二十三話 思慮の甘い麻緒
ウチを拒絶し立ち去っていく
ここまでハッキリとした拒絶を受けると怯んでしまって動けなくなるんだ…。ウチはあの時、樹にこんな気持ちにさせてしまったのか…いや、きっとそれ以上だろう。
それにさっき、よく見たら樹の首筋にいくつか赤い…腫れたようなところがあった。
それに加えてまるで風呂に入ったかのようないい匂いがした…もしかして…
多分、そういう事だと思う。
ウチがあの時道を誤らなければきっとできたコト…たぶん、いや間違いなく相手は
樹が誰彼構わず '' そういうこと '' をするとは思えない。
ショックが無いのかと言われれば嘘になる…けどウチにそんな権利はない。
それは分かってる。
あの時手を振り払われた時、胸が締め付けられるように苦しくなった。
今のウチでそれなんだ、あの時樹が受けた傷はもっと深かったはずだ。
何も言い返せないようなことをしたのは間違いなくウチだ。
だって樹はあの時、何度も一緒に帰ろうと声をかけてくれたんだ、それを
七瀬さんの言う通りウチがもっと樹との関係を周りにアピールして、他の連中の誘いも断るべきだった。
最優先にするべき人を最後にしたんだ、いくら後悔しても遅すぎる。
思い返せば思い返すほど、何度も繰り返した後悔とともに自分が犯したミスが頭を
言い訳も弁明も、何一つできやしないのに、どうしても許しを乞うような真似をしてしまう。
いじめられていた彼を我が身可愛さで見捨てたくせに…
まさかこの時間に樹と会うなんて…期待してはいなかった、ただ家にいても落ち着かずに外に出てみたら樹と出会ったんだ。
だから声を掛けた…まぁ取り付く島もなかったけど。当然か。
トボトボと俯いたまま適当に歩く。
でももう遅い時間だ、そろそろ帰らないと…
「あれ、麻緒?」
そう言われて振り向く、そこにいた声の主は…
「麻緒じゃん、久しぶりー!」
「おっホントじゃん」
声の主はあの時樹を一方的に暴行した男だった。その隣にはあの時と同じツレもいる。
「え、こんな時間になにやってんの?」
「いや、別に…」
ヘラヘラと声をかけてくるけど、あの時のように返事ができない。まさか彼らもここにいるなんて…。
「へぇ…?まぁいいや、今暇?」
「確かに!せっかくならどっか行こうぜ」
そう言って彼らがウチを挟み、肩に腕を回す。
もう一人はベタベタと腕に触れてくる…あまり気分が良くない。あの時は気にならなかったのに…
「でも…」
「いいからいいから」
なんとか拒否しようとするも、彼らはウチのことを気にせずどこかに連れていこうと背中を押してくる。
もう、いいかな…
ここで彼らの誘いに乗っても別に樹は気にしないだろうし、怒られることもない。
彼らが何を望んでいるのかは大体予想つくけど、それさえどうでも良かった。
好きにしたらいい…、そう思いウチは彼らに身を委ねた。
肯定はしていないが拒否もしていないウチに彼らを気を良くして、その手を欲に導かれるままウチに近付けた。
不愉快…なのかな、どうでもいいか。
彼らはウチのあちこちに手を当てて好きなように
何が楽しいんだろう、こんなこと。
そんなことをしながらしばらく歩いていると、向こうから二人の男女がこちらに来る。
先程から何人もの人がすれ違っていることから彼らも同じだと思っていた。
「は?
「げっ…マジかよ」
その二人を見た男子たちは表情を悪くし、嫌そうな声を上げた。
女性の方は分からないが、男性の方は知ってる。
樹の友人である…
彼はウチを見るなり表情を厳しいものへと変える。
「ごめん
「うん、いいけど…大丈夫?」
いつもより険しい雰囲気を纏う彼に、隣の女性が心配そうに声をかける。
しかし栄渡くんはそれを手で制しこちらを睨む。
「…
「っ…」
彼の言わんとしていることは分かってる、樹に
同じことを繰り返すウチに怒っていることもよく分かる。
「本当に学習しねぇんだな、また繰り返すのかお前は」
その剣呑な雰囲気に横の二人は血相を変えて逃げ出した。ウチを彼に差し出しすように。
「帰ってきたかと来たと思えば、樹に付き纏ってるらしいじゃねぇか。中学のときのことを許してもらおうってつもりだろうが、それなのにこんなところで夜遊びしてんじゃ、やっぱり大してアイツ のこと好きってわけじゃねぇんだな」
「それは、違くて…」
「じゃあなんだ、結局お前はどうしたい?樹に付き纏って何がしたいんだ?わざわざ他の男共と仲良くしてんのをアイツに見せたいのかよ」
「っ…それは」
そういえば、ウチは彼にどうして欲しいんだろう
許して欲しい?それとも怒って欲しい?
…違う、もう一度樹と付き合いたいんだ…自分で壊した関係をまた望んでいる。
そうで無くてもせめて友達になれたら、許してくれたらと、そんな身勝手を望んでいる。
それなのにどこまでも覚悟の決まりきらないウチは、あんな簡単に好きでも無い男たちに身体を許そうとしたのか。自暴自棄になっていたのかもしれない。
「アイツが好きなのかどうかは知らんが、あんなヤツらとまたベタベタしてるようじゃそこまで腹括れてないんだな。いい加減自分を見つめ治さないと何も変わらないぞ」
「…そう、だね」
彼の言う通りだ、これでは樹との関係は良くならない。
それどころかウチはまた同じ間違いを…。
「…ったく、おまたせ花澄さん。行こうか」
「うん」
彼は隣にいる女性と手を繋ぎそのまま立ち去って行った。
女性の方はウチに会釈をしていたけど、それに反応できる余裕もなく、ただ俯くことしかできなかった。
そう、だよね…こんなことだからきっと、樹は話を耳を貸してくれないんだ。
ウチが煮え切らないから…。
もう少し自分の在り方を考えるためにウチは家へと急いだ。もっとじっくり考えるために
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