第18話
「それで最初はどこに行くんだ?」
俺は早乙女に尋ねた。
今回のデートの主目的は、買い物だったはずだが……。
「え? デートプランって、男性が考えてくれるものでしょ?」
……この女。
だったら、最初から言え。
「冗談よ。そんな顔、しないで」
早乙女は笑うと、駅前にあるショッピングモールを指さした。
「服、買いたいから。付き合って」
「分かった」
早速、ショッピングモールの中に入る。
中は冷房が効いていて、涼しかった。
「それで何を買うんだ?」
「取り合えず、上から見ていくわ」
「……上から?」
服の?
そう思った俺に対し、早乙女は天上を指さしながら言った。
「上から」
……上の階からか。
このショッピングモール、六階から地下二階まであるんだが。
いや、いいけどさ。
「次はこのお店にしましょう」
早乙女はそう言いながら五つ目の店舗に入った。
今のところ、購入した服はゼロだ。
大量の服を持たされるよりはいいが、しかし一着も買わないとなると今までの時間は何だったのかという気持ちになる。
……もちろん、言わないが。
「これとか、どう思う?」
早乙女は花柄のワンピースを手に持って言った。
「悪くないんじゃないか?」
「さっきと同じ回答ね」
俺に服の良し悪しなど分からない。
そもそも話をすると、早乙女は美人なので、何を着ても似合う。
だから同じような答えになってしまう。
「あなたの本心を聞きたいのだけれど」
「俺にはファッションセンスなんてないぞ。知識もない」
「別に構わないわ。参考に聞きたいだけだから」
そうか。
……そうか、なら。
「ちょっと、おばさん臭いかなと思った」
「……そう。分からないでもないわね」
早乙女も引っかかるものがあったらしい。
試着せず、服を戻した。
「……ところで氷室君は、好きな服とかある? このお店で」
「俺に女装の趣味はないが」
「本気で言ってる?」
「睨むな、冗談だ。……俺が選んでもいいのか?」
「参考までに」
しかし俺の好みか。
あまりに変な物を選ぶと、馬鹿にされそうだな。
無難に似合う服を選びたいが……。
「これとか、どう?」
「ふーん」
俺が手に取ったのは白いワンピースだ。
特に目立った柄はない。
真っ白い生地と、レースやリボンだけで飾られたシンプルなワンピースだ。
早乙女は中身はともかく、見た目と雰囲気は清楚なので、きっと似合うだろう。
「男の人って、こういうの好きよね」
早乙女のリアクションは淡泊な物だった。
あまり趣味ではないのかもしれない。
「こういうのは本当に美人な人しか、着こなせないからな。白いワンピースが好きというより、白いワンピースを着こなせる女性に憧れるんだろう」
あくまで一般論、男代表としての意見だ。
別に俺が早乙女に憧れているという意味ではない。
いや、見てみたい気持ちはあるけど。
「ふーん」
「まあ、好きな物を選べばいいんじゃないか。他にも店はたくさんあるし」
俺がそう言ってワンピースを戻そうとする。
しかし早乙女に手首を掴まれた。
「試着するから。貸して」
「え? あぁ……分かった」
早乙女は俺の手から白いワンピースを奪うと、試着室に篭ってしまった。
僅かに服を脱ぐ音が聞こえる。
そしてしばらくすると、試着室のカーテンが開いた。
「どう?」
「おぉ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
さすが、モデルのような体型と顔立ちをしているだけはある。
白いワンピースを見事に着こなしていた。
……だけど、少し足りないな。
「ちょっと、待ってもらえるか?」
「うん? まあ、いいけど」
確かあっちの方に売られてたはず。
あった、あった。
これだよ。
俺は目当ての物を手に取ると、急いで早乙女のところまで戻った。
「これ、被ってみてくれ」
「麦わら帽子? まあ、いいけど」
早乙女は呆れた顔をしながらも、麦わら帽子を被った。
足りなかったパズルのピースが、嵌ったような感じがした。
美少女+白ワンピ+麦わら帽子。
一つの答えが完成した。
「海とか、向日葵畑が背景だったら、もっと栄えそうだな」
「何というか、コテコテね」
早乙女は鏡に映る自分の姿を見ながら、そう呟いた。
少し複雑そうな表情だ。
やはり趣味ではないのかもしれない。
「キャミソールの色は、考えないとね。これで透けてるのはダサいわ」
白いワンピースの下には、早乙女の黒いキャミソールが透けて見えていた。
シースルー生地ではないので、先程まで来ていた私服ほどは透けていない。
ただ白いワンピースは中に着ている服を、透けさせて見せることを前提とした服ではない。
清楚なイメージとしても、透けさせない方がいいだろう。
「じゃあ、着替えるから」
早乙女はそう言うとカーテンを閉めてしまった。
しばらくすると、元の私服に着替え終えた早乙女が立っていた。
「じゃあ、はい、これ」
早乙女は何気ない調子で、俺が手に持っていた買い物カゴの中にワンピースと麦わら帽子を入れた。
「……買うのか?」
「ええ。……悪くないと、思ったから」
そう言うと早乙女は顔を背けた。
「別にあなたの趣味に合わせたわけじゃないから。勘違いしないでね」
そう言う早乙女の頬は僅かに赤らんでいた。
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