第5話
「ま、待って! 言い訳させて!!」
早乙女は顔を真っ赤にしながら、俺に詰め寄って来た。
手で胸は隠しているので、大事な場所は見えていない。
「お、おう……あまり、近づくな」
だが雨でブラウスが透けて、白い肌が見えていることは変わりない。
ちょっと刺激が強い。
「今朝のクイズは、そういうことだったんだな……」
まさか、ノーブラで登校しているとは思わなかった。
スカートの中なら、捲れない限り見えないけど……。
ノーブラは場合によっては、透けて見える可能性がある。
随分と冒険した物だ。
「ち、違うの! 私はそんなに変態じゃない!!」
「いや、そんなことはないと思うが」
「違うの、聞いて!! 聞きなさい!!」
「あ、はい」
早乙女に肩を掴まれ、俺は慌てて首を縦に振った。
「今日は中に何も着て来なかったわけじゃないの。ちゃんと、着て来ていたわ。でも、トラブルがあって、それが使えなくなったの」
「ふむ……?」
早乙女曰く、インナーに相当する物は着ていたようだ。
しかしそれがトラブルとやらで、着れなくなったと。
「何を着て来たんだ?」
「え? ……聞きたい?」
「……まあ、本当に着て来ていたなら、答えられるんじゃないかなと」
どのみち、変態なのは変わりないと思うけど。
そう思う俺だが、早乙女にとってはそうではないようだ。
「え、えっと、その……スク水?」
「お前、小学生かよ」
中学生でもスク水を制服の下に来て来ないぞ。
「別に着替えるのが面倒くさいという理由で、着てきたわけじゃないわ」
「じゃあ、どういう理由だ?」
「……好きなの」
早乙女は顔を赤らめ、恥ずかしそうに言った。
恥ずかしがるのは、今更過ぎる気がするが……。
「……締め付けがいいみたいな?」
「そう。さすが、氷室君なら分かってくれると思っていたわ」
「うん、まあ、不名誉だけどな。そのさすがは」
こいつ俺を何だと思っているんだ。
……むっつりスケベか。
否定はできない。
「で、スク水着て来て授業で使ったら、びしょ濡れになって着れなくなったと」
「そう、そうなの! よく分かったわね! ……もしかして、氷室君も履いてない?」
「そんなわけないだろ。お前じゃあるまいし」
小学生の時に俺もやらかした過去がある。
何なら、中学の時にもやらかした。
さすがに高校生にもなって、海パンを履いて登校しないけど。
「というわけで、仕方がなく、こういう状況なの。……不可抗力なの。分かった?」
「ああ、うん。分かった」
どのみち早乙女が変態であることは変わらないような……。
そう思ったが、口には出さない。
怒りそうだし。
しかしスク水を着て来たせいでノーブラということは……。
もしかして、下も履いていないのでは?
そう思った俺は思わず、早乙女のスカートに視線を向けた。
雨水を吸ったスカートは、早乙女の足にぴったりと張り付いていた。
脚の形がくっきりと、露わになっている。
透けてはないが、鼠径部の形も見えそうで見えないような……。
「……あまり、ジロジロ見ないで」
早乙女は恥ずかしそうに両手で胸を隠した。
「あぁ、悪い」
見ていたのはスカートだったのだが
わざわざ指摘しない。
少し気まずい雰囲気になりながら、俺たちは時を過ごす。
「雨、止む気配、ないわね」
「そうだな……」
正直、俺は家が近所なので、もう濡れたまま帰りたいのだが……。
あぁ、そうだ。
「傘、貸すよ。意味があるか、分からないが」
「いいの?」
「俺はすぐそこだから」
早乙女は遠慮がちだったが、俺がその手に傘を押し付けると、素直に受け入れた。
「……でも、どうしようかしら。このままじゃ、道、歩けないわ」
どうやらノーブラで帰るのが嫌らしい。
ノーパンは気にしないくせに……。
「もういっそ、スク水着直したらどうだ? どうせ、濡れてるんだし」
「確かに」
名案だと言わんばかりに早乙女は頷くと、水着バックを手に、公園の女子トイレに駆け込んだ。
しばらくして雨の中、早乙女は戻って来た。
「どう思う?」
「う、うん……キャミソールに見えないでも、ないような……」
「どう見ても、スク水でしょ……」
早乙女は赤い顔でそう言った。
メーカーのロゴまで透けて見えているので、言い訳は聞かないだろう。
「……この恰好で街を歩いてたら、どう思う?」
早乙女は少し上擦った声でそう聞いて来た。
もしかしたら、性癖に刺さったのかもしれない。
「小学生みたいなやつだなって思う」
「それは嫌ね。……やめるわ」
早乙女は名残惜しそうな表情でそう言うと、再び女子トイレに向かった。
戻ってくる頃には元のノーブラスタイルに戻っていた。
「……あのさ。お願いがあるんだけれど、いい?」
「どうした」
「……駅まで送って欲しいの。駅まででいいから」
「傘は貸すけど……」
それとも痴漢とかを心配しているのだろうか?
雨の中とはいえそれなりに人通りはあるし、真昼間から痴漢が出るほど治安は悪くないとは思うけど……。
「片手で胸、もう片方で鞄を持ったら、両手が空かないじゃない」
「なるほど。いいよ」
「……ありがとう。恩に着るわ」
こうして俺たちは豪雨の中、駅まで歩くことになったのだが……。
「おい、あまり寄るな」
「だって、寄らないと雨に濡れちゃうし」
開き直ったのか、早乙女は俺との接触を増やしてきた。
さっきから、二の腕がピッタリと胸に触れている。
ノーブラだからか、濡れているせいかは分からないが、何だか体温を強く感じる。
「そうだ。……お礼に好きな色、言って。履いてきてあげる」
耳元で囁かれる。
好きな色か。
……個人的には黒が似合う気がするけど。
「見せてくれるのか?」
「そんなわけないじゃない」
「じゃあ、意味ないだろ」
そんなやり取りをしながら、俺は早乙女を駅まで送り届けた。
その後、迎えの車で帰る早乙女を見送ってから、俺は帰宅した。
そして翌日。
風邪を引いた。
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