第11話
「ほら、行くわよ!」
「あ、あぁ……」
俺は早乙女と手を繋ぎながら、走り始めた。
走りながら、横目で早乙女の胸を確認する。
指摘されなければ気付けないが、確かに胸の揺れが大きい……気がする。
「おい、早乙女。さっきの……」
「ほら、最初の障害よ!」
声が聞こえなかったのか、それともあえて無視したのか。
早乙女は目の前の大きな“デカパン”を指さして言った。
最初の障害は“デカパン競争”だ。
知らない人のために解説すると、大きなパンツ(ズボン?)の裾の中にそれぞれ入って、走るという競技だ。
二人三脚の緩いバージョンだと思えばいい。
「後で詳しく聞くならな」
「……お手柔らかにね」
俺たちはそれぞれ、裾の中に入った。
中は意外と狭い。
走るのに支障はないが、体が密着してしまう。
肘が時折、早乙女の胸に触れる。
“ノーブラ”という情報のせいか、妙に意識してしまう。
「次はキャタピラか」
ようやく密着状態から解放される。
俺は思わず、安堵の声を漏らした。
「私、前でいい?」
「どうぞ」
次の障害はキャタピラ競争だ。
段ボールで作られたキャタピラの中に入り、四つん這いになりながら進むという競技である。
打ち合わせ通り、まず最初に早乙女が段ボールの中に入る。
そして俺はその後ろに入ったのだが……。
「ガンガン、進んじゃっていい?」
「あ、あぁ……」
こ、こいつ……。
胸だけじゃなくて、尻も大きいのか。
俺は顔を背けながら、答えた。
「もっと、早めて良い?」
「いいよ」
早乙女が速度を上げる。
俺はそんな早乙女に遅れないように、さりとて尻に衝突することがないように、緊張しながら進む。
というか、こいつ、何でこんなにパツパツ気味……あぁ、そう言えばサイズが小さいのを着ていると言ってたな。
この性女め……。
俺は思わず、目の前の尻を睨んだ。
その瞬間。
太腿と短パンの隙間から、チラっと白い物が見えた。
「あ」
不味い。
俺は慌てて目を逸らす。
「氷室君」
「な、何だ?」
心臓が跳ねる。
「ついたわよ。早く出て、次に行きましょう」
「あ、あぁ!」
早乙女に引っ張られるように、次の障害へと走る。
「次はボール渡しね」
早乙女は真剣な顔でそう言った。
どうやら、競技に熱中しているらしい。
こいつ、自分がノーブラなことを忘れているんじゃないか?
「どう? 安定してる? 走っていい?」
「合わせるから、好きに走ってくれ」
俺たちは互いの背でボールを挟みながら、走り出す。
走ると言っても、横歩きを小走り気味という感じだが。
早乙女の尻が自分の尻に当たる以外に、接触はない。
一先ず、安心だ。
この後は確か……平均台だったか。
「一気に駆け抜けてしまいましょう」
「そうだな」
ボールを運び終えると、早乙女は平均台に乗った。
最後の平均台渡りは、女子が平均台の上を歩き、男子がその横を支えるというものだ。
他のクラスの女子がキャーキャー言いながら歩くのに対し、早乙女は真剣な顔で、全速力で駆け抜けていく。
自分では“燃えない派”と言っていたが……負けず嫌いなのだろうか?
「そんなに急ぐと危な……」
「キャッ!」
警告が終わるよりも早く、早乙女が足を滑らせた。
俺は慌てて早乙女の体を受け止め、支える。
胸板の上で、柔らかい胸が歪むのを感じた。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
早乙女は顔を真っ赤にしたまま、頷いた。
そして胸を手で庇いながら、平均台をゆっくりと歩き始める。
……今更、ノーブラだったことを思い出したらしい。
最後に何度もフラつき、俺の方に倒れ込みながらも、何とか平均台を渡り切った。
結果は三位だった。
「ご、ごめんなさい。足、引っ張っちゃったわね」
早乙女は赤らんだ頬を掻きながら、気まずそうにそう言った。
本来なら一位でゴールできたところを、自分のミスで台無しにしてしまったと思っているようだ。
「別に体育祭の順位なんて、気にしてない。それよりも……楽しかったか?」
「え、えぇ……そ、そうね。……悪くなかったわ」
俺の問いに早乙女は赤い顔で頷いた。
どうやら、新しい扉を開いてしまったようだ。
……まあ、こいつが楽しいならいいけどさ。
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