七十四話 まずは

 紗奈さんのお母さんが俺に対し、強すぎる不信感を抱いていることは分かったが、まずは目の前の問題から解決しようという話になった。まぁ当然か。


 しかし今は何ができるというわけではないので、俺たちは親交を深めることにした。

 といってもいつも通りで、やっぱりベッドの上での秘め事だ。


 ただ今日は、先程の話で感じた不安をかき消すように、少し激しく行為に及んだ。

 不安が欲を強くして、ただなにも言わずに求め合うソレは、まるで餌を求める雛のようだった。


 別れろなどと、そんなことを一方的に決められても困るのだ。でも、ただ反発するだけじゃダメだ。

 ちゃんと話をして、理解してもらう。それが一番大事だと思った。



 ひとしきり愛し合ったあとは、いつも通りシャワーを浴びて、紗奈さんを家に送る。

 その手を、絶対離さないという気持ちで握りながら。


「お母さん、分かってくれるかな」


「分からない……けど、ちゃんと話すしかないと思う」


 悩んでも仕方ない。まずはあのナンパ野郎の処罰からだ。

 きっちり落とし前をつけて、自分のやったことを後悔して貰わないといけない。


 そして、紗奈さんのお母さんにはその事をキチンと話す。珍しい出来事をさも、俺がそういう人間だと決めつけられては、溜まったものじゃないからね。



 そうして次の日、俺は母さんと、母さんが雇った弁護士に連れられて学校のとある一室……応接間にやってきた。

 テーブルを挟んで向かいには教頭と校長がおり、例の男はいなかった。


 どうやらあの日……つまり俺が呼び出されてそれに着いて行った結果、背後からヤツに何かの得物で頭を殴られたことで気を失って、そして体育倉庫に閉じ込められたことを改めて話した。


 どうやらヤツが体育倉庫の鍵を借りた時のことを知っている……というか頼まれて鍵を渡した先生が証人となってくれているらしい。

 まさか嘘をついてこんなことをするなんて……とのことだ。


 俺を呼び出した男子生徒おチビくんのこともしっかり話してあり、これからの二人がどうなるか見ものである。



 さすがにこれだけのことがあったため普通に登校というのはできず、すぐに家に帰った。

 それはヤツも一緒みたいで、壱斗からあのナンパ男が来ていないことを連絡してくれた。そりゃそうだ。


 殺人未遂に監禁とは、これからどうなるかは学生の俺には分からない。

 だが母さんはできるだけ追い詰めると言っていたし、どうなるのか参考にさせてもらおう。


 そして次の日は呼び出されることも無く、普通に学校にやってきた。どうやらあとは大人の仕事だってさ。

 ただ、また話を聞かなければいけなくなったらまた声をかけるとのことで、余計なことは考えずにあった出来事をそのまま話せばいいと言われた。


 とりあえず、学校側は俺の味方になってくれそうで安心したよ。

 どうやら普段から素行の悪い生徒であったらしく、しかもヤツに体育倉庫の鍵を貸した先生もいて疑わない方が難しいとのことだ。


 しかも俺が意識を失ったという場所の近くから、少しだけ歪んだ金属バットがあったらしい。は?それでやったの?殺す気だろそれ。

 というか隠せよ、どこまで無鉄砲なんだよ。

 ここまでくればさすがに擁護のしようもないので、学校としても庇う気はないようだ。


 ただ 今すぐに裁判!とはいかず、アレコレと手続きをふむ必要があるため、俺が差し支えないのであれば日常生活を送っても問題ないそうだ。

 あとは体調を見ながらやってくれとのこと。無理するなってさ。


 ちなみに今日はナンパ野郎に指示されて俺を連れていった男子生徒が呼び出されているようだ。

 彼も共犯だよなコレ、しかもあんな嘘までついてさ。悪質だよ。


 そんな彼の嘘に乗った連中が、俺の顔を見るなりヒョコヒョコとやってきて謝っていたが、本心からのものでは無いことは明白だった。

 まぁここでいちいち荒波を立てる必要もないので、とりあえず頷いておいた。ちゃんと話を聞くべきだと、一言添えて。


 俺の言葉には誰も言い返さない、間違ってはいないだろうからな。


 とりあえず、しばらくは様子見だ。早いとこ決着がついて欲しいが、どれだけ掛かるかは分からない。

 ただ、待つだけだ。

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