五十一話 悪質ナンパは午前でも出てくる

 翌日の放課後、俺と紗奈さなさんはいつも通り一緒に帰っている。右手かは伝わる彼女の手の感触が心地よい。


「えへへ、明日楽しみ♪」


 なぜ彼女がニコニコとそんな事を言ったのかというと、明日は紗奈さんと母さん姉ちゃんが会うことになったからだ。正確には家にご招待ですね。

 二人には事前に話してあり、そういう事ならと土曜日である明日に紗奈さんを連れていくことにした。


 ちなみに俺は少し緊張している。こんなの初めてだもん、前カノとはあんな結果だったしさ……

 なので家に恋人を上げるのは初めてのことであり、家族からすれば紗奈さんが初めての恋人ということになる。この際たっぷり自慢してやろうかしら?


「ところで、樹くん今日はウチくる?」


「行く」


 当然行くに決まっている。ということはどうやら今日は紗奈さんのご両親はお仕事のようだ。

 俺は最近、隙あらば彼女の家に上げてもらいその度に激しく盛り上がっている。うーん乱れてるなぁ……

 恐らく…いや確実に今日もするだろうないや絶対する。絶対にだ!それは強い決心であった。


「あっ、勘違いしちゃダメだよ?勉強とかじゃないからね、エッチだからね?すぐ脱がすから」


 彼女も彼女でだいぶはっちゃけているが、それはお互い様なのでまぁいいだろう。

 イチャイチャしながら歩いていれば、すぐに彼女の家に着いた。

 手を引かれるまま紗奈さんの部屋に入る。

 もうリビングでお茶とかはない、お互い我慢の限界だった。


 荷物を置いた傍から彼女は思い切りキスをしてくる。すぐにその舌が俺の唇をくぐり抜け口内を巡っている。それは俺も同じであった。


 これはいつも通りの始まりであり、その続きも同じであった。

 あっという間に脱がされた俺はベッドに押し倒されて、全身を彼女にキスされている。

 もはやこうしてキスマークを付けられるのは恒例となった。きっと紗奈さんなりのマーキングだろう。

 ひとしきり彼女にそうされた俺は、彼女にも同じことを求められ、またその先もするのであった。


 本番まで終えた俺たちはすっかり疲れ果て、日もとっぷりと暮れていた。

 もう夜とも言えそうな時間であり、すぐにシャワーを浴びさせてもらい服を着た。


「じゃあ明日は駅でね」


「うん!着いたら連絡するね!」


「わかった」


 玄関先で明日の予定について話し、その後は紗奈さんと少し深めのキスをして別れた。


 そうして帰宅しリビングに行くと姉ちゃんがいた。別にそれはおかしいことでは無いが、なにやら俺の事をジロジロと見ている。


「……おかえり樹、随分とツヤツヤね」


「え?……あーまぁね」


 どう考えてもバレてるとしか思えない発言に困り明後日の方向を見ながら誤魔化しにもならない誤魔化しをした。みなまで言っていないしテキトーに流してしまおう。


「…キスマークついてる」


「っ!」


 そんなことを言われて思わず首筋を隠す。かなり恥ずかしいよこんなの。


「言っとくけど隠せてないから、何個も付いてんだからね」


「うぅ…」


 もはや隠すまいと手を離しさっさと部屋に戻る。家なのにいたたまれないとは困ったものだ。

 好きな人にマーキングされるのは凄く嬉しいのだが、これに関しては困ったものだ。やめてほしくはないけどな。



 そして次の日、俺は紗奈さん家の最寄り駅で降りたところだ。彼女に連絡し改札口をくぐる。

 もう既に近くにいるそうなのだが、キョロキョロと見回しても見当たらない。あれー?


 スマホ片手にあちらこちらへと視線を巡らせていると、それっぽい人がそこにいた。しかし数人の男性に囲まれている。……嫌な予感がする。

 すぐにそちらに向かうと、やはり予想は的中していた。


「困ります、もうすぐ彼氏が来ますから」


「いいじゃんせっかくなら遊ぼうぜ?彼氏なんてほっといてさ」


「いやほっとくなよ勝手に」


 ナンパ野郎の後ろからそう言ってやると連中は驚きながらこちらに振り向いた。失せろってーの。


「お待たせ、それとおはよ」


「おはよぉ樹くん!待ってたよぉ♪」


 連中を無視して紗奈さんの元に寄ると彼女は嬉しそうに抱きついてくる。その背中に腕を回し背中を撫でる。


「そういう訳なんで、他あたってもらえます?」


 俺たちの様子を見せながらそう言った。本来ならば引くはずだし三人のうち二人は諦めモードだが、声をかけてた男がなぜかそれを嫌がった。


「ざけんな、俺らが最初に遊ぶ約束してたんだからあとから来たヤツが邪魔すんな」


「はぁ?」


 あまりにも身勝手な言い分に呆気にとられてしまう。普通にこっちが先ですが?


「おらさっさと消えろって、正義の味方気取りとかウゼーから。オラ消えろ!」


「ちょっおいやめろって…」


 ソイツは俺の肩を掴んで無理矢理 紗奈さんから引き剥がそうとしている。ツレの方は止めようとしているが聞く耳持たずと言ったところだ。


「どーせテメェら他人なんだろ?よくいんだよなぁ…そういうの分かってっからさ、早くどっかいけ…じゃねぇと殺すぞてめぇ!」


 未だ引く気の無いバカに呆れ、彼女離し背中で庇う。俺はヤツと向き合うようにした。

 ヤツはその額を俺の額にぶつけ思い切りガンをつけてくる。うぜー。


「いやいや普通に付き合ってるから。残念だけどもうほっといてくれ」


「いや付き合ってねぇ!ソイツは俺らと遊ぶんだよ!」


 相変わらず聞く耳の持たないアホな辟易としてしまう。うーん、どうすっか?

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