二十四話 後を引く過去

 翌日、学校に来た俺は晴政はるまさから昨日のことを聞いた。

 相変わらず麻緒まおは何も変わってないんだな、結局のところ俺にどうして欲しいんだろう?


 そんな謎も解決することはなく今日も授業が終わり、紗奈さなさんと二人で図書室に向かう。

 しばらく二人で読書を楽しんだ俺たちのいる図書室に観月みづきがやってきた。

 まぁ彼女も本好きなのでおかしい話ではない、なので気にすることもない…のだが何故か俺たちを視認するなり声をかけてきた。

 図書室では静かにしよう?


「二人して、何を読んでいるんですか?」


 本来ならば他愛のない内容のはずだが、彼女との因縁を考えるとそうは思えない。

 とはいえ意識しすぎるのも良くないものだ。


「別に、最近読み始め異世界ものだけど…」


 ちなみにこれは紗奈さんのオススメで、これは彼女の本であるが今は貸してもらっている。

 紗奈さんが読んでいるのは俺が勧めたミステリー小説だ、図書室に置いてあったやつ。


「私はコレ」


「あっ…」


 彼女が自分の読んでいる本を観月に見えるように掲げると、それを見た観月が驚いた表情をする。

 その本はいつだったか彼女が勧めてくれた物だ、面白かったので紹介させてもらった。


「コレ面白いよね、あまりにも面白いから勧めちゃったよ」


「そう、ですね……あの、私もご一緒して良いですか?」


 図書室は皆のものだから勝手にすればいい、と思ったのだが一緒はちょっとなぁ……。


「別にいいんじゃない?お好きにどうぞ」


 そんなことを考えつつも変に意識しないようにして俺はそう言った。

 絡んできて嫌なら拒否すれば良いだけだからね。


「……たつきくんは私のだから」


 ホッとしながら観月が席に着いたのだが、何故か彼女は俺の隣に座りやがったので紗奈さんがそう言った。敵意の滲ませた視線を向けている。


「わっ、分かっていますっ」


 それに対抗するように観月は少しだけ勢いを付けてそう言った。

 とはいえ本好きが三人も集まればそこまで剣呑な雰囲気は続かなかった。


 帰る頃には俺たちの間には明るい雰囲気があり、和気藹々わきあいあいとまではいかないものの苦しいものではなかった。

 そんな時に観月の携帯に誰かからメッセージが来たようで彼女はスマホを見て少し急いだような表情をした。


「すいません、ちょっと友達から呼ばれたので……それじゃあまた」


「うん、観月さんも気を付けてね」


「じゃあな、観月さん」


 手を振って駆けだした彼女に俺達も手を振り返す。すでに紗奈さんは前ほどに彼女に敵意はなかった。


「良かったの?」


 紗奈さんがそう問いかけてくる。多分 観月と関わったことについてだろう。


「別に良いでしょ、何かされるって訳でもないしただ喋るだけなら問題ないよ。気にするだけ時間の無駄だしな」


「それもそっか」


 前みたいにクソ先輩でも連れてくるなら問題だが、ただの知り合いとして関わるだけならばそこまで問題じゃない。

 彼女は納得したように頷いてもうその話題を出すことはなかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 樹くんと久しぶりにちゃんと話す事が出来たものの、その最中に別のクラスの友達から '' 相談 '' があると連絡が来た。

 彼女はこの辺りにいると聞いたけど……


かなでちゃん、ごめんね急に呼んじゃって」


 私が目的の人物を探していると、彼女から声がかかった。

 そちらの方に向くといつもより顔色の悪くなった友人がいた。


「大丈夫だよ。それで、どうしたの?」


「うん、ちょっとね……」


 彼女が滔々とうとうと語ったソレは友人の私でも擁護できる内容ではなかった。

 とはいえ、本人がどうしたいのかが問題だ

 目的がなければどうしたってしょうがない。


「ウチとしては……また仲良くしたいかな。だって好きなんだもん、せめて友達にはなりたい」


「そっか……」


 思い詰めた表情をしながらそう言ったが、私にできることはそうそう無い。

 できるとすれば相談に乗ったり愚痴を聞いたり……それくらいのものだ。


「正直に話すしか無いんじゃないかな?自分の気持ちを」


「そう、だね……もう少し話す内容を考えないと」


 彼女はそう言って座っていたベンチから立ち上がった。そこはかとなくその表情の曇りは腫れたような気がした。


「ごめんねっ、こんな暗い話しちゃって」


「いいよ、そんなこと気にする仲じゃないでしょ?」


 変に気にしている彼女にそう声を掛ける。

 友達なら相談くらい乗るものでしょ?


 彼女とは中学の頃に転校してきた女の子だ。

 周囲とは少しだけ距離を置いたようにしていた子で、あまり人とは関わりたがっていなかった。

 なんとなく彼女から似たようなモノを感じて私から話しかけたのが始まり。

 親の事情で私とは別の高校に進学したためもう会えないかと思ったけど、今では同じ高校らしい、また今度一緒に帰りたいな。


 そんなことを思いながらそろそろ家に帰ろうかと二人で歩き出すと、二人組の男の子が声をかけてきた。

 見た目的に同年代……かな?制服が違うため少なくとも同じ学校ではない。


「おーっ、麻緒まおじゃん」


「ってかカワイイ子いんじゃん、最高」


 ヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべながら私たちに近付いてくる……っていうかどうして麻緒ちゃんのことを?


「ごめん、ウチはもうキミ達とは……」


「そーゆーなって」


 話しかけてきた人の片方が彼女の肩に手を回して纏わりつく。

 嫌そうにしているのに気にしない素振り、下卑た視線から彼らの用事はすぐに予想がついた。


 嫌な予感がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る