二十二話 楽しい気分に水差すな
「じゃあ気を付けてね」
「うん、ありがとう」
あれからしばらく体を休めていた俺たちだが、さすがにあまり遅くなると
彼女はせっかくなら紹介したいと言ってくれたが、あまり遅くなると母さんに怒られるということでまた後日、親御さんと顔合わせしようと話をした。
「おやすみ
彼女はそう言ってキスをしてきた。
首の後ろに手を回して密着しながら、もう少しだけ余韻を味わうように、互いを求めあう。
「んっ……じゃあね、おやすみ」
「おやすみ紗奈さん」
顔を離し切なそうにそう言った彼女の瞳は、少しだけ潤んでいるように見えた。
昨日は紗奈さんが
それなのにどうして…。
「なんでわざわざこっちに来るわけ?」
「…ごめん」
謝るのなら来るなと言うのに…どうして紗奈さんと別れた後に家の近くでわざわざ会いに来るというのか。せっかくいい気分だったのに…。
それに今はそこそこ遅い時間だ、とっくに日も落ちていて道も暗い。
家が近いのか徘徊してるのは知らんがこんな時間に迷惑だ、早く帰らせて欲しい。
「あの時、どうして俺があんな事になったのかはなんとなく分かったけどさ、だからって納得した訳じゃないんだけど?」
「そう…だね…」
なんとも煮え切らない返事だが、内心分かってはいるのだろう。
それなら尚更近づくべきではないの思うのだが?返事を曖昧にすればいいという訳ではない。
「俺の誘いは断ってあんなヤツらと仲良くしてたくらいなんだし、別に俺の事なんて好きでもなかったんじゃないの?」
「違う!ちがうよ…」
そんなこと言われたって、今更すぎるし説得力もない。行動も伴ってなかったし。
それに…
「あの時俺がお前に触れた時嫌がっただろ」
「それは…っ」
アレが何より俺の心を抉った。
俺の恋人が、俺との時間を断って他の異性と楽しそうにしていた上に、俺に触れられるのを拒絶したらそりゃあ辛いだろ。
しかもこっちは散々嫌な目にあっていた所にそれだ。自分がどれだけ最低なことをしたのか分かってるのか?
「否定しねぇよな?俺が一緒に帰ろうって言った時、お前は何度も断った。しかもお前はクラスの男たちと '' 色々 '' してたんだろ?気持ち悪いヤツだな。クソビッチが」
「やめてよ、何もしてないって…ただ喋ってただけで…」
「そんなわけねぇだろ、あんなにベタベタしておいて」
正直俺より触れ合ってたように見えた、しかも教室でだ。見せつけようとしてたようにしか思えないけど?
俺があの時、どれだけ麻緒に近付こうと思っても男どもと一緒にあっちコッチに行っていたせいでロクに喋れなかった。携帯すら持ってないあの時ではその時間の確保さえ難しかったからな。
それでも俺は信じていたんだ、他ならぬ麻緒が俺の事を好きだと言ってくれたから。
でも麻緒はアイツらと一緒にいることを選んで俺を捨てた。いっそストレートに振られた方が良かったくらいだ、あまりにも憎たらしい。
「違うんだよ、あれはただのスキンシップで…」
「それで通用すると思うな、俺とはその '' スキンシップ '' さえしたがらなかったクセに」
言い訳にもならない妄言を繰り返す麻緒にイライラしてくる。精神衛生上よろしくない。
言葉と態度が合っていないことは理解しているのだろうか?ないだろうな、クズだから。
「テメェは自分が何したのか分かってんのかよ、傍から見ればれっきとした浮気だぞ?俺とは触れることさえ嫌がったのに他のヤツらとはヤりまくってたクセしてよ」
「何もしてない、してないよ!」
「黙れ」
正直会話がしたくないので消えて欲しいのだが?
テメェのくだらない独り善がりに付き合わせやがって鬱陶しいんだよ。
俺の言葉に悲痛な声を上げているが、俺の言葉に一切耳を傾けないやつのモノなんぞ気にしたくはない。つかこっちの方が辛かったっての。
「何もかも人のせいにしてっけど、こっちゃテメェのやった事でショックを受けたんだっての。それなのに何が周りの暴走だよ、お前も立派な加害者だろうが」
そもそもの話、後半の本格的ないじめに関しては麻緒が大義名分を作った事で起きたことというのを忘れていないだろうか?
ヤツらはただそれらしい理由ができたからやったまで、そうならないように麻緒が出来ることもあったはずだ。
俺だってずっと彼女を信じ続けていたし、彼女との時間を作ろうとしたんだ。麻緒からも行動を起こしてくれればもっと良い結果になったはずなのに…。
「あの時逃げて引っ越してったくせして、今更戻ってきやがって」
「引っ越したのは、家の事情で…」
「知ったことか」
そんなものはどうでも良いんだよ、あれだけの置き土産をしてったヤツがなんと言おうと意味は無いし不愉快なだけだ。…謝罪さえもな。
「少しだけ…話を聞いて欲しいんだ…」
「俺のことは見捨てたクセに?」
「っ…」
そんな独り善がりじゃあ通用しないだろう。
一方通行の関係など破綻するのは火を見るより明らかだ。もういい加減にして欲しい。
極めて不愉快な気持ちから離れるべく麻緒を無視して歩き出した。
「あっ、待って!」
「触るな!」
歩き出した俺を止めるために麻緒が肩を掴んでくるが、気持ち悪いので思い切り振り払う。
あの時とは逆の立場だな。
「っ…たつ、き…」
「話にならないんだよ、もっとまともに喋れるようになってから来い」
俺がただ文句を言って、麻緒がモジモジとしながらチョロチョロと喋るだけじゃ意味ないんだよ。
ただただ無駄な時間だ、俺は紗奈さんとの楽しかった時間の余韻に浸りたかったというに…。
俺は固まる麻緒を無視して足早に家へと歩き出した。
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