第19話


「そろそろ、休憩しないか?」


 時刻は十一時。

 俺は早乙女にそう提案した。


 昼には少し早いが、十二時になると込み合ってしまう。

 店に入るなら、今くらいが丁度良いだろう。


「そうね。……お店の候補って、あるかしら?」

「そうだな。お洒落なカフェとかなら、そこそこあるっぽいけど」

「それなら、任せるわ。素敵な場所を選んで」

「あまり期待するなよ」


 と、言いつつもできれば喜んで欲しいと思うのが男心だ。

 しかし早乙女はどういう場所が好きなんだろうか。


 お嬢様だから、高級感あるところが良いだろうか?


 しかしだからこそ高級なイタリアンやフレンチは食べ慣れているだろう。

 だから下手な店には連れていけない。


 それよりも一点特化の専門店の方が、受けが良いかなと考えた。

 ラーメンとか。


 だが初デートにラーメンはあんまりだろう。

 提案したら、無言で睨まれそうだ。


 というわけで、ちょっとお洒落めな感じで……。


「オムライス専門店? へぇ、そんなところ、あるのね」

「どうだ?」

「いいんじゃない」


 幸いにも、好感触だった。

 二人で店へと向かう。

 そのために一度、上へと上がるためにエスカレーターを利用することになったが……。


「氷室君」

「何だ?」

「私の後ろ、守ってね?」

「……後ろ?」


 どういう意味だろうかと首を傾げる間もなく、早乙女はエスカレーターに乗る。

 俺はその後ろに続いた。

 そしてようやく、その意味が分かった。


 スカートが、際どい。

 後ろに立ったからと言って見えるほど短くはないが、覗き込もうと思えば覗き込めてしまう程度には短い。


 ……そう言えば、今日は履いてないんだっけ。

 忘れていた事実を思い出し、俺はスカートの中身が気になって仕方がない気持ちになった。


「ありがとね」


 エスカレーターから降りると、早乙女にウィンクされた。

 後ろめたい気持ちになって俺は、思わず目を逸らした。




 店自体は早い時刻と言うこともあり、すぐに座ることができた。


「私は……プレーンにするわ」

「それなら俺は和風かな」


 プレーンオムライスと、和風オムライス。

 それぞれ二つを注文する。

 料理は十五分ほどで届いた。


 俺はスプーンで和風オムライスを崩し、口に運ぶ。


 ベースはオムライスなのだが、“和風”という商品名なだけあり、仄かに醤油と出汁の風味がした。

 イロモノかと思っていたが、意外と悪くない。


「それ、美味しい?」

「そこそこ」

「一口、もらっていい?」

「いいぞ」


 取り皿ってあるかな?

 俺はテーブルを見渡すが、それらしい物はない。

 注文するしかないか。


 俺がそう思いながら前を向くと、早乙女が口を開け、身を乗り出していた。


「……」


 俺は少し考えてから、カトラリーケースから新しいスプーンを取り出した。

 食べた部分と反対側を切り崩し、早乙女の口に放り込む。


「どうだ?」

「……悪くないわ」


 早乙女は咀嚼してからそう答えた。

 言葉の割には、どこか不機嫌そうだった。

 そんなに美味しくなかったのか……?


「俺もそれ、もらっていいか?」

「……ええ。構わないわ」


 早乙女も新しいスプーン使い、オムライスを切り崩した。

 そしてオムライスの乗ったスプーンを、俺に向かって突き出した。


「いや、この皿に乗せてくれれば……」

「ほら!」


 無理矢理スプーンを口元に押し付けられる。

 仕方がなく俺はスプーンを口に含み、オムライスを咀嚼した。


「どう?」

「……美味しい」

「そう。それは良かったわ」


 早乙女はそう言って小さく鼻を鳴らした。

 少しだけ機嫌が治ったようだ。


「買い物終わった後、どうする?」

「そうね……」


 話をしながら、オムライスを食べる。

 半分ほど食べてから、水を飲もうとし……。


「あ」


 カラン。

 音を立てて、スプーンが床に落ちた。


 俺はしゃがみ込み、床に落ちたスプーンを拾う。

 そしてふと、前を向く。


 そこには早乙女の白い脚があった。

 すらりと長い脚から視線を少し上に向けると、太腿を半分ほど隠すスカート。


 自然と視線がスカートの奥へと吸い込まれていき……。


「スプーン、あった?」

「あ、あぁ……取れたよ。痛!」


 俺は慌てて立ち上がろうとして、テーブルに頭をぶつけた。


「何やってるの?」

「……本当にそうだな」


 本当にそうだ。

 盗み見ようとするのは良くない。


 ……頼めば見せてくれるのだろうか?

 いや、頼まないけどな。



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