第6話
「うーん、十時かぁ……」
二度寝から起きると、時刻は昼前だった。
体調はあまり良くない。
食欲もわかないので、水だけ飲んで俺は再びベッドに入る。
そして寝る前に携帯だけ確認する。
友人たちからは体調を気遣うようなメッセージが届いていた。
しかしその中に一つだけ、気になる物が。
『今日は黒。元気出た? 脱いだ方がいい?』
どういう理屈だよ。
『脱ぐな、風邪引くぞ。元気はちょっと出た』
メッセージを送り、俺は再びベッドの中に潜り込んだ。
「ねぇ、氷室君。今は履いてると思う? 履いてないと思う? ……確かめてみて?」
「あぁ……」
俺が早乙女のスカートを捲り、中身を確かめようとした途端。
ピンポーン!
空気の読めないインターフォンの音に、俺は目を覚ました。
全く、誰だよ、人がいい夢見てる時に……。
イライラしながら、インターフォンの画面を確認する。
そこには早乙女が映っていた。
慌てて玄関へと向かう。
「こんにちは、氷室君。思ったよりも顔色、悪くないわね」
そう言う早乙女は手に買い物袋を下げていた。
どうやらお見舞いに来てくれたようだ。
「先に一報入れてくれ」
「お昼に入れたけど、既読付かなかったから」
「え」
俺は慌てて携帯を確認する。
確かに早乙女からは『放課後にお見舞いに行くけど、欲しい物ある?』とメッセージが来ていた。
……というか、もう夕方か。
「返事なかったから、差し入れは適当に買ってきたわ」
「……そうか。ありがとう」
「気にしないで。私のせいで、風邪引かせたようなものだから」
取り敢えず、俺は早乙女を家に上げた。
「へぇ……男の一人暮らしって聞いたけど、意外と綺麗ね。もっと、ゴミとか転がっていると思ってたわ」
「ちゃんと捨ててるから安心しろ」
人を何だと思っているんだか……。
そう思っていると、早乙女は手に持っていたビニール袋を俺に差し出した。
「冷えピタと、のど飴。あと、レトルトのおかゆと缶詰、買ってきたわ。無駄にはならないでしょ」
「ありがとう。恩に着る。……レシート、あるか?」
「袋に入ってるわ。払ってもらわなくてもいいけどね。ところで……」
早乙女は無造作に、俺の肩に手を置いた。
「うん……!?」
そして急に顔を近づけて来た。
ふっくらとした唇が近づく。
青い瞳の中に、俺の顔が映る。
額と額が触れる。
「熱、そんなに高くないわね」
「ば、馬鹿、やめろ……!」
俺は慌てて早乙女を引き剥がした。
早乙女はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「顔、赤いわね。ぶり返しちゃったかしら?」
こいつめ。
人が抵抗しないことをいいことに。
「病人をイジメるのはやめてくれ」
「それもそうね。でも、意外と元気そう。……食欲はある?」
「食欲は……」
俺はお腹を摩った。
今朝から何も食べていない。
「……まあ、そこそこ」
「そう。なら、何か作ろうか?」
「……作れるのか?」
「冷蔵庫にあるもの次第」
早乙女は鞄からエプロンを取り出しながらそう言った。
聖女様のエプロン姿は中々、似合っていた。
「……そこまでしてもらうのは、申し訳ないが」
「あなたが早く回復しないと、相手がいなくて困るのよ」
「あぁ、そう……」
何だか複雑だ。
「ところで、氷室君」
「何だ」
「今は履いてると思う? 履いてないと思う?」
早乙女はスカートを摘み、少し上げながら言った。
白い太腿がチラりと視界に入る。
「確かめていいか?」
「ダメに決まっているでしょ」
早乙女は真顔でそう言うとスカートを戻し、台所に向かってしまった。
……正夢じゃなかったようだ。
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