【掌編】お兄さまは現実主義【900文字以内】

音雪香林

第1話 お兄さまは現実主義。

「スキップしながら夜空へ上がっていって、三日月をブランコにして遊べたら素敵だと思うんだ!」


 数か月後には小学校へ入学する妹が母へ語っているのが耳に入った。

 相変わらず夢見がちだなと思いながら俺は国民的海賊漫画本のページを繰る。

 母はというと妹へこんな返事をした。


「魔女になれば叶うかもしれないわね」


 俺はほうきに乗って宅急便の仕事をこなす魔女を描いた有名なアニメ映画を連想する。


「お母さん、魔女になる方法を教えて!」

「そうねぇ……」


 母が即答できなくて困っているのを感じる。

 俺は溜息をついて漫画本を閉じた。


「科学者目指して勉強すればいいんじゃないか」


 急に会話に乱入した俺の言葉に、妹はきょとんとする。


「なんで科学者? 私は魔女になりたいのに」


 俺は妹のふわふわとした幻想的な夢なんて応援しない。

 ましてや「小さい子の夢を壊さないように配慮する」なんて真似もできない。

 ゆえに。


「超越した科学力は魔法と見分けがつかないからさ」


 と言った。

 だが妹は理解できないらしく、首を傾げた。


「科学が魔法ってこと?」


 妹の理解力が追い付いていないことが感じられるが、俺は面倒になって「そうだよ」と返す。


 妹は俄然やる気が出たらしく「頑張って勉強して科学者になる!」と宣言した。

 そしてその勢いのままに部屋を飛び出してどこぞへ行ってしまう。


 まあ、たぶん一緒に住んでる祖父のところだろう。

 近所で博識だと評判だからな。


 母は複雑そうな表情で妹の背を見送ったあと、俺に胡乱な視線を投げかけるが、俺は。


「魔女の知り合いがいないから魔女の弟子なんてなれないんだし、それだったら勉強して科学者の助手にでもなって便利なもの沢山作って普及させる方が他人の役にも立つ。最適な答えだったと思うよ」


 とだ口にして再び海賊漫画を読み始めた。

 さて、妹は将来三日月のブランコに乗れるようになるかな。


 ま、俺にとってはどうでもいいことだけどね。




 おわり

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