六十九話 呼び出し
「そっか、そんなこと言われたんだ」
「うん。だからムカついて出てきたんだ」
文化祭で賑わう学校を抜け出した俺と紗奈さんは適当なファミレスで昼食を食べ、ある程度心が落ち着いてきた俺は先程の出来事を彼女に話した。
ドリンクバーで取ってきたジュースを一口飲んで、椅子に背中を預け仰ぐように上を見ると、白い天井が視界を覆う。
「そういう事なら頼って欲しいな。せっかくだし観月さん本人も連れてくれば?あの人ならちゃんと説明してくれるでしょ」
「そう上手くいくかな……」
「私たちにとっては観月さんって印象良くないけどさ、あの人割と人気あるから……」
紗奈さんの言ったソレに納得した。確かに顔だけは良いからモテるもんな、観月って。
そういう事なら、明日はアテにさせてもらおうか。そんな話をしていると携帯に電話がかかってきた。
「もしもし」
『あっ、樹!アンタ今どこにいるの?』
相手は姉ちゃんだった。まさか学校に行ったというのか。文化祭だしおかしいことじゃないのか。
でもその話はしてないんだけどな……まぁいいか。
「まぁちょっとね」
『ちょっとねって……まぁ燈璃ちゃんから話は聞いてるから、後で紗奈ちゃんと一緒に家に来なさい。わかった?』
「うん、わかったよ」
姉ちゃんなりに心配してくれているのだろう、さすがにそれを無下にはできないので言うことは聞いておこう。
紗奈さんも姉ちゃんと会うのは喜んでくれると思う。
「誰だったの?」
「姉さんだよ。学校に行ったみたいで俺がいなかったから電話してきたっぽいね。燈璃から話は聞いてるから後で家に来いってさ」
しかし何処から文化祭の情報が漏れたというのか……母さんは仕事、姉ちゃんは大学があるから言わないようにしておいたのに。
「そっか、じゃあこれで解散かな」
「いや、紗奈さんも来てくれってさ」
「そうなんだ、じゃあまだ一緒だね♪」
笑顔の紗奈さんがとても素敵だと思った。何があったのか彼女からも説明してもらってもいいだろう。
それからまた少しだけ喋った俺たちはファミレスを後にして、姉ちゃんに呼ばれたため俺の家に向かった。
鍵を開けて家に入ってリビングに行くと姉ちゃんがソファで寛いでいた。
「お邪魔します
「ただいま。姉さん、仮にもお客さんが来るわけだし一応服装は気を付けてよね」
「おかえり。随分なご挨拶だね、お客さんったって紗奈ちゃんだから別にいいでしょ」
なんと姉ちゃんの服装は薄手で半袖の白いシャツに黒に白のラインが入ったショートパンツだ。
自慢じゃないが姉ちゃんのスタイルはそこそこ良い為、そういった服装は非常に目に悪い。壱斗とか連れてこなくてよかったよ。
「そりゃそうだけど、万が一 壱斗とか連れてきたらどーすんのさ」
「あぁそれはヤバいね。さすがに樹以外の男に見せるのは論外だわー」
さすがに恥じらいはあるようだ、次からは油断しないでもらいたい。もしそうなったら俺までいたたまれなくなる。
紗奈さんも姉ちゃんの姿を見て少し顔を赤くしているが、姉ちゃんは気にしていない様子。やっぱり同性だからかな?
「はい紗奈さん」
「ありがと。じゃあ失礼します」
リビングにある椅子を引いて、紗奈さんをソコに座らせる。冷蔵庫からお茶を出して、二つよコップに注ぎテーブルに置いた。
「あー樹。私もー」
「自分でやって」
仕方ないのでそう言いながらもう一つお茶を用意してこちらに来た姉ちゃんに渡すと、そのまま俺の隣に座った。妙にベタベタしたり撫でてくるのは気になるが、まぁこの際そんなことはどうでもいい。
「なんだかんだ言いながらやってくれる樹が好きだよ……っとそれはそうと、色々あったみたいね」
「まぁね」
三人で椅子に座ったところで、午前中にあった出来事を姉ちゃんに話す。俺に非はないんだし胸を張って話ができるね。
一通りの話が終わると、姉ちゃんはピキピキと青筋を立てていた。
「それって立派なイジメに暴行じゃん。警察行こ」
「そうは言っても時間経っちゃったし……」
そもそも俺だって大事にしたくないんだよね。
確かにやられた事には腹が立つけど、わざわざ警察を呼ぶほどでも無いんだよな。
それに、こういうのは周囲との繋がりをしっかりアピールしておいた方が、よりバカな事をするヤツも減るだろう。
「今回はさっき話した観月って人に話をしてもらうつもりだよ。割とモテる人だから誰も無下にはできないでしょ」
「そゆことねぇ……まぁそれは任せるけどさ、もし前みたいなことになったら無理に通わなくても良いって母さん言ってたからね、無理しないで」
「分かったよありがとう」
姉ちゃんが言ったのは間違いなく中学の時の事だな。確かに荒れてたからなぁ……
無理して過去の二の舞になるくらいなら、という事だろう。ありがたい話だ。
「そういえばアンタ、監禁される前ってどうやってやられたのさ。まさかホイホイついてった訳じゃないよね?」
「そうだね。殴られてから気を失っちゃってさ」
突然の姉ちゃんの質問にきょとんとしてしまうが、一体なんのことだろうか?
しかし、何故かその雰囲気はピリリとしている。
「頭?」
「うん」
俺の答えに姉ちゃんは クワッ!と目を見開かせた。えっなになに?
両肩を ガシッと掴んで詰め寄ってきた。
「病院いきなさい!」
「えっ」
突然の姉ちゃんの態度に、俺はただびっくりするばかりだった。
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