八話 今更の気付き

「ごめんね、お待たせたつきくん」


「大丈夫だよ」


 話を終えたであろう紗奈さなさんがやってきたので家に帰る。

 校門から出ると会いたくない二人とまた再開してしまった。


「あ?おいおいまたお前かよ、なんでまだいんだよ」


「別に、今から帰るとこなんでほっといて下さい」


 槍坂やりさかは俺が目に入ったことでヘラヘラしながらこっちにきた。

 先輩だかなんだか知らんがいちいち絡んでくるのはやめて欲しい。


「あぁ?ンだよテメェその態度はよ」


 俺の返しを受けて不服そうに距離を詰めてくるが、まさかコイツは自分が真っ当な対応をされる人間だと思ってるのか。


かなでの前だからってイキってんの?ダセェ陰キャがよ」


「せっ先輩…」


 男は俺に詰め寄ってごちゃごちゃ言ってくるのを、観月みづきさんが止めようとするが聞く耳をまるで持たない。


「しかも随分可愛い子連れてんじゃん…君さ、良かったら俺と帰ろうぜ」


 コイツが俺のそばに居た紗奈さんにニヤニヤとしながら声をかける。

 こいつ本気か?仮にも彼女の前でそんなことする?


「は?嫌ですよあなたみたいな人。皆が皆 観月さんみたいなチョロい子ばかりだと思わないでください」


 しかし紗奈さんはキッパリと突き放す。

 眉間に皺を寄せ鋭い目つきをしたその表情は不快感をあらわにしており、明確な拒否であることを分からせる。


「あぁ?まさか俺よりこんなカスがいいっての?いやいやありえないっしょ」


 ヘラヘラとしているが、先程と違い明らかに目が笑っていない。


「先輩、もうやめてください」


「は?奏までコイツの肩を持つのかよ」


「樹くんは私の友達なんです…だから、もうやめてください」


 正直かなり驚いた、どうしてか観月さんが槍坂を諌めている。俺のこと友達だと思ってたんだな。


「はっ、意味分かんねぇって」


 それを聞いたコイツはそれを鼻で笑った。ホントに聞く耳を持たないな。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「珍しいな、のぞみが忘れ物するなんて」


「うぅーほんとごめん」


 希と一緒に帰宅するその道中、彼女が忘れ物に気が付き今は学校に向かっているところ…だが。


「ねぇ晴政はるまさ…あれ」


「っ…樹」


 学校が近くなりもうすぐ校門だという時に見えたのは、一学年上の先輩が俺の友人である樹に絡んでいるところだった。

 それを見た俺は荷物を放って駆け出した。


「どう考えてもコイツは勘違いしたクソ陰キャだろ、こんなヤツが何だってんだよ」


「こんなヤツだぁ?」


 突然の闖入ちんにゅうしゃに皆が振り向いた。まぁ俺の事だが。


「俺のダチに随分な物言いだなぁ、おい」


 ホントのことを言うと俺がいなくても樹ならどうとでも出来るだろうが、やはり自分の友人が絡まれているのは不愉快だ。


「テメェ…」


「どいつもこいつも樹に随分と絡むじゃねぇか、せっかくなら俺に来いよ、相手になるから」


「テメェ確か…栄渡えどっつったか?」


 男が俺を睨んでそう言った。

 実際の所 俺の姓は母さんの方になったので正しくは黒田だが、今はそんなことどうでもいい。


「おぉ、だったらなんだよかかってこい」


 俺がそう言ってもコイツは冷や汗を流して後退るだけで全く絡んでこない。小心者が。


「クソ…めんどくせぇな、行くぞ奏」


「えっ…あっはい」


 ヤツは観月という女を連れてそのまま帰ってしまった。


「はぁ…一日に何度も絡まれるなんて災難だったな、樹」


「本当だね」


 彼は疲れたような顔をしながらそう答えた。


「樹くん、大丈夫?」


 樹の隣にいた七瀬が彼を心配したような表情でそう問いかける。

 どうやら彼のことをちゃんと見てくれる人らしい。

 友人としては安心だ、樹は異性絡みで色々苦労していたからな。


「うん、晴政のお陰でね…ありがとう晴政」


「気にすんな」


 こう言うとあれだが、希が忘れ物をしていて助かった。

 ここでアイツが癇癪を起こし続けていたらもっと面倒になっていただろうからな。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 学校から離れ、先輩はズンズンと肩をいからせて歩いている。


「ったくイライラするぜ…」


 先程のことがよほど腹に据えかねているようで、だいぶイライラしている。


 最初の時と比べて今の先輩は…悪いけど全く魅力が無い。

 気に入らない相手だからと節操なく喧嘩を売って、自分より強そうな相手が来れば逃げる。

 そもそも気に入らない相手など気にしなければ良いのに、どうしてか絡みたがる。

 どうやらそれがカッコイイと思っているようだけど、それなら樹くんの方がよほど素敵だ。


「先輩…別れましょう」


「はぁ!?なんでだよ!」


 私にそんなことを言われると思わなかったのか、彼が声を荒らげてそう聞いてきた。


「ああやって人に悪口を言う人は好きじゃありません」


 それに加えて、彼が私を見る目は…気持ちが悪い。どうしてもっと早く気が付かなかったのか、自分の見る目の無さに情けなくなる。


「別にあんなヤツどうだっていいだろ!俺の方がもっとスゲェんだからよ!」


「そういうのが子供みたいって言ってるんです、他人をこき下ろしても自分の価値が上がる訳ではありませんよ」


「うっ…」


「それじゃあ、さようなら」


 呆然としている彼に背を向けて私はさっさと離れる。

 ちゃんと樹くんのことを見ていなかったことでこうなってしまった、情けない話だ。


 そんなことに、今更気付くなんて…

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