二十話 叶わない想い
「そういや、あれで良かったのかよ?」
「良かったって、何が?」
下校中、アタシの隣を歩きながらそう問いかけてくる
" 何が '' どう '' 良かった '' というのか?それが分からない。
「
そう言った壱斗はいつもより真面目な雰囲気を出していた。まるで何かを気遣うような雰囲気だ。
「…だったらなんだよ」
どうせ報われない想いなら、始めから諦めていた方がよっぽど良い。
ただ辛いだけの想いなど出来るだけ遠ざけているべきだ。
「ってゆーか、お前が言える立場じゃないだろ」
「それはお互い様だろ」
アタシの言葉に壱斗はそう返した。
コイツとは幼馴染だけど、それ以上にアタシらを繋ぐ関係がある。
樹を諦めたのはソレがあるからだ。
「…お互い自由な恋愛なんてできないんだからな」
「………まーな」
自嘲気味に告げた壱斗の言葉に頷く。
確かに、悪いのはコイツではなく親の取り決めだ。相手さえ選ばせてくれないのは嫌なものだ。
別に壱斗が嫌ってんじゃないけど。
壱斗は親によって決められた許嫁だ、お互いに家庭のしがらみで恋愛ができない。
コイツの家は分からないが ウチの親は厳しい。
会社の社長なだけあって責任感もあるのだろうが、まだ子供であるアタシにソレは重すぎた。
兄だってそれが嫌で親子喧嘩をした挙句 家出までしたくらいだったからな。
今ではすっかり仲直りして家業を頑張っているみたいだけど。
そういえば兄は
二人して不良だ、まったく真面目に生きて欲しい。
話が逸れたが、壱斗の両親はアタシの両親と長らく関係がありアイツの親も会社を経営している。
かねてから友人だった彼らがいつからか協力し合うようになっていて、アタシらの婚約はその延長線にあった。
" いつまでも仲良くしていよう ''
親として、企業としてのそんなエゴを 私たちを使うことで満たそうとしている。
でもそれに逆らう術も気力もなくただ流されるままに壱斗との婚約が決まった。
「"あんなもん''は親が勝手に決めたもんだ、別に俺たちの心までそれに合わせることはないだろ」
「壱斗の言ってることも分かるけどよ」
そんな簡単にいくならとっくのとうに樹を家なりホテルなりに連れ込んで押し倒しているところだ。思うままに汚すことは間違いない。
でもそれは叶わない願いだ、アタシは樹とそういう関係になることはない。なってはいけない。
アイツとは生涯寄り添うことが出来ない…つまり結婚できない以上、そういう関係になってはならないんだ。
だから紗奈には樹の隣にいてほしい…
「結婚もできねぇのに付き合うってのは樹に悪いだろ」
「…別にやりたいことヤる為だけに付き合ったっていいんじゃねぇの?どうせ結果は一緒なんだしよ」
どこかヤケクソ気味に壱斗が放った言葉は諦めに満ちていた。
諦めたからこそ好きなように生きる、みたいなことが言いたいのだろう。
…自分だってアタシと同じ考えのクセに。
壱斗は良い奴だ、ツラだって整ってるし運動もできる。頭も良いしユーモアもあって…その辺の連中よりかなりレベルの高い男だろう。
少なくともコイツに想いを寄せてる女は少なくない。なんなら話題に上がることもしばしばだ
告白されたことがあるのも知っている。
それでもその選択をしなかったのはコイツなりに自分の立ち振る舞いを考えてるからだ。
相手に余計な心の傷を付けないように…な。
「樹にそんな不真面目なことできるか」
「だろーな」
アタシの言葉に壱斗が頷いた。
アタシ、
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