六十八話 悪意
観月と別れてウチのクラスの出し物に紗奈さんと戻ったのだが、なにやら皆の雰囲気が悪い……?いや、そうでもない。
実際のところ、どうやら俺に対しての態度が悪いことはすぐに分かった。
紗奈さんはもちろん、あとから戻ってきた壱斗や紗奈さんの友人と麻緒はそうでも無いのだが、それ以外の連中に話しかけてみても妙に素っ気ない。自分の役割もあるというのに半日も離れていたのは、やはり謝ったとしても許せなかったのだろう……困ったな。
とはいえ、ヤツの下らない浅知恵に引っかかったのは俺だし、警戒心がなかった自業自得でもあるので甘んじて受け入れるしかない。
なんとなく孤立したような雰囲気だが、それに関しては仕方ないとして何もしないというのは気が引ける……うーんどうしよ。
……と思っていたら、クラスの男子数人に呼び出された。やっぱ怒られるかなぁ……
「自分の仕事ほったらかして浮気するクソ野郎がなにヘラヘラしてんだよ」
「え?」
呼び出されたところでそんなことを言われてしまった。おい何の話だ……と思ったが多分、観月と一緒にいたところを見られたのだろう。
しかしそこには紗奈さんもいたハズなので、浮気というのは変な話である。ちなみに紗奈さんと俺が付き合っているのはクラスの皆には周知されている。
「しらばっくれてんなよ、コイツから全部聞いてんだ。観月から呼び出されて遊んでたんだろ?」
「うん、僕は
「……は?」
なんと、あのナンパ男に言われて俺を呼びに来た男子生徒が嘘をついたのだ。コイツは俺に恨みでもあるのだろうか?
身長女子よりも小さく、前髪が目にかかるほどある男子生徒。その見た目も性格もとても大人しいが、どうやら本質はかなり腐っているらしい。
「だってよ。お前みたいなクソがいると雰囲気悪くなるからさっさと消えてくれ、邪魔」
「うん、僕も巻き込まれてうんざりなんだ。早く帰ってよ」
「……お前なに嘘ついてんだよ。観月さんじゃなくて男に伝言頼まれてただろうが、同じ学年の別クラスのヤツに」
息を吐くように嘘をつきやがるこのクズにイライラしてしまうが、こんなヤツに真剣になるのも馬鹿らしい。しかし、困るのも事実だがどうにも信用が得られていない。
もういっそ、帰ってしまおうか?
「やめてよ、僕は嘘なんかついてない!本当に観月さんに言われてキミを呼んだんだ!仲良く手を繋いでどこかに行っちゃったじゃないか!」
「だから嘘をつくなって言ってんだろ!」
さらっと嘘を重ねるその態度にムカついて怒鳴ってしまうが、そんな俺にムカついたのか他の連中が俺に掴みかかってくる。
チビを除いて三人、さすがにそれで地面に叩きつけられてしまえば抵抗はできない。
「いい加減にしろよ御堂。ただでさえテメェみてぇなカスに七瀬を盗られて皆ムカついてんのによ、観月までそれってお前もしかして脅迫でもしてんのか?」
「してねぇけど?」
要するに私怨をぶつける為にコイツの嘘を利用しているだけか。アホらしい。
残念だが今年の文化祭も随分とつまらない、やってられん。もう帰ろうか。
「とにかくよぉ、テメェやる気ねぇなら帰れよ。邪魔だし見てるとイライラしてくるしよ」
「分かった」
「だから帰れって……え?」
「帰るから離してくれないか?」
拘束されたままでは帰れないからそう言ったのだが、みんな困惑が勝りすんなりと離れることが出来た。
連中に背を向けて荷物をとりに教室へ戻る。
紗奈さんと燈璃、壱斗や晴政たちにメッセージで帰ることを伝えて教室を後にする。
あまりにも不愉快で学校にいたくなかった。
校門をくぐって外に出て、これからどこに行こうかと考える。まだ昼食は食べてないんだっけ?
まぁ適当に店でも寄ってのんびりしようか。
スタスタと歩いて街に向かっていると、後ろから誰かが走って肩をトントンと叩いてきた。
「樹くん、大丈夫?なにかあった?」
「別に、紗奈さんは気にしなくていいんだよ。俺の問題だから」
その正体は紗奈さんで、心配してくれたようなのだが、彼女には関係ないことだ。俺の言葉ほっといて楽しんで欲しかったんだ、巻き込みたくなかったから。
でも、彼女はソレを受け入れるような人じゃない。
「気にするよ、だって大好きな樹くんが帰っちゃうんだよ?それならついて行くに決まってるじゃん」
「えっ、それはダメでしょ。紗奈さんがそんな……」
「知らないもん!樹くんがなんて言っても私はついてくからね!ほら、お腹空いたしどこか食べに行こうよ!」
俺の気持ちを気にせず紗奈さんは手を引いて歩き出す。悪いことではあるけれど、まぁ怒られるなら二人で一緒ってことか。
こういうのも、悪くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます