七十五話 説得へ
文化祭が終わって月が変わり十月、これから中間テストだ。しかし俺にとってはそんな事より、もっと重要なこともあるが。
例の二人は思ったよりすんなり事を話したようで、時々俺も呼び出されて確認の話をされたが、実際の出来事と一致していた。
観月や周囲の態度によって反省したのか、意気消沈したのかは分からないが随分あっさりとしたものだ。ごねられるよりは余程良いが。
この事件も大事だが、ちゃんとテストを受けて点数を取らないと留年してしまう。勉学は学生の本分だからね。
やれるならやった方がずっと良い。
「それで俺の方に来たと」
「うん、悪いけど頼むよ」
今日の分の授業が終わり、放課後になって図書室に来た俺と紗奈さん。そして好透とその恋人二人も一緒にやってきた。二股とは……
なぜ彼がいるのかというと、ウチの学年で一番成績が良いからだ。なんなら一学年 上の内容も自主的にやっているらしい。
そんな好透に改めて勉強を教えてもらい、テストに備えようという試みだ。
「私も混ぜて欲しいです」
「おう帰ってどうぞ」
そんな俺たちに近付いてきたのは観月、いられても気が散るだけなので帰ってくれと言っておく。
「そっそんな……お願いです邪魔しませんから!」
「既に邪魔」
彼女には悪いが、普通にめんどくさいので付き合うならば勝手にしてくれ。ただ聞かれたら邪魔と言うだけだ。
だというのに彼女はピィピィと雨に濡れた仔犬のように縮んでいる。だから勝手にせぇというに。
「はぁ……別に勝手にすればいいじゃない、いちいち聞かないでよ」
「っ!……ありがとうございます♪」
仕方ないのでそう言うと、観月は パァッ!と笑顔になって隣座ってきた。は????
「いやなんで隣……」
「あまり離れすぎてもやりづらいので、大目に見て欲しいですごめんなさい」
気にはなるが、気にし過ぎても仕方ないかと、そのままにしておくことにした。
そうして勉強を始め、カリカリとペンを進める。休んでたとはいえ、それは文化祭の時のお話なのでそもそも授業に遅れはない。
とはいえ不安はある、勉強しておいて損は無い。
紗奈さんと好透教えてもらいつつ、ノートにペンを走らせた。
気付けば隣の観月のことはすぐに忘れて、とりあえず三つの教科の不安なところは終わった。
そろそろ学校が閉まる時間なので、みんなで図書室を後にする。
校門をくぐり、好透たちは逆方向なので彼らとは解散し、紗奈さんと観月と一緒に歩く。
なぜ観月が手を握ろうとしてくるのかがよく分からないが、とりあえずそれは避けつつスルーの態度を貫いておく。何故かヘコんでいるが、しょぼんじゃないのよ。
「それでは、私はこちらなので」
「はいよ、それじゃ」
「じゃーね観月さん」
帰り道が違うので途中で別れる観月に手を振ると、彼女も小さく手を振る。
ようやく紗奈さんと二人きりになれたわけだが、とはいえそれだけだ。今日はそのまま彼女を家に送った。
それから中間テストが終わるまで特別なにがある訳でもなく、学校終わりに母さんと弁護士との三人で話をするくらいであった。
やはり分からないところは多少あったものの、それでも危なげなくテストを終え答案返却も終えた。成績に異常なしか。
意識は身体に異常もなく、無事にあのナンパ男と、ソイツに指示されて俺を呼び出した男は学校からいなくなった。
ナンパ男はもちろん、俺を呼んだ方も共犯として処罰されたらしい。
ナンパの方はやはり捕まったようで、少年院に行ったみたい。もう片方も同じくみたいだ。
呼び出したとして、俺が殴られたところを見た上で見捨てたのだから共犯ということだ。連れていかなければ始まらなかった事件でもあるから。
いやはや、悪いことはするもんじゃないね。
その一件が終わり、今度は本命だ。紗奈さんのお母さんと話をつける時がきた。
まぁ話をつけるっていうか、理解してもらうっていうか……
紗奈さん曰く、今度の土曜日に話ができるとの事。待っているから家に来て欲しいってさ。
取り付く島もないと思ったが、案外そうでもないらしい。もしかしたら上手くいくかも……?
でももしかしたら罵倒の嵐が襲いかかって来るかもしれない。それは覚悟の必要がある。
お前なんぞに娘はやらん!私が連れてきた男がいるから二度と近付くな!とか言われてしまったらさすがに心が折れてしまう。
そんなイメージを一度浮かべてしまうと、ふとした時にそれが何度も頭を
不安に苛まれながら当日が訪れ、紗奈さんの家の最寄り駅で、手土産を片手に彼女を待つ。
時刻は午前十時を前にして、彼女は小走りでやってきた。
「おはよう樹くん!」
「おはよう」
こちらに駆け寄った紗奈さんは少しだけ勢いを弱めて抱き着いてきた。それを受け止め背中をそっと撫でる。
彼女の笑顔を見ていると不安が少しだけ和らいだ。
それからすぐに歩きだし、彼女の家に向かう。
段々と不安が強くなり足取りは重くなるが、それに負けているようでは突き放されて終わるだろう。
「……大丈夫だよ」
そんな俺の胸中を察したのだろう。紗奈さんが繋いでいた手に力をギュッと 込めながら、真っ直ぐ目を見て微笑んだ。
それだけで、心にあった不安がだいぶ軽くなった。
紗奈さんの家を前にして、俺は覚悟を決めた。
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