七十話 友人たちの憂い
時刻は十五時頃、文化祭ということで母さんと一緒に遊びに来てくれた
どうやらクラスの方で色々あったらしく、彼は家に帰ってしまったらしい。七瀬もその後を追ったようだ。
俺と壱斗で樹を監禁したバカ野郎をシバいて、彼に何をしたのか吐き出させた。
その内容はまだ好透には共有していないので、一応話をしておくことになった。
使われていない教室で椅子を借りてそこに座りながら、ヤツの行いを好透に話す。しかしそれを聞いた彼は、なにやら考える素振りを始めた。
「樹は帰ったんだよな?俺がアイツを見た時は変な様子はなかったけど、違和感とかなかったか?」
「いや、特にねぇな」
好透の質問に燈璃が首を振って答える。
壱斗と俺がヤツを絞っている間、樹と一緒にいたのは好透と燈璃だ。俺たちが気付いた時には既に彼は帰ってしまったらしい。
しかし、好透一体どうしてそんなことを?
「なんだよ、様子ったってアイツ ピンビンしてたじゃねぇか。アタシと一緒に
「だから怖いんだ。気絶するほどの殴打って、一体頭部にどれだけの衝撃だと思う?樹が元気そうだったから完全に忘れてたけど、もしかしたら命に関わるかも……」
「はぁ!?」
好透の話に燈璃が椅子から立ち上がって声を上げた。
彼の言葉はあまりに大袈裟に聞こえたが、よくよく考えてみればおかしい話じゃない。
そもそも人体にとって頭は重要な場所だ、強烈な衝撃はそれだけで意識を奪うことから考えるに脳にダメージを与えてもおかしくない……
そういや俺も、クソ親父に気絶するほどの殴打を食らったことがあるが、あの時は運が良かったのか脳へのダメージはなかった。
それもあって大丈夫だと思っていたけど、もし運が悪ければ帰り道で倒れていてもおかしくない……と。
そういえば樹も中学のころは散々に暴力を食らっていた。上から下まで酷いものだった。
だから彼も、普通に行動できていることから大丈夫だと思ったのだろう。過去に受けた暴力の数々に感覚が麻痺しているなら、彼自身でもそう思ってもおかしくない。
「ダメだ、樹に電話が繋がらねぇ!」
樹に電話を掛けた壱斗が焦ったように言った。
すかさず燈璃が七瀬に電話をかける。樹から帰る旨の連絡を受けてすぐに追いかけたらしく、もしかしたら合流して今も一緒にいるかもしれないが……
「あっ紗奈か!樹は……」
どうやら七瀬には電話が繋がったようで、燈璃は樹について色々と話をしている。
彼女の声色や口ぶりを聞いていると、そこまで深刻ではなさそうだが……?
「分かった、ありがとう。じゃあな」
話を終えた燈璃が電話を切ると、フゥと息をついた。
話を聞いた彼女曰く、どうやら樹は今病院にいるらしい。殴られた箇所が腫れていたようで、数日は安静が必須。
今のところは特に症状はないものの、時間が経ってから異常が発生する可能性もあり予断を許さない状況なのだとか。
また事件性があるため、あの男に対して然るべき対処をするとのことだ。
「とりあえず今は無事ってわけか……」
まだ暫定的ではあるが、無事だと聞いて ホッと胸を撫で下ろした。
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病院を後にした俺たちは、母さんの車で家に向かう。
今のところは頭痛がするわけではないので、とりあえず安静にしておくように医者に言われた。
ちなみに燈璃から紗奈さんの携帯に電話が掛かってきたようで、どうやら心配してくれていたらしい。優しいな。
俺のスマホを見てみると壱斗からの着信があり、メッセージアプリにも晴政と好透からメッセージが送られてきていた。
心配かけてしまったようだが、申し訳ない反面嬉しくもある。彼らには 大丈夫だと送ったが、また後で電話をしよう。
「いい、樹?一週間とは言わないし明日だけでいいから、学校は休みなさい」
「分かった」
ハンドルを握っている母さんが視線を前に向けたまま、そう言った。
姉さんや母さん、さらに医者までも言っていたが頭部に対する強い衝撃は脳に対してダメージを与えかねないらしい。
中学時代の時に散々殴られた事があり、その時は気を失ったこともなく精々頭皮が傷付き出血したくらいだったので、まさかそんなに深刻だとは思わなかった。
最悪の場合命に関わると聞いて、運が良かったのだなと思った。しかし一歩間違えればそのまま……という未来もあることを考えると殺人未遂とも言える。
ヤツが他の人にまで同じことをしないように、徹底的に対処する必要があると、母さんが言っていた。
俺が出来ることはとにかく安静にしておくことだ。難しいことは大人に任せよう。
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