第20話

 食後。

 俺たちは再び買い物に戻った。


「次はあのお店に行こうと思うのだけど」

「……あぁ」


 早乙女が指さしたのはランジェリーショップだった。

 色とりどりのカラフルな下着が売られている。


「一緒に選ばない?」


 早乙女はニヤっと笑いながらそう言って来た。

 さすがに冗談だろう。


「いいぞ」

「……え?」


 俺の回答に早乙女の顔が固まる。

 白い頬が仄かに赤らんだ。


「い、いや、その……」

「冗談だよ」


 そう返したら、脛を蹴り上げられた。 

 それから鼻を鳴らし、一人で店舗へと向かってしまう。

 最初に揶揄って来たのはそっちだろうに……。


 しばらくして、紙袋を手に持った早乙女が戻って来た。


「はい、これ。持って」

「了解」

「見ちゃダメよ?」

「見ねぇよ」

「そんなこと言っちゃって。本当は興味津々なんじゃない?」

「見ない方が想像の余地があるだろう?」

「……確かにそうね」


 俺の回答に早乙女は納得の色を見せた。

 それでいいのか……?


 次に立ち寄ったのは、水着ショップだった。

 先ほどのランジェリーショップとは異なり、こちらは男性用水着も売られている。


「俺も見てきていいか」

「あら? 氷室君も買うの?」

「そろそろ古くなったからな」


 サイズも合わなくなってきているし、色落ちもしている。

 デザインに拘りはないが、古臭いのは良くないだろう。


「なら、終わったらお店の前で集合ね」

「分かった」


 俺は男性水着が売られているコーナーへと向かう。

 派手過ぎず、地味過ぎない水着を選ぶ。

 ついでにゴーグルと日焼け止めクリーム、水泳帽も買ってしまう。


 それでも俺の買い物の方が早かった。

 十分ほど待ち、様子を伺いに行こうかと思ったタイミングで早乙女が戻って来た。


「お待たせ。……持ってもらえる」

「別にいいが、少し多いな?」

「二着、買ったの。あとラッシュガードも」

「二着?」


 水着ってそう何度も着るモノでもないし、複数いらないと思うが……。


「一着は普通のやつよ。授業でも、レジャーでも使える感じのやつ」

「もう一着は?」

「……ちょっと、大胆なやつ」


 大胆なやつ、か。


 ……少し気になるな。

 海かプールに誘えば見せてもらえるのだろうか?


「一通り、買い物終わったけど……解散するには、少し早いわね」

「そうだな。……どこかで時間、潰すか?」

「プランがあるなら聞くわ」


 さて、どうしようか。

 荷物も多いし、あまり動き回りたくはない。

 となると……。


「カラオケとか、どうだ? 荷物も置ける」

「カラオケね。いいわよ」


 俺たちは近くの安そうなカラオケ店を見つけ、入店した。

 案内された部屋は、二人用ということもあり、あまり広くない。


 俺がソファーに腰掛けると、早乙女はその隣に座って来た。

 向かい側に座ればいいのに。


「先、いいぞ

「あら、悪いわね」


 早乙女は早速、タッチパネルを操作し、歌を選び始めた。

 俺は覗き込むような形で、タッチパネルを眺める。 


 そしてふと、視線が下へと向いてしまい……。

 早乙女の白い太腿が視界に入った。


「ねぇ、氷室君」

「な、何だ?」

「……そんなに気になっちゃう?」

「……何がだ?」


 俺がしらばっくれると、早乙女はクスっと楽しそうに笑った。

 そしてわざとらしく、足を組む。

 どうしても視線が奪われてしまう。


「今日、一日中、気にしていたものね」

「そんなことはないが?」

「でも、ファミレスで覗こうとしてなかった?」


 ギクっ。


「覗いては、いない」

「あら。じゃあ……覗こうとはしたの?」

「……少しだけ、魔が差した」


 俺が正直に答えると、早乙女は愉快そうに笑った。

 そしてスカートを軽く摘まんだ。


「カラオケの点数で私に勝ったら、見せてあげようか?」

「……本気で言ってるのか?」

「スリルがあって、面白いでしょ? ……代わりと言っては、何だけど」

「何だ?」

「私が勝ったら、私のお願い。一つだけ、何でも聞いて」

「……何でもか」

「もちろん、常識の範囲内よ」


 ……スカートの中を履いて来ないやつの常識か。

 俺は少しだけ悩んでから、頷いた。


「分かった。……言っておくが、“やっぱなし”は無しだぞ?」

「もちろん」


 こうして俺たちはカラオケの点数勝負を行うことにした。

 そして結論から言えば、俺は負けた。


 惜しいところまで言ったのだが、途中から早乙女が「暑くなってきた」とか言ってトップスのボタンを外したり、わざとらしく足を組んだりして、露骨な妨害工作をして来たのだ。


 これでは勝てる勝負も勝てない。

 ……男の純情を弄びやがって。


「じゃあ、私のお願い、聞いてもらおうかしら」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、早乙女はそう言った。

 一体どんな無茶ぶりが来るのかと、俺は身構える。


「聖良って、呼んで」

「……え?」

「早乙女じゃなくて、聖良って呼んで。……私は春樹君って呼ぶから」


 早乙女の“お願い”は意外な内容だった。


「そんなことで使って良いのか?」


 俺が苦笑しながら言うと、早乙女は小さく鼻を鳴らし、頬を背けた。


「……そんなことじゃ、ないわ。それとも、聖良様の方が良かった?」


 そう言う早乙女――聖良の頬は少し赤らんでいた。

 ……照れ隠しか。


「じゃあ、聖良。これからも、よろしく」

「うん……春樹君」


 この後、俺たちは一曲だけデュエットをして、カラオケを後にした。






 海とプール、春樹君はどちらが好きだろうか?

 私――早乙女聖良はそんなことを考えながら、帰宅した。


 すると同時に妹――早乙女清華が飛び出してきた。


「お姉様! ご、ご無事でしたか!?」

「え、えぇ……ただいま」


 ……無事?


「私、何か心配かけるようなことをしたかしら?」

「そ、それは、その……え、えっと……」


 何か言い辛いことなのか。

 清華は言い淀んだ。


「……か、彼氏さんに、酷いこと、されてないかなと」

「え? ……か、彼氏!?」


 私と、春樹君が!?

 私は自分の顔が熱くなるのを感じた。


「べ、別に……か、彼氏とか、そんなんじゃないわ!」

「そ、そうでしたか?」

「へ、変な詮索は、やめて! そういう関係じゃ、ないから!」


 私は清華にそう言い切ると、足早に自室へと向かった。

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