十九話 紗奈と燈璃と

「甘ったるいなお前ら」


 学校に着いたというのにいつまでもイチャイチャしている俺たちを見て、壱斗いちとがうんざりといった様子でそう言った。


「ごめんよ、俺たちはもう…」


「シリアスっぽいセリフで誤魔化してんじゃねぇよバカ」


 適当におどけて誤魔化そうとしたところシンプルに怒られた。バカだってさクソワロ。


「ごめんね?今はどうしてもたつきくんと一緒にいたいからさ」


「まぁ、別に良いけどよ」


 さすがに紗奈さなさんにこう言われてしまえば壱斗もとやかく言えんだろう。

 彼はそのままそっぽを向いてしまった。


「おぃーっすおはよー」


 燈璃あかりがそこら辺のヤツらに挨拶しながらこちらにやってくる。

 ちなみに彼女の席は 俺の斜め後方である。

 そのまま荷物を置いてこちらに来た燈璃はニンマリと笑顔を浮かべる。


「おぅおぅ♪楽しそうじゃねぇーのー混ぜてくれよー♪」


「何言ってんだか」


 彼女の楽しそうな声に俺もそう言いつつ笑ってしまう。いいキャラしてるわ。


「だーめ♪樹くんは私のだからね、燈璃ちゃんにだってあげないよ♪」


「なんだとー♪」


 二人して楽しそうに話している所を見ると、やっぱり嬉しくなる。

 燈璃は小学校の時からの友人だし紗奈さんは恋人だ、どちらも大切な人。



 燈璃と仲良くなったのは小学校四年の頃だ。

 口調に関してもそうだがどこか女の子らしさより男っぽい雰囲気がある彼女。


 話しかけたのはもちろん俺…ではなく燈璃からだった。

 そのとき友人たちの間で流行っていたゲームをやっていた俺に一緒にやろうと声を掛けてきた。

 どうやら彼女もやっているそうなのだが…なぜか俺とやりたかったらしい。

 ちなみに壱斗と燈璃は幼馴染らしく、俺の事を教えたのは壱斗らしい。


 最初は学校終わりに壱斗も交えてゲームをやって遊んでいたのだが、時を重ねる毎にソレ以外でも遊ぶことが増えた。


 それが燈璃と俺の馴れ初めだ、なんてことのない友人を間に挟んだだけのもの。

 今となっては掛け替えのない大切な友人だ、親友と言ってもいいだろう。


 俺がいじめられていたときも、どうしても異性が信じられなかった俺に寄り添ってくれた女性でもある。


 そう考えると燈璃ってめちゃくちゃ素敵な女の子だよな、どうか幸せになって欲しいものだ。



「どーしたよ樹ぃ、ニヤニヤして」


 思い出に耽っていると当の本人である燈璃がそう言ってきた、自分が幸せになって欲しいと思われているだなんて夢にも思うまい。


「なんでもねーよ」


「ほんとかァ?」


 恥ずかしくなった俺の誤魔化しを疑う彼女だがそこまで追及することはなかった。

 ふと紗奈さんを見ると彼女はニコニコとしていた、どした?


「ふふっやっぱり仲良しさんだよね、二人とも」


「そりゃーだって樹だぜ?当然だろうよ」


 燈璃がよく分からない理由で胸を張っているが、そう言われるのはなんか嬉しい。俺もチョロいな。


「まぁ燈璃は樹のこと大好きだからな、あン時樹のこと聞いてきたくらいだし」


「ちょっやめろよ!恥ずかしいだろ!」


 壱斗の暴露に燈璃が顔を真っ赤にしてそう言った、バラしてやんなよ可哀想だろ。


「えっもしかして燈璃ちゃん…」


「紗奈も変な事ゆーな!」


 だいぶパニックになっているのか まだ紗奈さんは何も言っていないというのに燈璃がそう言ってしまった、そのせいで変な自爆の仕方をしている。


「まだ別に何も言ってないけど…」


「あっ…」


 しばしながれる沈黙だがなんとも言えない雰囲気である。困ったものだ。


「お前らは何も聞いてない、いいな」


「「「はい」」」


 珍しく真面目な彼女の言葉に俺たちは頷くことしかできなかった。

 まぁ良いものを見れたのでよしとしよう。


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