向けなかったろうに……」
「……!? なんでおっさんが俺の父ちゃんの名を知っているんだ!!」
途端におっさんの胸ぐらに掴みかかるが、おっさんはすぐに俺を払いのけた。
「ぐあ!!」
「ちょ! 大丈夫翔!? ちょっとイレイザーさん!!」
倒れる俺を心配して茜が駆け寄りキッとおっさんをにらむが、おっさんは何事もなかったかのように俺を見下ろしながらやかましく声を張り上げた。
「ああ知っているとも! 君の父、神風真破は私でさえ敵わなかった最強の消しゴムバトラーだったからな!!」
「「「!!!???」」」
その言葉に教室は再び静まり返り、やがてざわつき始めた。
「マスクドイレイザーを破った?」
「うそでしょ?公式記録にそんなのどこにも!!」
クラスメイトたちは口々によくわからないことを言ってやがるがそれも無視して、仮面のおっさんは続けた。
「神風くん……君はお父さんが亡くなったと思い込んでいる、いや、君のおじいさんからそう聞かされて育ってきた。違うかい?」
「!!?」
瞬間、また教室は静まり返り、茜をはじめ、クラスメイトたちの視線が俺とおっさんに集中した。
でもそんな視線に構ってられないくらい、俺の心はざわついていたんだ……。
だって、なんでこのおっさんがそんなことを知ってるんだと思ったし、なによりもその言い方だと……!!
「イレイザーさん! 何言ってるんですか!! 翔ちゃんのおやじさんは!!」
「そうよ! 翔のお父さんは翔が幼稚園の頃に交通事故で!」
そう茜と宙斗が声を張り上げるのを遮って俺はおっさんに問いかけた
「おっさん……もしかして……おやじは生きてるってのか……?」
おっさんはだまってうなずいた
「ど、どこにいるんだよ!! あのバカおやじは!? あいつが!! あいつが家をほったらかしにしたせいで俺の母ちゃんは!!!」
そう叫んだ瞬間、おっさんは無言のまま俺の目の前に小さなアタッシュケースを差し出した。
「は?」
訳が分からない俺をよそにおっさんは語りだす
「真実を知りたくばこのアタッシュケースを受け取るがいい」
その言い方からおやじの手がかりが入っているのか?と思って俺はアタッシュケースを開いた……が
「なんだこれ?」
「消しゴム……よね?」
俺と茜は二人で首を傾げた。中に入っていたのは丁寧に緩衝材に包まれた……なんかよくわからない物体だった。なんかすげぇ変な形だ。
「おっさん!!なんの冗談だ」
「それは! 君の父さんから君に渡すよう頼まれた君の相棒{エアロドラゴン}!! ……の鎧だ!!」
「はぁ!!? ……て鎧って何言ってんだ……宙斗わかるか?」
「多分……消しゴムのカバーのことだと思う……(ボソッ)」
「その通りだ!!」
「お、おう……てかカバーって!? じゃあ本体は!!?」
「フ! 本体なら……すでに君が持っているはずだ……」
「は!? もしかして……相棒のことか?」
俺は筆箱から消しゴムを取り出した。小学生1年生になるお祝いにじいちゃんがくれた青い消しゴム……俺の一年生の頃からの相棒を……。
当時は気にしてなかったけど、こいつにはカバーが付いていなかった。じゃあこのカバーともともとセットだったのか……?
「それだ! ではさっそくつけてみたまえ!」
「……しょうがねぇな」
俺はアタッシュケースからそのゴテゴテしたカバーを取り出し、相棒をセットした。
その瞬間、信じられないことが起きたんだ……!!
「な、なんだ!!? うぉわ!!」
ビュオオオオオオオオ!!!
消しゴムにカバーを付けた瞬間、そいつは青く輝きだしたかと思うと、周囲に強い風を放ったんだ!!
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