二話 彼女の告白

 呆然とする俺を気にせず、彼らは続ける。

 侮蔑した態度を隠すこともなく。


かなでもこんなヤツほっとけよ、陰キャがうつるからな」


「わかり、ました…」


 観月さんが俺と距離を置こうとしたのは、この男との時間を俺に邪魔されたくなかったということだろう。

 先輩という男は俺にしっしっと手を振ってヘラヘラとしている。それならさっさといけばいいのに。


「…黙って聞いてりゃ、バカみてぇなことやってんな」


 後ろから聞こえて来た声に俺を含めた三人がそちらを向く。

 そこにいたのは、別のクラスの天美あまみ だ。先程の声は彼のものらしい。

 その両隣にはその恋人である長名おさなさんと彼女の妹がいて、その後ろにも天美の友人が二人ほどいる。


「こんな人の往来でバカ晒してんじゃねぇって言ってんだよバカ二人が」


 彼は苛立ったように吐き捨てた。その眉根も皺ができていた。


「天美…ッチ、クソ行くぞ奏」


「あっ、はい!」


 先輩は天美を見るなり苦虫を噛み潰したような顔をしてそそくさと観月さんを連れて行ってしまった。


「大丈夫か御堂おんどう?なんか面倒いのに絡まれてたみたいだけど」


 二人がそそくさと立ち去るや否やそう声を掛けてくる天美。その声色は少しばかり優しげだ。


「いや…あぁ、まぁね…」


「御堂くん!」


 天美たちの後ろから七瀬ななせさんが走ってこちらにきた。


「あっ、紗奈さなじゃん」


「あれ、栞?御堂くんに何か用?」


 彼女に気付いた長名さんが声を掛けるが、対する七瀬さんはちょっと剣呑な雰囲気を纏わせた。


「そういう訳じゃないけど、ただちょっと…ね」


「ダルいのが御堂に絡んでたからちょっと声かけただけだ、俺はもう行く」


 ばつの悪そうに答えようとした長名さんの言葉を天美が代弁しさっさと行ってしまった。相変わらず彼の周りは賑やかだ。




 それから俺は七瀬さんと二人で帰路につき、先程の出来事を話した。


「何それ、意味わかんない…どうしてそんな酷いこと…」


 先程の出来事を聞いた七瀬さんは不愉快といった表情をした。普通に意味分からないもんな。


「もう関わらないでくれってことじゃないかな?」


 もう今更関わろうという気もないよ。

 俺にそう思わせることが狙いだというのなら大成功だ。


 わざわざ自分が振った相手に追い打ちをかけるようなことをすればだれだって…ね。


「だからって、あの先輩の方もおかしいよ!わざわざ人の悪口言ってさ!しかもあれだけ仲が良かった人の悪口を目の前で言われて、そんな人と付き合うだなんて…観月さんって相当性格悪いよ!」


 あまりにもストレートに言い放つ七瀬さんだが、俺とて否定する気はない。

 俺としてはもう友人として関わろうと気持ちを改めようと思っていたのに…。


「…なんかもう、バカみたいだな。あんなのいちいち気にしてさ…」


 そもそも結局のところ、言ってしまえばこの状況だって自分で作ったようなもの。

 俺がどれだけ観月さんを悪く言おうと、彼女に振られた事実は変わらないし、独り善がりでバカな俺も変わらない。

 どれだけ自分を磨こうが、何一つ変わっちゃいないんだよ…。


「好きになるのが間違いだったんだよ」


「そんなことない!」


 俺の投げやりな言葉を七瀬さんが強く否定する。その瞳は少しだけ潤んでいた。


「私知ってるんだよ?御堂くんが観月さんに少しでも良く見てもらおうと努力してたの」


「え?」


 俺と七瀬さんはそこまで接点がある訳では無いはずなのに、どうしてそこまで分かるんだ?

 ひけらかしていた訳でもないのに。


「すぐ分かるのは身嗜みだよ、ちゃんと清潔感があるように整えてるでしょ?髪とか、制服だってそう。見たら意外と分かるんだよ?」


「へぇ、そういうものなんだ?」


 確かに気を付けていたけれど、いつの間に気付いたんだろう?不思議なものだね。


「そうだよ。それに御堂くんって細かい気遣いもできるし、困ってる人を助けたりしてるでしょ?」


 そうなの?いや分からないけど…。

 意識したことはないからなんとも言えないけど、困ってそうな人がいたらそりゃ声を掛けることだってあるさ。


「…私ずっと御堂くんのこと見てたから」


「え?」


 ずっと見てた。

 その言葉の意味するところが分からないほど鈍感って訳じゃないけど、先程のこともあってあまり自信が持てない。


「私は、ずっと御堂くんのこと…好きだったから…ううん、今でも好きだよ」


 恥ずかしそうにそう告げた彼女は…とても綺麗だった。



 観月さんよりも…ね。

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