第69話 貴女を永遠に愛する〜結婚式〜(2)

「誰もいないと、しん、としていますね」

「うん、皆、手伝いという名目で、王城に行っているからな」


 ブルーベルとアルヴァロ、それにユニコーンは、ヴィエント公爵邸に着いたが、さすがにそこは人気がなかった。


「あれ、ローリンさん!?」


 ブルーベルはめざとく留守番をしていたローリンを見つけたが、なぜか、ローリンはニコニコしながら手を振って、屋敷の奥へと消えてしまった。


「行っちゃった……。どうしたんでしょう……?」

「邪魔したくない、と思ったんだろう。ブルーベル、おいで」

「え?」


 ブルーベルの体がふわ、と浮く。


「きゃあ!!」


 ブルーベルが慌ててアルヴァロの首にしがみつくと、アルヴァロは素早くブルーベルの膝の裏に右腕を通した。


「奥さん、では、ご案内しましょうか」

「あ、案内って、どどどど、どこへ?」

「私達の寝室へ。まだ、入ったことはないだろう?」

「え、アルヴァロ様!?」

「誰もいないなら、なおのこと好都合」

「きゃあ」


 アルヴァロはブルーベルを抱き上げたまま、ずんずん階段を上がっていく。

 そして、あっという間に、三階にある主寝室へ。

 ブルーベルがそこで自分を下ろしてくれるのかと思っていたら、アルヴァロはどん、と腰でドアを開け、目を丸くしているブルーベルは、そのままベッドに運ばれて行った。


 そっとベッドの上に降ろされて、ブルーベルは、純白のドレスのスカートを広げて、ちょこんとベッドの上に座り込む。


 アルヴァロはブルーベルの左手を取って、新しくはめられた結婚指輪にキスをした。


「ブルーベル、あなたは正式に私の妻になった」


 重々しいアルヴァロの声に、ブルーベルも居住まいを正す。


「は、はいっ……!! どうぞ、これからもよろしくいたします」


 そしてベッドの上で、深々と頭を下げると、くくく、と笑う声が頭の上から降って来た。


「え……と? アルヴァロ様?」


 青い髪をちょっと乱し、明るい茶色の瞳をキラキラとさせたアルヴァロの顔があった。

 瞳に散る青と緑が、まるで星のようだ。


(まあ、男の子ちゃんみたい。ちょっと可愛いわ)


 ブルーベルの顔も、思わずふにゃ、っと緩んでしまった。


「今日から、ブルーベルはここで私と一緒に寝るんだよ。大丈夫?」

「は……い」


 そう答えた唇は、あっという間にふさがれた。


 まるで拗ねるような顔をして、アルヴァロが腕の中にブルーベルを閉じ込める。


「愛している。ずっと、ブルーベルは私と一緒にいてくれ」

「はい、もちろんです。わたしも、愛しています……」


 その時だった。


 アルヴァロは、ぴたりと動きを止めた。

 耳を澄ませて、微妙な顔をする。


 果たして。


「ブルーベルちゃん! ほんっとに綺麗な花嫁姿だったわね! お義母様、もう嬉しくて嬉しくて。自慢の嫁だわ〜〜〜! うふふ、しばらく滞在するからね〜〜〜」

「母上! 結婚式の後湖に帰ったんじゃ」


「いや〜ん、まだ、ベルちゃんと一緒にいるのよっ!!」

「お、お義母様!??」


「ブルーベル様! さあ、お着替えをいたしましょう。今夜はしっかりお支度をして、臨みますからね〜。忙しいですよ。お食事もしなければなりませんし、お風呂も入って、お体のお手入れに……。アルヴァロ様、申し訳ございませんが、そんなわけで、また後ほど」


「ミカ!?」


 アルヴァロは、あきらめた。

 ブルーベルの額にちょこっとキスをすると、大人しく部屋を出て、女性達の手に、ブルーベルを任せたのだった。


 * * *(ブルーベルとアルヴァロの初夜♡をちょこっとご紹介します)


 そして迎えた初夜。


 ミカの指揮のもと、お花で飾られたベッドに、浴室には、お花がたくさん浮かんだフラワーバスが用意された。

 入浴剤を入れられたお湯はまろやかで、ほどよいミルク色に染まった。


 キアラの魔法で、バスタブのお湯は冷めることなく、朝までほっかほか。


 ビヨークは寝室にシャンパンやエルダーベリー水、各種軽食、さらにはお茶のセットまで運び込んだ。


 用意は万端。

 全員が一斉に主寝室から撤退し、キッチンテーブルで慰労会が開かれたそうである。

 

 一方、老家令のローリンは、一人、書斎に引っ込んだ。

 ローリンは、新しく購入した『男性でもわかる! 赤ちゃんのお世話の仕方・主家に赤ちゃんをお迎えする際に役立つ50のヒント・付録〜妊娠中の奥様への正しい心遣いを学ぶ〜』という本を熟読して、長い夜を過ごしていた。


「アルヴァロ様、なんだかキッチンが賑やかですねえ」


 ブルーベルが寝室の窓から外を覗きながら言った。


 確かに、主寝室のある三階がひっそりしているので、一階にあるキッチンから人の話し声や食器のかちゃかちゃいう音、軽やかな音楽の音まで風に乗って聞こえてくる。


「ブルーベル、こっちへおいで。何か飲むか? ケーキにクッキーまで用意してあるぞ」


 アルヴァロが声をかけると、真っ白なコットンの夜着を着たブルーベルが振り返った。


 シャーリングのかかった胸元。

 胸の下からは、ふわりとスカート部分が広がっている。

 肩の上でリボンを結ぶデザインだ。


 お色気いっぱい、といったデザインではないが、清楚なブルーベルによく似合っていて、アルヴァロは妙に嬉しい。


 長い銀色の髪が背中にさらりと流れ、むき出しの首から肩のラインがとりわけ美しかった。


「よいしょ」

「ひゃあ、アルヴァロ様っ」


 アルヴァロの元にやって来たブルーベルをすかさず抱き上げて、膝の上に座らせる。


 アルヴァロも特別な夜着を着ているわけではなく、お気に入りの藍色で厚手のガウン姿だ。


 目元を赤く染めたブルーベルが、青紫色の瞳で、まっすぐアルヴァロを見つめている。


 アルヴァロの表情も自然に緩む。

 ブルーベルの柔らかな頬を両手で挟んで、そっと口づけを落とした。


「昼間の続き。もう邪魔は来ないからね」


 そう言って笑ったアルヴァロの明るい茶色の目は、青と緑の光がきれいで、ブルーベルはもっと見ていたいと思う。


 アルヴァロがそっとブルーベルの肩のリボンを解いた。

 それがまるで、小さな男の子がワクワクしながらプレゼントの箱を開けるかのようで、ブルーベルは(やっぱり、男の子ちゃんみたい)なんて思う。


「ありがとう、ブルーベル」


 キスの合間に、アルヴァロがささやいた。


「アルタイスに来てくれて。私の元に来てくれて。あなたに出会えたことを、私はこれからずっと感謝し続けるだろう」


 ブルーベルの顔に、ぱあぁっと笑顔が広がる。


「わ、わたしもですっ! アルヴァロ様……わたしに大切な居場所を与えてくれて、ありがとうございます」


 アルヴァロは首にかじりついてきたブルーベルの頭をそっと撫でる。

 そして優しくブルーベルの腕を解くと、そっとたくさんのお花で飾られたベッドの上に横たえた。



〜一部のご紹介でした♡どうぞ2人の幸せな夜をご想像ください♡〜

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