四十六話 親友たちに秘められた
翌日、学校の昼休みに顔を合わせたのは
私の身勝手な気遣いを謝りたかった。
「酒匂さん、ごめんね。今日も呼び出しちゃって」
「別にいいぜ。それで、今度はなんだよ?」
酒匂さんは気にせずといった様子でそう言った。私は頭を下げ、それを見た彼女はとても驚いている
「……ごめんなさい」
「えっ、ちょ待て待て!なんの事だよ!」
「だって私、最低なことした!酒匂さんの気持ちをちゃんと考えないで…」
酒匂さんの抱えた気持ちを考えずに投げかけた、それは表面上の善意。
きっと強い悲しみがあったであろうその決断を嘲笑うかのように、私は愚かな提案をしてしまった。
樹くんから言われて感じたソレは、まさに罪悪感というものだろう。今更なことだけどね。
「…何言ってんだよ、むしろ考えてくれたと思うぜ」
「ううん。私、あんなことを言って酒匂さんが喜んでくれると思ってた。樹くんのことが好きだから、少しでもその気持ちが報われたらって……酒匂さんがどう思うかも知らないのに」
そもそも気にしていないという ふう の酒匂さんの言葉に首を振る。そう簡単に許されちゃいけないと思うから。
「いいや、もし本当に考えてなかったらアタシがアイツのことを好きだなんて気付いても言わねぇって。樹のことだって独り占めできただろうし、そもそも " あんな事だって " 言わねぇだろ」
そう微笑む彼女は、女の私から見ても凄く魅力的だった。誰かを想う気持ちを押し殺して、それでも優しく在れるのはとても難しいことだと思う。
「だからもう、いいんだよ。
そう言って肩に手を置いた酒匂さんは、ニッ と白く綺麗な歯を見せて笑った。
その笑顔は、きっと彼女の本質なのだろう。
「…ありがとう酒匂さん。……ううん、
「!」
不快じゃないだろうか?
そう思いながら恐る恐る彼女の名を呼ぶと、一瞬驚いた表情を見せた後、
「おう!いいってことよ、
そう笑ってくれる彼女は私に手を差し出してくる。それは握手のものだと、すぐに分かった。
ぎゅっと強く握り返すと、優しくも強い眼差しで応えてくれた。
私は今、友達ができた。
「そーいや、キスはしたからな」
「えっ」
ちょっと大胆で、でも優しくて明るくて…素敵なお友達。
大切な人を一緒に想う、そんな女の子。
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昼休みが終わる頃、紗奈さんと燈璃がいつもより近い距離感で教室に戻ってきた。
俺と目が合った紗奈さんは手を振って、それに気付いた燈璃もこちらを見てサムズアップしていた。
あの様子なら、特に問題も無さそうだ。
俺が言っちゃいけないだろうけど、なんだかんだ燈璃なら許してくれそうだとは思っていた。しかしまさか、より仲良くなるとはな。
やっぱり燈璃というわけか、昔から誰とでも仲良くなれるヤツだったから。
ただ理解の浅くて自信のないヤツらが彼女から離れて悪く言っていただけだ。本来の燈璃はガサツなんかじゃなく、ずっと繊細で天真爛漫だ。
その笑顔と優しさに、救われたこともある。
「なぁにニヤニヤしてんだよ、樹」
「いや…まぁちょっと」
俺が昔を思い出し 口角が上がったところを見てそうからかってくる
そういやコイツからは好きな人とか恋人とか、そういうの聞かないな。
「へー……まぁいいけど、今日ちょっと良いか?話してーことあってよ」
「おぉ、別にいいけど」
「サンキュ」
別に用事は無いので構わないし、なんなら多少の事があっても壱斗との約束ならできるだけ優先したいくらいだ。しかし、わざわざなんだろうか?
まぁその時になれば分かるか と、そう思い考えるのをやめた。
そして学校が終わって家に帰り、今は壱斗の家に向かってる。
すると向こうからも壱斗が歩いてきた。
「よーっす」
「おす」
お互いに軽い挨拶を済ませてテキトーにブラブラと散歩する。スタスタとスニーカーが地面を擦れる音だけが空気を揺らす。
しばらくして、壱斗が口を開いた。
「燈璃となんかあったか?」
「え?」
唐突に告げられたそれに思わず聞き返す。
内容が内容だけに軽々しく話せるものじゃない。いくら壱斗が燈璃の幼馴染だとしても。
「あぁいや…なんつーか、わりぃ。アイツがお前のことを好きなのは知ってるし、昨日のこともアイツから聞いたよ」
「っ…それは……」
今まで隠していたこともあり、騙していたような気持ちになって申し訳なくなる。
壱斗にどう顔向けをすればいいのか、分からない。
「なに、別に責めようってんじゃない。俺だって隠してたこともあるからな」
「そう、なのか?」
眉尻を下げてそう言った壱斗からは、何か暗い雰囲気を感じる。まるで怒られる手前の子供のような、そんな感じ。
「あぁ…それに、アイツがお前のことを好きなのを知ってて俺は紹介したんだよ。だから今更だ」
「そうだったのか……ってそんなに前からかよ!」
それはつまり、小学生の頃からそうであったということだ。何年越しの恋なのか、その間ずっと自分な気持ちを押し殺していたのなら、中学の時に彼女に冷たくしてしまったことに物凄い罪悪感が心を覆う。締め付けるように胸が苦しい。
「そうだぜ?だから俺としては、ちょっとくらい受け入れてやってもいいのにって思ったが、お前にゃ七瀬がいるもんなー」
「それもそうだけど、燈璃には…」
笑いながら言った壱斗に返そうとし、俺は押し黙る。その先は言ってはいけないと思った。
しかし壱斗から放たれた言葉に、俺は言葉を失う。
「あぁそのことな……
立ち止まって空を仰ぎながらそう言った壱斗は、とても悲しそうに見えた。
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