第68話 貴女を永遠に愛する〜結婚式〜(1)
「私、アルヴァロ・アルタイス・ヴィエントは、ブルーベル・ドゥセテラを妻とし、
喜びも、悲しみ、苦しみも共に分かち合い、貴女を永遠に愛することを誓います」
「わたくし、ブルーベル・ドゥセテラは、アルヴァロ・アルタイス・ヴィエントを夫とし、喜びも、悲しみ、苦しみも共に分かち合い、貴方を永遠に愛することを誓います」
その日。
ブルーベルは、純白のドレスを着た。
チュールを幾重にも重ねた、王道のプリンセスラインのスカート。
裾の部分には、繊細な刺繍が施されている。
まろやかな肩からデコルテのラインを美しく見せるドレスは、ボディの部分には、小さな水晶が数えきれないほど縫い付けられ、キラキラと輝く。
純白の祭壇を前に立つブルーベルは、純白の美しさを神々しいまでに体現していた。
長い銀色の髪は、シンプルに首の後ろでゆったりと束ねられ、そこに純白のバラの生花が飾られた。
ドレスの背中の部分には、一列に並んだ真珠のボタン。
そして、床に優雅に流れるバックトレーン。
アルタイス王城の大広間で行われた結婚式に参列した人々からは、まるで精霊のようなブルーベルの姿に、思わずため息がもれる。
ブルーベルの隣に堂々として立つアルヴァロは、王弟にして、最強の魔法騎士団長。
魔法騎士団の最上の礼装に身を包んだ。
それは騎士団長にのみ許される、艶やかな黒一色のロングチュニックで、ブルーベルの髪色に合わせた、銀のピンで、マントを留めていた。
「全能の神の御名において、二人の結婚が成立したことを宣言します」
司祭が高らかに宣言する。
アルヴァロは、細い銀の指輪を、ブルーベルの指にはめた。
ブルーベルもまた、アルヴァロの指に、銀の指輪をはめる。
二人がキスすると、一斉に拍手がわき起こった。
その様子をニコニコと微笑みながら見守り、白髪の年老いた司祭は、アルヴァロとブルーベルの頭上に聖水を振りかけ、二人を祝福したのだった。
* * *
「ブルーベル様、ダンスをお願いします!!」
若い男性達の声が、まるで合唱のように響いた。
ダンスのために、大きく開けられた、王城大広間の中央で、ブルーベルとアルヴァロが、ヴィエント公爵夫妻としての最初のダンスを披露した、その後だった。
しかし、にこやかに微笑む国王、テオドールが歩み寄り、弟の手からやや強引に花嫁の手を取ると、居並ぶ男性達を横目に「ブルーベル、ぜひダンスを」と申し込み、ブルーベルは緊張しながらも、無事に踊り終えた。
テオドールはさすがにダンスもうまく、決してブルーベルに負担をかけるようなことはなかったからである。
しかし、ダンスを終えたブルーベルがアルヴァロの元に戻ろうとした時、再び、それが起こった。
「ブルーベル様、ダンスをお願いします!!」
改めて、ずらりとブルーベルの前に並んだ、男性達。
そこには、珍しい礼装姿のビヨークとミュシャはもちろん、大臣のおじさま方、魔法騎士団の騎士達、青年からロマンスグレーまで、あらゆる貴族の紳士方がずらり、と並んでいた。
あまりに驚いて、目がまんまるになってしまったブルーベル。
どうしましょう、と周囲を見回すが、なんとアルヴァロはアルヴァロで、母のキアラと踊った後は、それぞれが花のような、美しい令嬢達にびっしりと取り囲まれていた。
しかも貴族令嬢だけでなく、大臣の奥様方や、騎士団の部下の奥さんも含まれているようだ。
さらに言えば、元々、湖の精霊で、年齢不詳が甚しかった、アルヴァロの母であるキアラも、今日はミッドナイトブルーに、スパンコールがびっしり付いた、華やかなマーメイドラインのドレスでめかし込んでおり、年配の男性に取り囲まれ、大変なことになっていた。
「………………」
「ブルーベル様、驚くことはありません。私、ビヨークは、本日はヴィエント家の家令ではなく、アルヴァロ様の副官、として参列させていただいております。お集まりの皆さんの中で一番、ブルーベル様とのダンスにふさわしい人物であると自負しておりますので、まずは私とダンスを……」
「ちょっとっ!! それを言うなら、僕はブルーベルちゃんの魔法の先生なんですけど!? ブルーベルちゃん、もちろん、僕とのダンスを優先してくれますよね!?」
ミュシャが負けじと、ぐい、とビヨークを肘で押しのけようとする。
ブルーベルはますます困って、眉を八の字に下げてしまった。
「で、でも、ビヨークさん、わたしと踊って、ミカは大丈夫かしら……?」
「げふっ!!」
ミカの名前を出した途端に、ビヨークがむせて、ブルーベルがほっとした時だった。
パカっパカっパカっ!!
大広間にはおよそ不似合いな音に、人々が不思議そうに耳を傾けた時だった。
バーーーーーーーン!!
大広間のドアが何者かに蹴破られて、ご婦人方が一斉に悲鳴を上げた。
しかし、ブルーベルは。
「まあっ! ユニコーンさん…………っ! わざわざ祝福に来てくださったのね? どうもありがとう……」
感動してユニコーンの白い首に抱きつくブルーベルに、一同、びっくりしたのだった。
小さな孫娘のアンナを連れた老大臣は、「アンナちゃん、ほら、見てごらん。本物のユニコーンさんですよ〜〜〜!」と大喜びでユニコーンを指さした。
「ブルーベル!」
ようやく、アルヴァロがご令嬢方を押しのけて、ブルーベルとユニコーンのところにやって来た。
「グッジョブ、ユニコーン! このまま、公爵邸に戻ろう」
「えっ!? 大丈夫なんですか?」
「もちろん。私はもう待てないからね、ブルーベル」
ブルーベルが真っ赤になると、アルヴァロは軽くウインクをして、ブルーベルを抱き上げ、ユニコーンの背に乗せた。
そして、自分もさっとその後ろにまたがる。
「ユニコーン、頼むぞ」
初めてアルヴァロと意見が一致したユニコーンは、ヒヒーン(『了解!』)、と一鳴きすると、前足を高く掲げた。
こうしてユニコーンはブルーベルとアルヴァロを背中に乗せて、嵐のように王城を駆け抜け、新たな伝説を作ったのだった。
その後を、小さな妖精が背中に乗った、純白のフェンリルが駆けて行った。
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