第22話

 

 私、早乙女清華には姉がいる。

 早乙女聖良。

 清楚で優しくて素敵で美人なお姉様だ。


 そんな完璧なお姉様だが、もしかしたら犯罪に巻き込まれているかもしれない。


 卑劣漢に脅され、卑猥なことをされている疑惑がある。

 だって、お姉様が自分の意思で、下着も履かずに出かけるなんてあり得ない。

 

 お姉様が変態なはずがない。


 とはいえ……だ。


 脅されていると、決めつけるのは時期尚早かもしれない。

 仕方がなく、彼氏の趣味に付き合っているだけなのかもしれない。


 そんな彼氏、フってしまえと思ってしまうけど、初めての彼氏だし、お姉様も勝手が分からないのかもしれない。


 騙されている可能性もある。

 お姉様は純粋無垢だし、恋人同士ならそれが当たり前だと思っている……とか。


 悶々とした日々を過ごしている、ある日。

 その日もお姉様は朝から出かける準備をしていた。


「……その服、どうされたんですか?」


 しかし、その日は普段と服装が違った。

 普段からお姉様が着ている服とは、趣きが違う。

 端的に言えば、お姉様の“趣味”ではない服装だ。


 何より、それは私が知らない服だった。

 いつ、買ったの!?


「あぁ……少し前に買ったの。どう? 変じゃない?」


 お姉様は髪を弄りながらそう言った。

 その仕草はとても艶っぽく見えた。


「えっと……清楚な雰囲気で、とても似合っていると、思いますけれど」


 お姉様の“趣味”ではないかもしれない。

 だけど、“アリ”だった。

 写真に撮って残したい……いや、そうじゃない!


「……誰かに選んでもらったのですか?」

「ええ……まあ」


 私の問いにお姉様は目を逸らしながら答えた。


「……今日はいつもより、少し遅くなるかもしれないから。伝えておいて」

「構いませんけど。どこに行かれるんですか?」

「……海よ。海水浴場」


 海?

 夏だから、おかしくはないけれど。

 でも、こんなにお洒落するなんて……。


「誰かと一緒に行くんですか?」

「……友達よ。女友達」


 女友達。

 友達と答えれば良いだけなのに、女性であることを強調する意味があるのだろうか?

 何か隠しているように聞こえる。


 普通の彼氏なら、彼氏と答えれば良いだけなのに。


「私もご一緒しても、いいですか?」


 試しに聞いてみた。

 すると……。


「ダメ!」 


 大きな声で叫ぶようにお姉様は言った。

 私は思わず身を竦める。

 お姉様がこんなに大きな声を出すなんて……。


「……急に人が増えると、迷惑になるから。じゃあ、私、もう行くから」


 お姉様は気まずそうな表情でそう言うと、逃げるように出かけて行ってしまった。

 やっぱり、様子が変だ。


 普通の彼氏と彼女の関係ではないのかもしれない。


「……よし」


 決めた。

 私がお姉様を守ろう。

 そのためには証拠を集めなければならない。


 こっそり、後をつけよう。


 ……別にお姉様の水着姿を見たいわけではない。



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