七話 樹の友人

「ったく、しょうもないことしてんなよな…大丈夫かたつき?」


 俺を助けてくれた彼はやれやれといった様子でそう言って傍に来た。


「大丈夫だよ、別に手を出された訳じゃないからね」


「それもそうか」


「でも悪いな、彼女との時間を邪魔しちゃって」


「気にすんな、友達を見捨てたらそれこそ怒られる」


 彼はそう言って後ろにいる彼女を見やる。

 その人は先日彼の恋人となった女の子だ。


「そうだね、晴政はるまさは優しいから…というか甘い?」


「違いない」


「お前らな」


 そう、彼は優しいが時たまそれを通り越して甘い。それが魅力なんだけどね。

 二人で笑っていると彼はジトっとした目で睨んでくるが、全然迫力がない。


「はぁ…まぁなんかあったら言えよ、力になるからな」


「ありがとう」


 そう言って晴政は手を振り彼女と帰って行った。

 彼は中学時代からの友人で、今は別クラスだが去年は同じクラスだった。

 そういえばこの間傷だらけだったし姿を表さないこともあったけどもう大丈夫なのかな?変な噂とかもあったし心配だったけど今は特に問題なさそうだ。


 それはそうと、紗奈さんはまだかな?



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私は先程、樹くんの友達に呼び出された。とても元気な人だ。


「悪いね、急に呼び出しちまって」


「大丈夫だよ」


 ここは教室から離れた階段の踊り場、玄関とは別方向なのであまり人は来ない。内緒話にもってこいの場所。


「まぁ来てもらったのは樹の事なんだけどさ」


「うん」


「率直に聞くぜ?樹に惚れたきっかけは?」


 あまりにもストレート過ぎて面食らってしまうけど、別に隠すことじゃない。

 私が彼を好きになった理由は、もちろん痴漢から助けて貰ったのもそうだけど、その時は再会だった。まぁ彼は私のことを覚えていなかったけど。


 ずっと昔の小学生のころ、彼は私に声をかけてくれた。

 あの時は今よりずっと人見知りが凄くて、周りと馴染めないまま一人ぼっちだった私に声をかけてくれ、それからも一緒にいてくれたんだ。

 そのお陰もあって私は徐々に人と関わることが出来るようになり、今では何人も友達がいる。


 でも私は家庭の事情で引っ越してしまったため彼とは会えなくなり、私にとって良い思い出になるはずだった。忘れられない恋ではあったけど。

 高校入試の前に、この高校に通える場所に偶然引っ越す事になった。

 この高校とあの時の小学校は割と近く、もしかしたらという淡い期待でこの学校を選んだ。

 もちろん進学も考えての選択だ、ここは少々レベルが高いと言われていたからね。

 学校が違ったとしても、どこかで会えたらいいな…そんな気持ちがあった。


 そうして合格発表を迎え、その帰りに樹くんに助けられた。

 なんでか分からないけど、あの時はすぐに彼だと気付いた。彼はさっさと行ってしまったけどね。

 本当はもっと喋りたかったのだけれど、やっぱり私の本質は変わっていなくて、怖がっていた私は彼に話しかけられなかった。

 もしかしたら覚えていないかも…とか、いつまでも彼に執着するのは重いかな?とか。

 もっというと、もしがっついて嫌われてしまったらって思うと足が竦んで動けなかった。


 でも、彼が観月さんに振られたとき、不謹慎にもチャンスだと思った。

 あれほど素敵な人を手放す観月さんはなんて愚かなんだろう…そう思いながら私は勇気を振り絞り彼に声をかけたんだ。


「なぁるほど、それで今は樹にアプローチをしてると」


「うん」


 樹くんの友人に一連のことを話すとどうやら納得してくれたようで、ふむふむと頷いていた。


「…実は、アイツそんなに女の子と関われるようなヤツじゃねぇんだ。中学の時に色々とあってな」


「えっ?」


 突然告げられた事に思わず聞き返す。

 何があったんだろう…?


「悪ぃ、それはアイツから聞いて欲しい…けど、こっちで出来ることなら協力するよ。……しかし、アイツもまさか七瀬に惚れられるなんてなぁ…嬉しいかぎりだぜ、おっぱいでけぇし」


「うぇ!?」


「それに可愛いしよぉ、あいつも幸せもんだな」


「そっそうかなぁ…」


 ニッと綺麗な歯を見せながらそう言った。

 そう言われるとちょっと照れてしまう、そういえば樹くんは大きい方が好きなのかなぁ…?


「まっ応援してるしなんかあったら相談乗るぜ…っと壱斗いちとから呼ばれちまった、そろそろ行かねぇと。じゃあ七瀬、そろそろ行くわ」


「うん、ありがとね」


「良いってことよ、そんじゃーな!」


 "彼女''はそう言って手を振って走っていった。

 あの子も美人さんだけれど、樹くんとはそういう関係にならなかったのかな?


 話も終わったことなので、樹くんと一緒に帰るために彼の元へ急いだ。

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